88-15 カスタマイズ その2
「ええと、『熱線収束砲』って、要は火属性魔法をパラボラ反射鏡で収束させて威力を増そうとしたわけよね」
「そうなるな」
ゴウとルビーナは早速新武装の開発に取り掛かった。
「最大の問題は小型化だと思うのよ」
「賛成だ」
「大型化する最大の原因はパラボラよね」
「うん」
「つまり、最初から熱量の高い火属性魔法を使えば、パラボラは小さくて済むわけよね」
「そのとおりだ。ここは『炎の槍』を使ってみようか?」
炎の槍は火属性魔法上級の下である。槍状の炎を発射する魔法だ。
元々収束率も高く、炎玉よりも規模は小さいが速度が高い。が、距離に反比例して威力は弱くなる。
「高速、というのはいいわよね」
「うん。これをもっと収束させれば、熱線砲になるかな?」
「とにかく収束が大事ね」
「あと、『魔法障壁』では防げないようなものも欲しいな」
「実体弾ね。……だとすると『矢』かしら」
「だね。短くていいから、矢を撃てるようにしよう」
「でも、高速で飛んでいたら風に煽られて真っすぐ飛ばないどころか吹き飛ぶんじゃない?」
「それは思った。だから、相手の直前まで『風の障壁』でパイプを作って、その中を飛ばしたらどうだろう?」
「難しそうだけど面白いわ」
「あと、範囲攻撃は弱い『雷の洗礼』かな」
「いいわね。非殺傷なら……確か『電流値』を制限すればいいんじゃなかった?」
「だと思う。あとでジン様かエルザ様に確認しよう」
「ええ」
と、こんな感じで相談が進んでいった。
* * *
少し早めの夕食後、仁はエルザと相談していた。
「経理を任せられる自動人形が、必要かも」
エルザが仁に提案する。
「だな。……ベースは『アヴァロン』標準の自動人形でいいかな?」
「ん。制御核のグレードを上げて、然るべき知識を与え、思考ルーチンを構成すれば、いい」
「と……すると…………」
仁の脳裏に浮かんだ該当者は1人。
「……カチェアだな」
「カチェアさん、なら適任」
カチェアの経理・事務能力は『仁ファミリー』も一目置くほどのもの。
うまく応用できれば、素晴らしい『経理自動人形』ができると思われた。
* * *
そこで仁はトマックス・バートマンに話をつけに行った。
『人の世界に寄り添うのは人である』それは至極もっともであるが、それに縛られて現実をおろそかにしてはいけない。確かに『人』が行うことは大事であるが、それで実務が滞ってしまうのは本末転倒である、といって説得。
「なるほど、仰ることいちいちごもっともです。……それでは、是非お願いします」
トマックス・バートマンは納得してくれ、10体の『アヴァロン型自動人形』を使わせてもらえることとなった。
もっとも、仁の改造により飛躍的に性能が向上することがわかっているのだから、断るほうがどうかしているともいえる。
「よし、やるぞ」
午後6時の『アヴァロン』工房。
エルザはメルツェに付き添って見学に行ったので、礼子を助手に改造を開始。
まず10体全部をバラし、骨格の調整、関節の摺動部へのアダマンタイトコーティングを行う。10分。
魔導神経線の複線化、魔法筋肉の強化。10分。
動作バランスの見直し、魔素変換器と魔力炉のチューニング。5分。
そしていよいよ『制御核』の換装だ。
「カチェアの出番だ」
「え、ええと、私、何をすれば……?」
礼子に頼んで『魔結晶』を『ハリケーン』から取ってきてもらうついでに、カチェアを呼んでもらったのだ。
「ええとな、実は……」
「はあ、経理のシーケンスをこの自動人形に加えたいというんですか」
「そういうことだな。協力してくれるか?」
「それはもちろん。で、具体的には何を?」
「カチェアの知識を『知識転写』でこの魔結晶にコピーさせてくれればいい」
「はい、それでいいのなら」
「ありがとう。それじゃあ『知識転写』レベル5、マイルド」
コピーは一瞬である。
「もう終わったんですか?」
「ああ、終わった。ありがとう」
「どういたしまして……といいますか、協力した実感がないんですが」
「いやいや、これでこの10体は『経理自動人形』として、各研究室をサポートしてくれるはずだ」
説明しながらも仁は自動人形の制御核を作製していく。
3分ほどで完了。
「よし、礼子、これを取り付けていこう」
「はい、お父さま」
取り付けは礼子と2人で行い、1分。
顔は標準のまま、いじらないが、髪色だけ緑から青緑に変える。
イメージはあまり変わらないが、よく見ると違いが分かる程度である。2分。
1時間も掛からず、改造は終わったのである。
「完成だ」
「相変わらず速いですね……」
感心するカチェア。
慣れてきたので驚くには至らない。
「それじゃあ起動してみるか」。……『起動』」
「はい」
「はい」
「はい」……。
10体の自動人形が起き上がった。
「調子はどうだ?」
仁の問い掛けに、10体は『問題なし』と答える。
「よし。それぞれ、元の名前があったはずだな?」
はい、と10体全員が答えた。
元の名前は『AM021』から『AM030』だという。
「今日からそれぞれ『オーグ』1から10とする」
「はい、承りました」
「よし。……カチェア、何か経理とか数学とか、難しそうな質問をしてみてくれるか?」
「え? いきなり言われても……そうですね、『現金の実際有高が帳簿残高よりも 50トール不足していたので、現金過不足で仕分けをしていたのですが、決算においても原因不明のままでした。 この時の決算時の仕分けは? 』」
「雑損が50トール、現金過不足が50トールですね」
『オーグ』10体全部が同じ答えを異口同音に答えた。
「合っていますね」
「そうなのか」
仁にはさっぱりわからなかったのだが、カチェアが言うのならそうなのだろうと納得しておく。
それからもカチェアは幾つかの問題を出し、その都度全員が正解していた。
「ジンさん、これならすごいです。きっと楽になります」
「そうか、それならよかった」
カチェアのお墨付きをもらえて仁もほっとしたのであった。
そもそも現代日本においても経理への負担が大きく、人材を育成するのが大変ということもあって問題となっている企業も多いようだ。
その点、ここ『アヴァロン』では仁にこうしてサポートしてもらえるだけマシなのかもしれない。
とにかく、この日を境に『アヴァロン』の経理業務が好転したのは間違いない。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20220806 修正
(誤)
「うん。つまり、最初から熱量の高い火属性魔法を使えば、パラボラは小さくて済むわけよね」
(正)
「うん」
「つまり、最初から熱量の高い火属性魔法を使えば、パラボラは小さくて済むわけよね」
(誤)「うん。これをもっと収束させれば、熱戦砲になるかな?」
(正)「うん。これをもっと収束させれば、熱線砲になるかな?」
(誤)「いやいや、これでこの10体は『経理ゴーレム』として、各研究室をサポートしてくれるはずだ」
(正)「いやいや、これでこの10体は『経理自動人形』として、各研究室をサポートしてくれるはずだ」
(旧)「実弾ね。……だとすると『矢』かしら」
(新)「実体弾ね。……だとすると『矢』かしら」




