84-24 3人旅
4月26日、『アヴァロン』発クライン王国行きの定期飛行船に乗り、エイラ、グローマ、カチェアの3人は『研究調査行』に出発した。
飛行船は首都アルバンの『世界警備隊ターミナル』へ。
ここは、『アヴァロン』とクライン王国とを結ぶ定期便の発着場であり、また情報の発着所でもある。
到着時刻は現地時間午後3時だった。時差は40分くらいなので、あまり気にしないでいられる。
「ここがクライン王国か」
「エイラさんもグローマさんも初めてですよね?」
「ああ、そうだ」
「一応、おすすめの宿とか、路線馬車とか調べてきていますので、まずは宿を取りませんか?」
「お、さすがだな、カチェア。やっぱり来てもらってよかったよ」
というわけで、カチェアお勧めの宿、『夕日の丘亭』へ。
「ここは各部屋の窓からの夕日がきれいなのが売りだそうです」
「へえ」
「なるほど、建物が南北に長くできていて、おそらく部屋は西側に作られているんだな」
エイラは感心し、グローマは建物の考察を行った。
「東側は他の建物が密集していますが、西側は開けていますからね」
「残念ながら朝日は他の建物に遮られてしまうんだろうな。だから西日が入る作りにしたわけだ」
朝日と夕日なら、朝日が入るほうが好ましい、というのが一般的な意見であろうが、朝日が入らないなら夕日だけでも、ということなのだろう。
『夕日の丘亭』はアルバンの西外れにあるため、西側が開け、眼下に麦畑が広がっているのが見える、というわけだ。
「町の中心部から外れているので、少し宿泊料金が安いんですよ」
「ふうん、なるほどね」
「あ、でも、サービスはいいみたいですし、食事も美味しいらしいです」
「それはいいな」
「それに何より、目的地であるウラウ方面行きの馬車便の始発停留所が近いんです」
「それは何よりだ。観光に来たんじゃないからな」
「ですよね」
こんな風に、カチェアが一緒なため、エイラもグローマも非常に助かっているようだ。
* * *
「で、明日は国境を越えるんだったよな?」
夕食後、翌日の予定を再確認する。
「ええ、そうです。馬車便がありますのでそれを使います」
「行くのはウラウ、という町だったな?」
「そうです。先日購入した制御核はそこから送られてきました」
「馬車の終点だな」
「はい。距離は70キロくらいなので、夕方には着きます」
「ちょうどいいか」
この時代は、平時であれば国境を越えるのに特に手続きはいらない。
ただ、臨検や検問があった時に身分証を提示できないと面倒なことになるおそれがあるが。
その点では、3人とも『アヴァロン』の身分証を持っているので問題はない。
「それじゃあ、今夜はゆっくり休むとするか」
「そうですね」
……もちろん寝室は3人別々である。
* * *
27日朝8時、クライン王国アルバン発、セルロア王国ウラウ町行きの馬車が出発した。
乗客は10人いたが、途中で下りるものが多く、国境を越えたのはエイラ、カチェア、グローマらとあと2人。
その2人は商人で、ウラウの町で店を開いているとのことだった。
「ほう、『アヴァロン』の研究員の方ですか」
「そんな方々がなぜこんな僻地へ?」
その2人は商人らしく気さくに話しかけてきた。
もちろん何か商機を掴めるかもしれないというような下心もあるのだろうが、かえって好都合。
「実は、高品質の『制御核』がこちらから送られてきまして、その製造者にお会いしてお話を聞きたいと思っているんですよ」
カチェアが代表で言葉を交わす。これはもう暗黙の了解である。
「ほう、制御核……ゴーレムに使われるのでしたっけ?」
「ええ、そうです。何かご存知ですか?」
「いや、私どもは生活雑貨を扱っているだけなので詳しくは存じません。ですが、うちの店の3件隣は魔導具を扱っていますので、何か知っているかもしれません」
「それはそれは」
こんな感じである。
そしてカチェアは2人の商人からお勧めの宿屋の情報も聞き出した。
商人は商人で、『アヴァロン』での最近の出来事を聞かせてもらってほくほくである(もちろん、カチェアは機密事項は話していない)。
馬車はマトレという町を過ぎ、セドロリア湖から流れ出す大河に架かる橋を渡った。
いよいよセルロア王国である。
「このあたりは標高が高いですよね」
「そうですね。1000メートルくらいはあるでしょうか」
標高1000メートルというと、日本で言えば富士五湖の1つ、山中湖くらいである。
なので、4月も終わり近いというのに、まだ周辺は冬枯れ色であった。
街道はフレクという町をかすめるように作られていた。
「なんだか活気のない町だなあ」
馬車の窓から遠目にフレクの町を見たエイラが独り言を呟いた。
まだ日は高いというのに、人影が全く見えなかったからだ。
街道脇に広がる麦畑にも人影がない。
「おかしいですね。フレクの町はそこそこ賑わっていたはずなのですが」
商人の1人が言った。
「我々がクライン王国に行ったのが5日前ですが、その時はもっと活気がありましたよ」
もう1人の商人もそう言って首を傾げた。
「ふうん……」
病気でも流行った可能性があるが、だとしたらここで馬車を止めるのは自殺行為である。
少し気に掛かったが、エイラたちはそのままフレクの町を素通りし、ウラウの町へと向かった。
ウラウの町で警備隊なり兵士なりに報告すればいいだろう、と考えて。
* * *
「それじゃあ、いろいろと貴重なお話をありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
午後2時半、馬車はウラウの町に到着。
商人2人とエイラたちは笑顔で別れた。
まずは宿泊場所を決めようと、紹介された宿へと向かう。
「ここみたいですね」
「割とよさそうな宿だな」
「ええと……『ホテル エトイレ』?」
「いえエイラさん、これは『オテル エトアール』と読むらしいですよ?」
「へえ、そうなのか」
「セルロアの方言みたいなものかな」
「グローマさんの言うとおりかもですね」
というわけで、エイラたち3人は『オテル エトアール』に宿泊することにしたのであった。
料金も良心的で、カチェアがほっとしたのは言うまでもない。
その夜は各自個室に泊まり、馬車移動の疲れを癒やしたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。




