85-11 クェント村到着
「ああ、やっと着いたか……」
地面に降り立ったグースは、ほぉっと深い溜め息を漏らした。
ここはセルロア王国東端、クェント村にほど近い平原。
緯度は北緯25度ほどだが、高原なので爽やかな気候である。
仁の『ハリケーン』はその平原の一角に着陸している。
操縦士のホープを留守番に残し、仁たちはクェント村へ向かうことになる。
仁、エルザ、礼子、サキ、グース、ゴウ、ルビーナ、メルツェの8人は旅人らしく手荷物を持って歩き出した。
名目上は調査行。
その立役者の1人であるサキは、さっそく何かを見つけたようだ。
「ふうん、この辺の地質は……」
興味深そうにサキは足元の土を手でつまみ上げて観察している。
「……ボーキサイトだね」
ボーキサイトはアルミニウムの原料となるが、単一の鉱物ではない。
地球においてはギブサイト、ベーマイト、ダイアスポアなどの鉱物が混ざり合って地表近くに分布している。
そして、ここアルスにおいても同じ。
かつてサキはトスモ湖湖畔でボーキサイトを発見したことがある。
そして、ここでもまた、ボーキサイトを見つけたのであった。
「早速来たかいがあったよ!」
サキはいそいそとサンプルを採取し、瓶に詰めた。
「このことをセルロア王国に報告すれば、ここに採掘場ができるのかな?」
「そうなるかもな」
サキの質問に答えながら、仁はのどかな風景を眺めた
「そうなると、この風景も一変するかもな」
「うん……そうだね」
サキも、仁が何を言いたいか理解したようである。
「ボーキサイトの産地であることを報告するのは保留にしておこうかな」
「うん……とはいえ、アルミニウムやアルミナの用途はあまりないから、大規模な採掘はされないんじゃないかな」
このアルスでは、アルミニウムに代わってチタンが『軽銀』と呼ばれ、流通しているのだ。
「だったらいいのかね」
「この地方が少し潤う程度ならいいのかもな」
「難しいねえ、それ」
「ああ」
仁はカイナ村を思い浮かべながら答えた。
仁にとって第2の故郷とも言えるカイナ村。
そこは今もって400年前とほとんど変わらぬ佇まいでそこにある。
いろいろ便利になったにも関わらず、だ。
そこには仁の手助けがあることが大きい。
近代化が進んでも、見た目も暮らしぶりもあまり変わらないよう補助しているのだ。そしてそれは住民皆が納得していることである。
近代化=幸せとは限らないのだから……。
(とはいえ、カイナ村の生活水準はそこいらの大都市よりも高いのだが)
このクェント村は果たしてどうなのだろうか、と仁は漠然と考えていた。
「さて、それじゃあ村へ行ってみようか」
サンプルを採取し終えたサキがそう言うので、皆はクェント村へ向けて歩き出した。距離としては1キロほど、15分ほどの距離だ。
地面は赤茶けた土で、ボーキサイトの含有率が高そうである。
「……私は専門じゃないけど、この土だとあまり農業には向かない気が、する」
「そうだな」
エルザの推測に仁も同感だった。
ここに農業の専門家であるロロナがいればな、とも思うが……。
いないものは仕方がない。
「アルミニウムはアルミナとして安定していればいいけど、アルミニウムイオンになると悪さをしそうだよな……」
「ん」
もともと化学には疎い仁なので、それ以上のことはわからなかった。
そもそも日本ではボーキサイトはほとんど産しないので、土中のアルミニウムは少ないのである。
「ただ、酸性が強いとアルミニウムが溶け出すんじゃないかと、思う」
「そうだな……」
アルミニウムは酸に弱い。
その昔、アルミニウムの弁当箱に梅干しを入れておくとその酸のために溶けて穴が空いたという話がある。
その欠点はアルミニウムにアルマイト処理をすることで解決されはしたが……。
「くふ、村で話を聞いて、アルミニウムの害があるとしたらロロナさんに相談してみるといいかもね」
「そうだな、サキの言うやり方がいいかも知れない」
そんな話をしながら一行はクェント村に近付いていった。
「田舎よねー」
「でものんびりします」
「僕もそう思うな」
「なによー、あたしだけのけものにしないでよー」
子供たち3人は賑やかであった。
* * *
クェント村は、人口約200人、戸数は50に満たないほどの小さな村であった。
「でも、活気があるな」
「ん」
「あ、ポンプがある」
「ほんとね。でも何か付いてるわね」
「フィルターじゃないかな?」
「なんで?」
「ほら、水が硬いとか」
「硬い? 水が?」
「ミネラル分が多い水を硬水、少ない水を軟水、って言うんだよ」
賑やかな一団がやって来たので、外にいた村人の注目を集めてしまった。
「これはこれは、旅の方ですかな? 私は村長のキョウ・マイヘンスと申します」
「村長さんでしたか。私はグース・ミナカタ。民俗学を専攻しています。で、これは妻のサキ。材料学を専攻しています」
「サキです、よろしく」
研究行という建前なので、対外的にはグースがリーダーだ。
「そして友人の仁と奥方のエルザ、そして助手の礼子。ここまで来るのに協力してもらいました。で、向こうの3人が順にゴウ、ルビーナ、メルツェ。学生です」
「ほう、つまりは研究のためにいらっしゃったということですな。こんな僻地へ、熱心なことですな」
村長はそんなことを言いながらも微笑んでいる。
「いえいえ、我々にとってこちらは宝箱ですよ。セルロア王国、あるいは大昔のリーバス国の風習などが残っているかも知れませんしね」
リーバス国は、かつての大国であるディナール王国が分裂してできた小国の1つだ。
その後セルロア王国に併呑され、今は『リーバス地方』として名を残している。
「ほうほう、そういうことでしたら我が家へどうぞ」
「いえ、どこか宿を探すつもりなので……」
一旦は村長の誘いを断るグースであったが、
「いえ、この村に宿屋はありません。旅の方は我が家に泊まっていただいておるのですよ」
と言われ、それならと厄介になることにしたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220218
(誤)地球に置いてはギブサイト、ベーマイト、ダイアスポアなどの鉱物が混ざり合って
(正)地球においてはギブサイト、ベーマイト、ダイアスポアなどの鉱物が混ざり合って
(誤)いないものはしたがない。
(正)いないものは仕方がない。
(誤)「そして友人の仁とその助手の礼子。
(正)「そして友人の仁と奥方のエルザ、そして助手の礼子。




