86-38 容疑者?
「おや、ペギーさんではないですか。どうです、お仕事の方は?」
『販売代理店』へ行くと、店長のマオリクスが声を掛けてきた。
「こんにちは。いろいろ調査しているんですが、なかなか進展しなくて……」
「大変ですね。出来ることがあれば、協力いたしますよ」
「ありがとうございます。……こちらは同僚……といいますか先輩のゼーガ・ランバンです」
「ゼーガ・ランバンです、よろしく」
「ああ、こちらこそ。店長のマオリクスです」
店長の態度を見ていると、まったく疚しいところがないように見えるな、とゼーガは感じている。
そこで、探りを入れる意味も含め、ストレートに申し入れることにした。
「今日は、お宅で扱っている制御核の調査をお願いしたいと思いまして」
同時に、『世界警備隊』の身分証も見せ、これが公務であることを強調する。
「ええ、それでしたらどうぞどうぞ」
店長は快く調査を承諾したのである。
これはペギーが店長と一緒に行動していた際、悪感情を抱かれなかったことによるもの。
ペギーの手柄と言えた。
「さあ、どうぞ」
「それでは、お邪魔します……」
ペギーとゼーガは店長の案内で、制御核を梱包している部屋へとやって来た。
「どうぞ、ごゆっくり調べてください」
「では、遠慮なく」
ペギーとゼーガの2人は手分けして部屋の中を調べていく。
未加工の『光属性』魔結晶の入った箱、制御核に加工済みの魔結晶が入った箱。
そしてペギーは『謎の手紙』に書かれていた『銀色のトレイ』を手に取った。
「これは……?」
べギーは、多少ではあるが工学魔法の心得がある。それゆえこの作戦に起用されているのだ。
その『感覚』に、引っ掛かりがあった。
「そのトレイが何か?」
店長の問いかけに、ペギーは問いで返した。
「これは標準の道具なんですか?」
「え? いいえ、心当たりがありませんね……」
店長の表情や態度から、それは嘘ではなさそうだ、とゼーガは判断した。
彼は、そうした判断力が優れており、そこを見込まれてこの仕事に就いているのだ。
「だとすると、ここで仕事をしている店員さんに聞いてみましょう」
「呼んでみます」
ペギーの言葉に、店長はすぐに応じた。
「おーい、テツヤ!」
「はい、何でしょうか」
「この方たちがお前に聞きたいことがあるそうだ」
その店員はテツヤ・レアーラといい、今年24歳。短く刈った茶色の髪、茶色の目で、中肉中背。
「ええと、このお仕事はいつから?」
質問はゼーガ・ランバンが担当する。
「2年ほどになります」
「お名前がミツホ風ですが……」
「はい、祖父母がミツホ出身なもので」
「なるほど。では、お祖父様の代でこちら……セルロア王国へ?」
「そうなります」
少しずつ確信に近付く質問をしていくゼーガ。
「ここウラウの町にはもう長いのですか?」
「いえ、まだ2年ほどです」
「なるほど」
ここまでの返答に嘘はなさそうだ、とゼーガは判断した。
そしてさらに踏み込んだ質問を行うことに。
「あなた自身は魔法を使えるのですか?」
「ええ、ほんの少しですが」
「ちなみに、どんな魔法を?」
「光属性魔法を、ほんの少し」
「そうなのですね」
そんな会話から店員の裏を探ってみるゼーガだが、特に怪しい反応は感じない。
その間にペギー・ゼノスは『銀色のトレイ』の多層構造を暴いていた。
「先輩、これを見てください!」
「どうした? ……む、これは?」
トレイの2層目に魔法陣が刻まれていたのを、ペギーが見事に分解したのである。
「おそらくですが、『バックドア』を仕込むための魔法陣です。全部は理解できませんが、ここと……ここは書き込みのルーチンですし」
「ううむ……店長さん、このトレイは証拠物件として預からせていただきます」
「え、ええ、ええ! ……い、いったいどうしてこんなものが……」
店長マオリクスは、こんな証拠が出てきたことに狼狽し、顔色を青くさせていた。
そして、当の店員……テツヤ・レアーラはといえば。
「え、え? 俺……いや、私、何も……ど、どうなるんですか?」
がくがくと震えていたのである。
その様子を見て、とても演技ではないとゼーガは感じたものの、『バックドア』を仕込む物的証拠も出てきてしまったからには、最低でも『事情聴取』を行わなくてはならない。
「応援を呼ぶ必要があるな……」
そう判断したゼーガ・ランバンは、こういう時のための『信号発信機』を起動することにした。
これは『救援』もしくは『応援』を要請するための信号を発する魔道具である。
責任のある、また責任を取れる者のみが携行を許されている。
大きさは煙草の箱くらいだ。
この信号を受けた『世界警備隊』は、信号を発した隊員の役割に応じた増援を送り出すことになる。
今回はゼーガ・ランバンなので、方向は『ウラウの町』方面へ。
増援は『拘束』もしくは『逮捕』を支援・補佐するメンバーが派遣されることだろう。
「身に覚えのないことなら心配しなくていいですよ」
震えるテツヤをフォローするゼーガ。
「世界警備隊は冤罪を嫌いますから」
「……ありがとうございます……」
そしてゼーガとペギーは、応援が到着するまで『販売代理店』に滞在することとなったのである。
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