88-12 弾み
資材が届いたことで、『フェニーチェ』の量産に、一気に弾みがついた。
「さあ、やるぞ」
一晩ぐっすり休んだ『フェニーチェ量産化プロジェクト』の面々は元気いっぱい。
下準備は万端整っており、素材が来れば即加工を始められるようになっていた。
「よーし、それはこっちにくれ!」
「こっちはできたぞ、そっちはどうだ?」
「今できたところだ、加工しよう」
「よっしゃ、まかせとけ」
主に『航空研』の者たちが助っ人にやって来てにぎやかな作業風景である。
ゴウはこちらで黙々と手伝いをしていた。
* * *
一方、『ゴー研』のエイラは、パイロットゴーレム『エアリア03』を作るべく、助っ人のグローマとあれこれやっていた。
「ボディ強度は今のまま、反応速度はもうちょっとだけ上げたいよなあ」
「あ、それなら魔導神経線を太くするといいわよ。もちろん制御核側の閾値も調整してね」
「え?」
「ミスリルをケチって必要最低限の太さにすると抵抗が大きいから、魔力信号が流れにくいのよね」
マイクロプロセッサの処理速度を上げたい時と少し似ているかもしれない。
0ー1のデジタル処理を行う際、高電圧低電流で行うと、0を表す低電圧から1を表す高電圧(正論理の場合)に移行する際の『立ち上がり』に時間が掛かるため、電圧を下げて電流を増やすという手法があった。
0Vー5Vより0Vー3.3Vというように。
ただ、これを行うと消費電力が増え、発熱がものすごいことになる(電力W=電流iの自乗掛ける抵抗値r)。
そのため、今は低電力で高速なICが開発されている。
閑話休題。
とにかく、それに似た理論をルビーナは説明したのである。
「なるほど……」
「コストアップになるなあ」
少ししか使わないとはいえ、ミスリルは高価である(グラムあたり4000〜5000トール)。
比重は10.3なので、水の約10倍。
展性・延性(平らに広げたり長く延ばしたりできる性質)もあるので、魔導神経線にはおおよそ10グラムくらいを使う。
つまり5万トール、日本円に換算して50万円だ。倍の太さのものを使うと20万トールとなる。これは民生品としては見逃せないコストアップである。
「なので、ルビーナさんの提案はちょっと採用できないかな。ごめん」
「ううん、気にしないで。そっか、コストか……」
自分が今までいかに恵まれた開発環境にいたかを再認識したルビーナであった。
「でも、ルビーナさんの意見はすごく参考になったよ。な、エイラ?」
「ああ。少しだけ閾値を下げれば、反応を早められそうだな」
「だが、それをやると標準化からは遠くなってしまうがね」
「ぐ、そうだよな。グローマの言うとおりだ。一品物のカスタムメイドならいいんだろうが……」
その会話を聞いたルビーナは、量産化の難しさを改めて感じたのである。
* * *
さて、仁である。
『アヴァロン』を回ってフォローをしている彼だが、今日は朝から『フェニーチェ』の量産ラインの見直しをしていた。
「やっぱりこいつだな」
量産化の肝といっていい装置。
『魔導工作機』の簡易版ともいえるそれは、『プログラミングした形状に材料を『変形』する』ための魔導機である。
それが10台並んでいるのだが、共通する特徴として、『変形』が遅いことを仁は見抜いていた。
その原因は寸法をフィードバックし、調整を行う『補助魔導頭脳』の性能が低いせいである。
「うーん……おおっぴらに改造はできないから……『純化』『結晶化』『書き込み』……これでよし」
性能が低い原因の1つである、使われている魔結晶の純度を高め、もう一度書き直しを行った。その際に、魔導式の最適化も行っておく。
いわば『ファインチューニング』である。
とはいえ、この整備を行ったことで、3割の効率アップが実現されている。
* * *
メルツェはエルザに付き添われて『アカデミー』ではなく『アヴァロン』の中枢を見学していた。
これはメルツェのたっての頼みによる。
彼女は高度な学問を究めんとする『アカデミー』よりも、日夜この世界を守るため奮闘しているトマックス・バートマンをはじめとした裏方の仕事を見てみたいと考えたのである。
『一般人お断り』の部署も、エルザと一緒なのでほぼ顔パスである。
そこでエルザとメルツェは、『総合管理局』『資材管理局』『技術管理局』『生産管理局』『会計局』『医療局』『被服局』『総務局』『外務局』『食料局』『設備局』『建設局』『軍務局』などを見て回っていた。
その上でメルツェは1つの疑問をいだいた。
「エルザ様、『総合管理局』の人員が少ないと思うんですけど」
「ん、正解。よく見ている」
「ありがとうございます。でも、どうしてですか?」
「うーん、1つには『適材適所』という方針の弊害、ともいえる」
「どういうことですか?」
「つまりは適任者不足」
「ああ、そういう理由で……」
『アヴァロン』では、極力『適材適所』という思想を貫いている。
人間には適性(向き不向き)があり、できるだけ適性の高い役職に就けるようにする、というわけだ。
これに本人の希望も加わると、『総合管理局』は常に人手不足、ということになるのだった。
「でしたら、魔導頭脳でサポートして差し上げたらどうでしょう?」
「うん、それも検討された。けれど、『人の世界に寄り添うのは人である』というような意見が出て却下された」
「でも、そのせいで少ない人たちに負担を押し付けるのって変ですよ!」
「ん、その感情は正しいと思う。だからあの人はマノンとシモーヌを、贈った」
「そうですよね……」
この時、メルツェの中に、小さな想いが芽生えたようである。
* * *
量産ラインの見直しを終えた仁は、『アヴァロン』の管理魔導頭脳『アーサー』の下を訪れていた。
「アーサー、調子はどうだ?」
『はい、『製作主様』。機能は問題ありません。99.9パーセントを維持しています』
「そうか、それならいい。……が、一応メンテナンスを行うぞ」
『お願いいたします』
というわけで仁は『アヴァロン』の管理魔導頭脳『アーサー』の整備を行った。
たっぷり15分掛けてそれは行われ、
「どうだ、調子は?」
「はい、機能が2.5パーセントアップしました。ありがとうございます」
という、好結果をもたらしたのであった。
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