88-10 サルベージ
資材を運ぶ船が沈没したという情報は、またたく間に『アヴァロン』中に広まった。
「沈没!? 間違いないのか? 乗員はどうなった!?」
「はい。飛行船部隊が見届けました。なんとか乗員は全員を救出できたのですが、船は沈んでしまったとのことです」
「なんということだ……だが、乗員が無事だったのは不幸中の幸いか……しかし……」
頭を抱えるトマックス・バートマン。
そこに、次なる知らせが入る。
凶報の次は朗報だ。
「デウス・エクス・マキナ殿がお着きです」
「お、おお、そうか」
「そして、すぐに船のサルベージに取り掛かりたいということです」
「助かるな」
「ついては、沈んだポジションをできるだけ正確に教えてほしいとのこと」
「わかった。すぐに手を打つように。……これはシモーヌに頼もう」
「承りました」
シモーヌは仁が作った秘書自動人形であるから、情報の受け渡しは人間よりも正確だろうというのがトマックスの考えであった。
そしてそれは正しい。
空港に降りた『アリストテレス』では、従騎士レイがシモーヌから情報を受け取っていた。所要時間0.3秒。
「よし把握した。蓬莱島マップに換算して西経56度、北緯3度のあたりだな」
さすがに『アヴァロン』の飛行船では『度』のあとの『分』『秒』までの数値は測定しきれていなかったのである。
* * *
蓬莱島でも老君が出動準備を行っていた。
もちろん海中軍である『マーメイド部隊』の、である。
『マーメイド501から600、出撃準備。マーメイド501は今回の作戦の隊長として行動せよ』
『了解』
『15秒後に100体を当該水域に転送する』
『了解』
これから先は水中との会話なので、初めから全て『内蔵魔素通信機』を使う。
そしてマーメイド部隊は送り出された。
* * *
そして船が沈んだ海域。海面上50センチのところに100体のマーメイド部隊が現れた。
彼女らはすぐに落下して海中に。
『まずは船の捜索です。503は504と。以下、2体1組で捜索をしなさい。私は502と組みます』
『了解』
『了解』
49組のマーメイドたちは八方へ散っていった。
同時に老君も『覗き見望遠鏡』で探しているので、捜索体制は万全である。
だが。
1時間が過ぎても、沈んだはずの船が見つからないのだ。
『これはおかしいですね。老君に進言して、捜索方法を変えたほうがよさそうです』
* * *
『ふむ、確かに。このあたりの海流はそれほど速くないはずですから、見つからないというのは異常です』
マーメイド501からの進言を受け、老君は捜索方法を変えることにした。
『セルロア王国の船には、何らかの魔導機が積まれているはずなので、その痕跡を探しましょう』
との判断で『魔力素探査機』を起動。
これは自由魔力素の分布を3次元的に捉える装置だ。
動いている魔導機があれば、そこの自由魔力素分布に影響があるはずである。
老君は当該海域の周辺200キロに対し『魔力素探査機』を適用した。
当然、陸地の反応は無視する。
また、『マーメイド部隊』の反応は自動的に無視するようにした。
そうして走査すること10分。
『これは……?』
南へ向かって移動する反応を見つけたのである。
海面下20メートルほどを、南へと移動している。時速はおよそ30キロ。
『覗き見望遠鏡』で調べると、どうやら捜索中の船である。
それを、水中用と思われるゴーレムが20体取り付き、曳航しているようだ。
『マーメイド部隊に急行させましょうか……いえ、新たに100体送り込むほうが早いですね』
ということで、念の為に待機させていた『マーメイド601』から『マーメイド700』までの100体を転送機で送り込んだのである。
* * *
『目標発見。セルロア王国の船に間違いなし』
『水中用と思われるゴーレム20体が取り付いている模様』
『速度、時速29キロで南南東へ向かっている』
報告が次々と老君に入ってくる。
『了解。まずはその20体を無力化せよ』
『マーメイド部隊、了解』
こちらの100体のリーダーは『マーメイド601』。
その指示により、60体が犯人ゴーレムを引き剥がしに掛かる。
残り40体は船を取り返す役割だ。
ここに、『マーメイド部隊』と『犯人ゴーレム』の水中戦闘が開始された。
マーメイド3体が犯人ゴーレム1体を相手取る。
余裕かと思いきや、犯人ゴーレムもなかなか性能がよく、鎧袖一触、とはいかなかった。
取り付いていた20体のうち10体が船を離れ、マーメイド部隊に襲い掛かってきた。
この時点で彼我の戦力差は6対1。
にもかかわらず犯人ゴーレムは奮闘し、マーメイド部隊が10体を無力化するまでに6分を要したほどだ。
こうなるともう戦力差は絶望的に開いてしまう。
実質10対1の戦闘とも言えない戦闘となり、犯人ゴーレム20体は10分後に全て無力化されてしまったのだった。
『マーメイド601』は内蔵魔素通信機で老君に報告を行う。
『制圧完了。『魔力素除去器』を使えれば決着は早かったのですが、敵味方入り乱れての乱戦になってしまったため使うタイミングを逸しました』
『了解。それは仕方ないでしょう。まもなくマーメイド501から600もそちらへ到着します。そうしたら協力しあって船を海面へ押し上げてください』
『了解です。その前に、船内の確認はしなくてもいいのでしょうか?』
『それは『覗き見望遠鏡』で確認済みです』
『了解』
5分後、マーメイド501から600が合流した。
200体のマーメイド部隊は協力して船を海面へと押し上げていく。
船の大きさはといえば全長50メートル、総トン数は約350トン。
1体あたりが1.75トンを持ち上げる計算だが、水中なのでもっとずっと負担は小さい。
90パーセント以上が木製の船なのだから。
水よりも比重が高いのは積み荷の鉱石と、一部の構造材、動力部分などだ。
そういうわけで、セルロア王国の船はあっという間に水面へ顔を出した。
そこにはデウス・エクス・マキナ3世の『アリストテレス』が待ち構えており、丈夫なワイヤーロープを海面まで垂らしていた。
マーメイド部隊は、セルロア王国の船をそのワイヤーロープに括り付ける。これで『アリストテレス』は『アヴァロン』まで船を曳航していけるようになったのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220801 修正
(旧)蓬莱島でも老君が出撃準備を行っていた。
(新)蓬莱島でも老君が出動準備を行っていた。
(旧)彼らはすぐに落下して海中に。
(新)彼女らはすぐに落下して海中に。




