84-35 作戦序章
「まずは『アヴァロン』へ行こう」
反撃の前段階として、きちんとした手順を踏もうと仁は言った。
それは老君が立てた作戦の『準備段階』であり、十分に意味がある。
デウス・エクス・マキナを投入するためである。
仁とマキナは兄弟弟子、ということになっており、互いにいつでも連絡を取り合えるとしている。
つまり仁がこの事件を知れば、マキナが動いてもおかしくないわけだ。
「それともう1つ」
『『アヴァロン』の捜索隊を出さないようにするためですね』
「そうだ」
仁とマキナが捜しに行く、ということになれば、『アヴァロン』から捜索隊を派遣する必要がなくなる。
これが仁の狙いである。
余計な手出し無用、というわけだ。
そもそもこの事件は町1つが占領されているということで、国が出てもおかしくない。
そこで『世界警備隊』の出番であるが、ここで『デウス・エクス・マキナ』が乗り出し、仁も協力する、というわけである。
これで仁も一時的ではあるが公的な立場で動けるということになる。
そういうわけで仁は『ハリケーン』に乗り、偶然を装って『アヴァロン』を訪れ、『アカデミー』を訪ねたのである。
「何だって? エイラ、カチェア、グローマたちが!?」
まるで今初めて聞いたかのような声を出し、
「そうなんだ。『アヴァロン』でも捜索隊を出すべく動いている」
「いや、俺が……それにマキナにも連絡するから、『アヴァロン』は何もしなくていい」
と宣言する。
そして最高管理官トマックス・バートマンにもその旨を告げる。
「いや、ジン殿とマキナ殿が動いてくださるならまさに鬼に金棒、よろしくお願い致します」
「任せておいてください」
仁にとっては茶番とも言えるやりとりではあるが、これをきっちりしておくことで後々の面倒ごとがなくなるのだ。
「それじゃあ、吉報を待っていてくれ」
「頼むよ、ジン」
アーノルトに見送られ、仁が乗る『ハリケーン』は『アヴァロン』から飛び立った。
目指すはセルロア王国北東部である。
ちなみに、セルロア王国には『アヴァロン』から連絡を入れてくれることになっている。
* * *
途中、デウス・エクス・マキナの『アリストテレス』と合流。
地上部隊はマキナに担当してもらうことになる。
仁は潜入部隊として『第5列』を投入する。
そしてもちろん礼子も、というわけだ。
「さあ、ここから作戦開始だ」
最高速度で現場へと向かう『ハリケーン』と『アリストテレス』だった。
* * *
2隻が現地に到着したのは1日の夕方であった。
フレクの町から1キロほど離れた場所に『ハリケーン』が着陸すると、『第5列』の『デネブ15』=エリカがやって来た。
「チーフ、お待ちしておりました」
「ご苦労さん。エイラとベッカーは?」
「今、まいります」
そう言っているうちに、『デネブ16』=リネンと共にエイラとベルリッヒ・ベッカー、それにゴーレム1体がやって来た。
「ジン、来てくれたんだな! 心強いよ」
「ジン殿、お久しぶりです」
「エイラ、大変だったな。でももう大丈夫だ。ベッカー、カチェアは無事だから安心しろ」
「ああ、ジンとマキナ殿が来てくれたもんな」
「ジン殿、それは……」
「まあ、まずは『ハリケーン』に乗ってくれ」
こんな場所で重要な話をするわけにはいかないと仁は言い、2人も同意した。
そして再び『ハリケーン』は空へ。
「ええと、それじゃあまずはベッカーの心配事から片付けるか。……俺の配下が調べてきたんだ。カチェアとグローマは捕まってはいるが元気だ」
「それは……何よりの情報です」
「うん。グローマも無事で……よかった」
ほっと小さく溜息を吐く2人。
「で、これまでにわかったことを教えよう」
仁は2人に現状をかいつまんで説明した。
亜自由魔力素波使用の『覗き見望遠鏡』のような技術情報はぼかして、である。
「……魔導頭脳がこの事件の黒幕か」
「『知識』を欲しているんですか?」
「そうだ。つまり君たち2人とも狙われる可能性が大だ」
エイラもベルリッヒ・ベッカーも技術者であるから、魔導頭脳がその知識を欲しがる可能性は非常に高いといえた。
「それに『支配の輪』ですか? とんでもないものを作りますね」
「ああ。だから町の住民も全員解放しないといけない。だからここからは俺とマキナに任せてくれ」
「わかったよ、ジン」
「わかりました、ジン殿。本音を言えば、一刻も早くカチェアを助け出したいとは思いますが」
とりあえず納得した2人であった。
そんな2人に仁は、
「ここにいてくれれば、作戦の進み具合を知ることができるから」
と提案する。
「お願いします」
「うん。だが、疲れているだろう。シャワーしかないが、使ってくれ」
さすがに『ハリケーン』とはいえ風呂は付いていない(仁に限っていえば(『仁ファミリー』も、であるが)転移門で蓬莱島の温泉にいつでも入れるからだ)。
が、身体を流すシャワーはある。
そこでエイラとベルリッヒ・ベッカーはシャワーを浴びる。
その間に仁は夕食を用意しておいた。
「機内食だが、遠慮なく食べてくれ」
「これは美味そうだな」
「ありがたくいただきます」
焼きおにぎり、高野豆腐の味噌汁、ベーコンエッグ、お新香、そして肉トポポ(肉じゃが)。
お茶はほうじ茶。
仁も一緒に食べる。
そして食べながら、今後の作戦について説明する。
「既に配下が潜入している。まずは『支配の輪』がどんなものか知りたい」
「住民を助けるにはその情報が必要ですね」
「それには誰か1人、さらってくればいいだろう?」
「エイラの言うとおりなんだが、それをした場合、魔導頭脳に気取られるおそれがあるんだ」
「ああ、そうか……」
「でも、何か手があるんですよね?」
ベルリッヒ・ベッカーはあくまでも仁たちの技術力を信じているようだ。
「ある。それはな……」
老君と練った作戦の一部を説明する仁であった。
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