91-18 落とし穴
8月の最終日である29日、『重力魔法機関機能試作2』が完成した。
2人掛けソファーほどもあった発生装置部分はゴウ、ルビーナ、エイラ、グローマらの努力により、10キロ入りみかん箱くらいにまで小さくなった。
実験の結果、発生できる重力は0Gから2.1G、効果範囲は最大で半径6.5メートルまで。
『魔力素ー魔法変換効率』はおよそ62パーセントとなった。
「これなら、実機に積んで試験できるかな?」
「なら、『ストーク』を使いたいですね」
『ストーク』は、『航空研』とゴウ、ルビーナが共同で開発した『密閉型推進機関』を用いた大型輸送機である。
太平洋戦争時の二式飛行艇や輸送機Cー1に似た形をしている。
全長30メートル、全幅32メートル。全備重量は12500キロ。
「うーん、この機能試作2じゃあ効果範囲が足りないな」
アーノルトが残念そうに言った。
「そうですね。そうすると『フリューゲル1』でしょうか」
「そうだなあ……そうなるなあ」
ゴウの意見にアーノルトは頷いた。
フリューゲル1は量産型フェニーチェの1番機をゴウとルビーナがカスタマイズしたもので、基本構造は量産型フェニーチェ(フェニーチェ1)と同じである。
量産型フェニーチェ(フェニーチェ1)の重量はおよそ10トン。『フリューゲル1』もほぼ同じ。
もっとも、『重力魔法』の利点は、効果範囲内にあるもの全てに働きかけることで、重さは問題にならないことだろう。
「問題は、『効果範囲』と『発生できる重力』、それに『安定度』ですね」
「うん。ゴウが言うように、まずはその3つを検証しよう」
「はい」
そして実験の詳細を詰めることとなった。
「『フリューゲル1』にはエアリア03の『AR03ー001』に乗ってもらう」
AR03ー001はフェニーチェ1用に開発されたパイロットゴーレムであるのでこういう時には頼りになる。
『フリューゲル1』には墜落事故防止用の『重力魔法の魔法陣』も搭載している。
『重力魔法機関機能試作2』は機体下部の荷室に設置。
操縦席から装置を操作できるように魔力配線も行った。これにより、操縦席から『重力魔法機関機能試作2』を制御できる。
その他、いくつもの追加設定を行った後、いよいよ試験飛行である。
「よし、テスト開始」
プロジェクトリーダーであるアーノルトの号令を受け、エアリア03『AR03ー001』は『重力魔法機関機能試作』を起動する。
まだ出力は0のままだ。
「重力、0.5Gまで1分掛けてマイナス方向で発生」
『了解。ー0.5Gまで1分を掛け重力を発生させます』
エアリア03『AR03ー001』はアーノルトの指示を受け、ゆっくりと重力を発生させる。マイナス方向なので反重力と言ってもいい。
反重力の発生に従い、着陸脚のサスペンションが少しずつ伸び上がっていくのがわかる。
1分後、『フリューゲル1』の重量は5トンを切るくらいになっている……はずである。
「よし、その状態で飛べ。注意してな」
『了解。注意しつつ飛行を始めます』
機体重量が半分になっているため、かなり操縦性が変わるはずだ。
が、その点をわきまえた上での操縦なので、『AR03ー001』は巧みに操縦を行い、半分の滑走距離で『フリューゲル1』を離陸させた。
『こちら『AR03ー001』。操縦性は良好です。出力は65パーセントで100パーセント相当の飛行が可能』
「なるほど」
慣性があるので、機体重量が半分になっても推進器の出力は半分にならないのだろう、とアーノルトをはじめ、プロジェクトの全員が思った。
「それでは高度を1000メートルまで上げ、水平旋回と宙返りを行ってみろ」
『了解』
あっという間に高度を上げていく『フリューゲル1』。
しかし。
『こちら『AR03ー001』。アーノルト様、報告してよろしいでしょうか』
高度1000メートルに上昇する前に『AR03ー001』が連絡をしてきた。
「うん、どうした?」
『はい。上昇時には搭載した『重力魔法機関機能試作2』が発生する反重力の方向が変わりますので、機体の挙動が変化しました。このまま機動を行うのは得策ではないと判断致します』
「そういうことか……」
アーノルトと『AR03ー001』の会話を聞いたゴウとルビーナは顔を赤くしたり青ざめたり。
「あ、そうか……!」
「重力魔法機関を作ることにこだわりすぎて、視野が狭くなっていたわね……!」
「同感だ、恥ずかしいよ」
そして彼らに少し遅れてプロジェクトメンバーたちも意味を理解した。
「そ、それはそのとおりだ」
「むむむ……」
「そんな落とし穴があったとは……」
「反省せねばな……」
要するに、今の『重力魔法機関機能試作2』は、本体の向きによって発生する重力の方向が決まってしまう。
これだと、取り付けた機体が傾いた際に、発生する重力の向きも変わり、効果が変化してしまうわけだ。
わかりやすい例を出すと、垂直に上昇する際には『重力魔法機関機能試作2』は何の効果もない。
そればかりか垂直に上昇するのを妨げることになる。
「背面飛行したら0Gじゃなく2Gになるわけだな」
「盲点だった」
「恥ずかしい限りだ……」
『重力魔法機関』を作ることにばかり意識が向いていた結果、こういうことになってしまったと、アーノルトを含めたプロジェクトメンバーは反省したのであった。
「『AR03ー001』、とにかく着陸してくれ」
『了解』
実験は中止である。
『AR03ー001』は危なげなく『フリューゲル1』を着陸させたのであった。
* * *
「さて、反省会と、これからどう改良しなければならないかの検討会を始める」
アーノルトが言った。
『改良型重力魔法機関開発プロジェクト』は視点を変えて再検討を始めたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230205 修正
(誤)『こちうら『AR03ー001』。アーノルト様、報告してよろしいでしょうか』
(正)『こちら『AR03ー001』。アーノルト様、報告してよろしいでしょうか』




