91-19 再出発するプロジェクト
『改良型重力魔法機関開発プロジェクト』は再出発した、と言ってもいいかもしれない。
何しろ、完成したと思っていた『重力魔法機関機能試作2』の働きが、意に沿わぬものであることが判明したからだ。
「あ、でも……」
「ゴウ、どうした?」
「この特性って、『推進器向け』ですよね?」
「おお……」
「確かに……そうだ」
『重力発生機』の向きに重力が発生するという特性は、そのまま推進機関として使える。
図らずも、当初の『推進機関の検討は一旦おいて浮遊機関としての検討、開発を行う』という方針と真逆になってしまった。
つまり『重力魔法機関機能試作2』は推進機関としてそのまま使えるわけで、彼らの努力が無駄になったわけではない、というわけだ。
「ならば『重力魔法機関機能試作2』はこのまま推進機関用に残し、別途検討、試作を作ればいいことになるね」
「はい」
「はい!」
アーノルトの言葉に全員が頷いた。
「では検討会を始めよう。『浮遊機関』に求められる特性を考えてみようと思うが」
「いいと思います」
特に異議も出なかったので『浮遊機関』に必要な特性についての意見交換が始まった。
その結果、
「『浮く』ために使うんだから、常に重力と反対方向に向いていればいいんだろう」
という一言に集約される。
「その場合、曲技飛行はしづらくなりそうだな」
「確かにそうだが……」
ここでゴウが意見を口にした。
「いえ、使い所が違うと思います」
「と言うと?」
「『浮遊機関』は主に輸送機に使うものであって、曲技飛行をするような飛行機に使うものではないと思います」
「うーむ、それはそうだ」
「そして、『重力魔法機関』で飛ぶなら翼はいらないと思うんです」
「一理あるな」
ここでルビーナも意見を述べる。
「ゴウの言うとおり、『重力魔法機関』で飛ぶ物体なら、例えば宙返りの際に背面になる必要はないわよね?」
「うーん、そうかもしれない」
元『航空研』のタイナー・ビトーが頷いた。
「『宙返り』という機動の目的を考えると、機体ごとひっくり返る必要はない……かもなあ」
少し前に手に入れた『空飛ぶ球体』はそういう飛び方をしていた。
「これまでの航空機のような運用をするなら、『重力魔法機関』は『推進機関』として使うべきであって、『浮遊機関』として使うべきではないのでしょうね」
アーノルトも持論を述べた。
「確かにそうかもしれません。『浮遊機関』として使うなら、飛行機ではなく飛行船に搭載すべきでしょう」
タイナー・ビトーのその言葉には全員が同意した。
「つまり『重力魔法機関機能試作2』の『浮遊機関』としての使い方が悪かった、といえるわけですね」
「ゴウの言うとおりね。でもあたしは、飛行機……翼で揚力を発生させて飛ぶ航空機にも使えると思うわ」
「ルビーナ、その根拠は?」
「だって、飛行機の主翼って、常に上向きに揚力を発生しているんじゃない?」
「おお……」
一瞬、それに納得しかけたメンバーもいたが、ゴウは違った。
「いや、そんなことはない。『逆宙』の時は昇降舵で機首を下げると、主翼の迎え角は負になる。そうすると当然揚力もマイナスになるわけで、機体は下へ……正確には『機体の下方へ』の力を受けるわけだ」
「うん……ああ、そうね。その『機体の下方への力』が宙返りをする際の『求心力』あるいは『向心力』になって『遠心力』とつり合うわけね」
「そう思うよ、僕は」
「つまり……飛行機の『浮遊機関』として使うなら、主翼に発生する揚力をエミュレートすべし、ということかしら」
「うん、それでいいと思う」
不意に拍手が行われた。
「うん、素晴らしい! ゴウ、ルビーナ、君たちが出した結論は非常に有意義だ。我々がイメージする『飛行機』とは、まさにそういうものだと思う」
開発したいのはあくまでも『飛行機』であって、『空飛ぶ球体』ではない、とアーノルトは言った。
「それはそのとおりですね」
『アカデミー』は学問と技術を極めるための場であり、ただの模倣は望むところではない、というわけだ。
「その場合、操縦席に『反重力』を及ぼさないほうがいいと思いますよ」
「うん? ゴウ、どうしてよ?」
「いや、操縦者が人間だった場合を考えると、『上へ落ちる』感覚になるんじゃないかと思って」
「…………あ、そうか」
「確かに、ゴウの言うとおりだな」
「それは気持ち悪い……いや、怖いかもしれないね」
「いや、それ以上に、『頭に血が上る』と思うんですが……」
比喩ではなく、生物学的な話である。……どう考えても健康に悪そうだ。
「そう考えると、コクピットは重力魔法の範囲外にするのがよさそうだ」
「いや、パイロットに危険なほどのGが掛かるようなら作動させるのがいいと思うぞ」
「それはいいな」
そんな一幕も。
「つまりは『飛行機用』の『浮遊機関』がほしいということか」
「それが1つよね」
「ルビーナ、どういう意味だい?」
「重力を打ち消す向き……もうわかりやすく『反重力』って呼ぶことにするけど……『反重力装置』っていうのも必要になるんじゃない?」
「うーん、確かにそうだ」
「使い所は選ぶかもしれないが、用途は多いだろうな」
重力場の中で、つまりはアルス上で使うことが前提であるが、これはこれで用途が広い、とメンバーは認識を新たにした。
これまでやってきたことが無駄にならない、というのは素直に嬉しい認識である。
「荷物を軽くする、というだけでも需要はあるな」
「大きな建造物を作る際の部材運搬にも役立つぞ」
「それに、ちょっと趣旨からは外れるけど、墜落事故防止用の『重力魔法の魔法陣』も同じ問題を抱えていると思うわ」
「え……ああ、そうか。背面状態で墜落した場合、役に立たないものな」
「その場合は、常に重力を打ち消す向きに反重力を発生させる必要があるわけか……」
たくさんの意見が出、さまざまな用途を思いつく。
これはぜひとも実用化しないといけないなと気合を入れ直す『改良型重力魔法機関開発プロジェクトメンバー』であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230206 修正
(旧)「『浮遊機関』は主に輸送機に使うものであって、戦闘機に使うものではないと思います」
(新)「『浮遊機関』は主に輸送機に使うものであって、曲技飛行をするような飛行機に使うものではないと思います」




