88-02 新体制への移行
老子が惑星ヘールを訪れていたその日、『アヴァロン』でも動きがあった。
調査を終えた『ドーサ鉱山』の他にも、採掘量が低下した鉱山は各国にあり、それらも『こそ泥ゴーレム』の仕業かどうか、確認するための作戦が開始されたのだ。
なお、『透明ゴーレム』とか『謎のゴーレム』などと呼んでいたが、『こそ泥ゴーレム』で呼称を統一することになった。
仁たちがそう呼んでいることを聞いたアーノルトからの提案である……これは余談。
「『こそ泥ゴーレム』が、効率……いや、もう『採掘量』と言おう、その『採掘量』が落ちた鉱山のうち、どことどこに関わっているのかを調べなくてはならない」
最高管理官トマックス・バートマンが宣言した。
「そのための許可は既に取ってある。まずはフランツ王国西部のデマトフ鉱山とクライン王国北東部のピグモルド鉱山の2箇所の調査だ。メンバーは追って知らせる」
このような手が打たれた。
「さすがトマックス殿ですね」
アーノルトを通じてこのことを知った老君は、『アヴァロン』が適切な対応をしていることを喜んだのである。
* * *
さて、それとは別に、アーノルトには別の仕事が待っていた。
『アカデミー』学長のセイバン・イライエ・センチ直々の任命である。
「最近、『新技研』に依頼される業務が目に見えて増えており、メンバーの負担が大きくなっていると見ておる。それを改善するため、組織を見直すことにしたのだ」
「はあ」
「『新技術研究室』という曖昧な位置づけをやめ、アーノルト君には『アカデミー技術指導主任』として、より多くの研究者を指導してほしい」
「……わかりました」
幸い、疲れを感じることのない身体であることと、後進の指導は嫌いではないことなどから、アーノルトはこの新たな役割を引き受けたのであった。
同時に、『アカデミー』内の研究室もいくらか再編成された。
その内容としては以下のとおり。
ゴーレム研究室
航空機研究室
魔法陣研究室
魔法学研究室
車両研究室
船舶研究室
医療研究室
土木研究室
農業研究室
化学研究室
天文学研究室
地質学研究室
建築学研究室
植物学研究室
動物学研究室
海洋学研究室
光学研究室
電気工学研究室
通信技術研究室
数学研究室
研究項目にやや偏りがあるが、これは『会議国』の国々ではできないレベルの研究を優先的に『アカデミー』で行っているからだ。
逆にいうと、どこの国でもできるような研究は、『アカデミー』では行ってはいない。
また、上記のうち、ゴーレム研究室と航空機研究室は『新技研』での合併前の形に戻るわけだ。
「組織が二転三転して申し訳なく思うが、過渡期ということで勘弁してほしい」
とは学長の言葉である。
研究室によって所属人員にばらつきはあるが、平均して10名の研究員が在籍しているので、研究者の数はおよそ200人。
見習い、客員なども含めれば250人ほどになろうか。
これ以外にも文化人類学、民俗学、歴史、芸術、食品工学、生活科学、芸術、言語学といった研究室もあるが、まだ十分に機能してはいないのが現状である。
『アカデミー技術指導主任』として、チェルの他に秘書自動人形、『サポ03』と『サポ04』の2体が付けられた(『アヴァロン』製)。
「いろいろと大変だろうが、貴殿以外に任せられる人材がおらんのでな。よろしく頼む」
「微力を尽くします」
こうして、アーノルトは『アカデミー技術指導主任』に就任し、また同時に『アカデミー』は新体制となって再スタートを切ったのであった。
* * *
そして、新体制となった『アカデミー』の最初の仕事は『波長変換ゴーグル』の実用化である。
これは、例の『こそ泥ゴーレム』の『隠蔽結界』を無効化するもの。
アーノルトは『技術指導主任』の権限を用いて、各研究室からメンバーを指名し、プロジェクトを立ち上げた。
光学研究室からは副室長のヒキ・カリス。
魔法学研究室からカツマ・イホウ。
そしてゴーレム研究室からグローマ・トレー。
この3人が『波長変換ゴーグル実用化』プロジェクトのメンバーとなる。
「ゴーレムVー12号の報告からすると、『隠蔽結界』は特殊な結界を使い、対象の背後にある風景を見せているものと思われる」
アーノルトが説明をしていく。
「その場合、結界内にいる者からも外が見えなくなるはずなんだ」
「確かにそうですね」
「であるから、結界は可視光線だけに限定していて、赤外線や紫外線は透過していると考えられるのさ。これはVー12号の記憶している情報とも一致したよ」
そもそもVー12号の視覚センサーは『隠蔽結界』を透過していると思われた。
「グローマに来てもらったのはここだね。ゴーレムの視覚センサーから発展させるというルートがいいのではと思ったんだよ」
「なるほど、グローマ殿、よろしく頼む」
「もちろんだ」
「そして魔法学研究室には、こうした結界の再現と改良を研究してほしい」
「わかりました!」
魔法学研究室のカツマ・イホウはやる気満々であった。
「ゴーレムの視覚センサーは赤外線、可視光、紫外線を網羅しています」
グローマはヒキ・カリスに説明している。
「それより広い範囲については?」
「赤外線より波長が長い電磁波といえば電波ですね。電波には対応していません。また、紫外線より波長が短いものはX線やガンマ線ですが、こちらにも対応はしていません」
「なるほど」
「で、どうです? 波形を変えずに波長を変えられますか?」
「できそうですね」
「ええっ、できるんですか?」
「はい。ゴーレムの視覚センサーの構造を利用します。取り込んだ光学データを一度結像させ、それを改めてセンサーで『視る』。これなら……」
「なるほど、『結像』が肝ですね?」
「そういうことになります」
このようなやり取りを経て、『波長変換ゴーグル』は試作され、その機能を検証されていき、量産試作へと発展していくのであった。
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20220724 修正
(旧)ー
(新)研究室に『通信技術研究室』を追加。
(旧)センサ
(新)センサー
4箇所修正。




