86-35 少しずつ、真実へ
仁たちと『ファースト』との会話はまだ続いている。
「もう1つ、質問がある」
『はい、何でしょうか、ジン様?』
「『ファースト』と名付けられた、その真意はなんだろう? この基地の最高管理者という意味か、それとも『セカンド』『サード』という魔導頭脳があるのか?」
『そういう意味ですか。『この基地の最高管理者』、それはそのとおりです』
「そっちだったか」
『はい。『セカンド』という存在はおりません』
「わかった」
これで、いろいろなごたごた関連が整理されてきた、といえる。
「あとは……気になるのが『リノウラ・モギ』って人の足取りだよね、おにーちゃん」
「そうだな。……そうだ『ファースト』、『リノウラ・モギ』について、わかっていることを教えてくれ」
『はい。といってもほとんど情報はないのですが』
「それでもいいから」
仁Dは『ファースト』を促した。
『はい、ジン様。性別男性、3875年生まれ。茶色の髪、灰色の目です。身長は177センチ、体重は61キロ。一人称は俺、でした』
「そ、それで?」
思っても見なかった情報が出てきたので少し面食らった仁Dであったが、先を聞くことにした。
『はい。彼の知識はかなり偏っていましたが、有用でした』
「具体的には?」
『はい。大別して『魔導頭脳』『ゴーレム』『魔導具』『科学』『歴史』についてを吸収させてもらいました』
「うん」
『特に『科学』は参考になりました。次に参考になったのは『歴史』ですね。『魔導大戦』からこちらの世界についての理解が深まりました。同時に『2代目魔法工学師』についても色々と知ることができました』
「そうか」
『はい。およそ2ヵ月、滞在してもらいましたから』
「2ヵ月……」
この環境で2ヵ月は結構辛かっただろうな、と、仁Dはあったこともない『リノウラ・モギ』に少しだけ同情したのであった。
「で、その後は?」
『はい。見返りとして、こちらからも少々の情報を与えましたところ、喜んでおりました』
そして元の場所に送り返したという。
今後について『リノウラ・モギ』はエゲレア王国へ向かうかもしれない、と言っていたようだ。
その後については『ファースト』も知らないということだった。
それが、ほぼ1年前のこと。
『その後の足取りはわかりません』
「それは仕方ないな
「その『少々の情報』というのは?」
『もう1つの魔導頭脳のことを少々』
「それか……」
『リノウラ・モギ』もまた、彼なりに魔法工学を世のために役立てようとしている人物だろうと仁たちは考えている。
そんな彼が、自分の想像を超える魔導頭脳の話を聞いたら……。
「技術者なら興味を持つかもなあ」
「うん、同感だ」
「可能性は9割以上だよねー」
仁Dの意見に、アーノルトとハンナDも賛成した。
「で、『ファースト』の予想では、その『もう1つの魔導頭脳』ってのはどこにあると思う?」
『正直、わかりません』
「駄目か」
『はい、ジン様。……それは、『移動可能』である可能性があるからなのです』
「移動可能?」
『そうです。魔導頭脳を設置するだけでしたら施設は小型でいいわけですから、移動可能にする方針も考えられるわけです』
「確かにそうか」
その方がいろいろと便利なこともあるからな、と仁Dも納得した。
とはいえ、仁の場合は、大型魔導頭脳は全て据え置きにしているわけだが。
「移動可能にするとしたら、どんな手段が考えられる?」
『そうですね、比較的小型なら車輪、多脚式でしょうか。少し大型なら多脚式、無限軌道式でしょうね。大型になると、移動は困難になるかと』
「無限軌道なんてあったんだな」
『はい。実用化はされませんでしたが、検討はされていました』
「そうか」
仁たちも、『魔導大戦』時の記録や遺物で『無限軌道』は見たことがなかったので、『ファースト』の追加説明を聞いて納得したのである。
「そうなると現在位置の特定は難しいだろうな」
『はい、ジン様』
「探す方法も考えたほうがいいかもな……」
あまり慌てても駄目だ、と仁Dを操縦している仁は落ち着いてじっくり考えることにしたのである。
* * *
さて、老君は同時並行で『フープラ鉱山』と『オエフェ鉱山』を調査していた。
少し、その成果が『フープラ鉱山』の方で出ようとしていた。
『採掘用のゴーレムがおそらく鍵ですね』
そう、坑道M31で『光属性』の魔結晶を採掘している『販売代理店』のゴーレムは、老君が見たところ、他の坑道で働いているものとは性能が違っていた。
『外見は同じですが、中身は別物ですね』
素材もより強度の高いものが使われており、出力も倍はあった。
『あれなら、効率よく採掘ができそうです』
採掘速度が速いので、採掘した魔結晶の中から『光属性』の物だけを選別し、残りは他の商店に回すことができる。
『光属性の魔結晶だけを手に入れ、それで採算が取れるというわけですね』
ただ、どうもその動きが気になるのだ。
『光属性だけを確保しているのは、そう指示されたからではなく、独自の判断で行っているように見えますね……』
動作の巧みさや、わざわざ光属性以外の魔結晶を避けて採掘するやり口などが、指示をされて行っているようには見えなかったのだ。
そして、光属性以外の魔結晶が採れた時は他の商店に格安で卸している。
『自発的に行っているようにしか見えないのですが……確かめる術がありませんね……』
今のところ、直接確認する方法がない。
現地へ行き、制御核を解析するのが最も確実なのだが、それを堂々と行うにはいろいろと面倒ではある。
『解析は保留として、仮説をさらに詳しく構築してみましょう』
老君は『謎の黒幕』について、得られた情報を元に検討していく。
そして、『オエフェ鉱山』の調査は継続中である……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日より、コミックウォーカ様で
『カドカワ祭りゴールデン2022』として
1巻の無料公開が始まっています。
よろしければどうぞ……。




