84-07 『フィル』、新生
ガスマダ島の地下施設を『裏で』統括管理する『魔導頭脳フィリシャス』。
そこから人格データだけを切り離すという、困難な作業に取り組む仁。
『魔導頭脳フィリシャス』を一旦停止させ、作業を開始。
魔導頭脳が無条件に停止を受け入れたのは信用された証である。
「む……これは……」
自分の作ではなく他人の作なので、書き方が微妙に違い、解析しながら書き換えているために少々時間が掛かっている。
「なるほど、こうか……」
読み取るだけなら問題ないのだが、『改造』なので大変なのである。
コンピューターのプログラミングにしても、途中に割り込み命令を書き込んだり分岐を新たに設けたりというような作業は面倒である。
まして1つのバグも許されないのだから、仁の苦労がわかろうというもの。
「よし、わかった。これで……」
しかし、そこは『魔法工学師』。戸惑っていたのは最初の5分ほどで、『癖』を把握した後はサクサク作業を進めて行った。
「ここを、こうして、こっちをこう、と」
「ジン様、楽しそうですね」
そんな仁の様子を見ていたデルフィナがポツリと言った。
「ええ、ジン様はこうした作業が大好きですから」
マリッカが答える。
「……うーん……さすがジンさん……」
ロードトスは仁の手際を見つめ、驚くばかり。
「この目で見ていても信じられない……」
フィリシャスは初めて目にする仁の手際に、ただただ驚嘆するばかり。
そんな周囲の思いも、集中している仁の耳には入らない。
ただ黙々と作業を進めていき、トータル20分ほどですべての作業を終えてしまったのだった。
「よし、完了だ」
「さすがジンしゃまですね」
「ジンさん、お見事でした」
「…………」
「………………」
デルフィナとフィリシャスはまだ慣れないようで、言葉が出てこなかった。
「礼子、チェックをしてみてくれ」
「はい」
礼子にチェックを頼んだのは、変更された部分も含めた制御核のシステムを魔力的になぞってくれるからだ。
実際の動作時に近い検証ができる。
「問題ありません」
「わかった。ありがとう」
礼子のチェックでも問題なし。いよいよ再起動である。
「『起動せよ』」
『……再起動しました。システムチェック開始。……終了。システムに問題はありません』
「よし。情報の連続性はどうだ?」
『はい、ジン様。ジン様に停止されたところまで、まったく問題はありません』
「そうか。『フィリシャス殿』の人格についてはどうだ?」
『多少の影響は残っていますが、論理的思考に影響はありません』
「そうか。ならよし」
作業を完了した仁は、最後の仕上げをデルフィナに頼んだ。
「……デルフィナさん、この魔導頭脳に名前を付けてください」
「え? ……あ、あ、そうですね。ええと…………『イーゼル』。あなたは『イーゼル』です」
『はい、デルフィナ様。私は以降『イーゼル』と名乗ります』
これでデルフィナが魔導頭脳『イーゼル』の管理者となったわけである。
「『イーゼル』、私がわかるかい?」
『はい、フィリシャス様。……現身を得られたこと、お祝い申し上げます』
「ありがとう。お前は思うところはないのか?」
『ございません。これからはあなたに替わり、この施設を管理してまいります』
「うん、頼むよ」
そんな短いやり取りで、フィリシャスは魔導頭脳『イーゼル』は、人格部分を切り離されていると察した。
「ジン殿、お見事でした。これで、この施設はデルフィナのものになります」
「え……? 兄さんが管理するんじゃないの?」
「ここはフィナのために作った施設だ。フィナが最高管理者になるのは当然だろう?」
「ちょっとぉ……」
「まあ、普段は『フィル』に任せておけばいいさ」
「それなら……まあいいけど」
さすがに、いきなりここの施設の主になれ、といわれても面食らうよなあ、と仁は思った。
そこで、
「その『フィル』が代行者ってわけだな? ちょっと機能アップしておいた方がよくはないか?」
と言ってみる。
実際、今後のことを考えると、代行ゴーレムには蓬莱島のゴーレムに準ずる性能があったほうが安心できるからだ。
「そ、そうね。ジンさん、お願いできます?」
仁の技術と蓬莱島のレベルを知っているデルフィナは、仁の申し出を一も二もなく受けたのだった。
* * *
「よし、それじゃあ礼子、『魔法結界』の外に出て、老君に連絡を入れてくれ」
「わかりました。……花子さん、桃子さん、わたくしがいない間、お父さまをよろしくおねがいしますね」
「はい、レーコさん」
「お任せください」
「腕輪もあるから大丈夫だよ」
「それでもです」
仁の安全に念を押し、礼子は結界の外へと出ていった。
老君に連絡をし、必要な素材を転送させるためだ。
そして1分で礼子は戻ってくる。
その手に素材を抱えて。
「ただいま戻りました」
「うん、ご苦労さん」
仁が見たところ、『フィル』の骨格は軽銀であり、関節部は何も処理をされていない。
そこで軽銀から64軽銀にするためにアルミニウムとバナジウムを取り寄せたのだ。
また、関節にコーティングするためのアダマンタイトも少々。
それらを使い、仁は『フィル』の骨格と外装を強化していった。
「す、すごい……なんという作業の速さだ……」
フィリシャスは驚嘆してばかり。
さらに仁は『魔法筋肉』も蓬莱島仕様に変更。
これにより『フィル』のパワーは10倍以上になる。
それを支える『魔素変換器』と『魔力炉』も変更。
センサー類も追加したのでより精密な動作が可能になるはずである。
最後に、『制御核』の設定だ。
これまでは『魔導頭脳フィリシャス』が遠隔操縦していたが、この機会に自律化するのである。
プログラム内容は魔導頭脳『イーゼル』に準じたが、構成は蓬莱島仕様である。
「さて、どうかな?『起動せよ』」
「はい、ジン様」
『フィル』が起き上がった。
「どうだ、調子は?」
「はい、とてもいいです。ありがとうございます。これでデルフィナ様によりご奉仕することができます」
「そ、そうか。これからも頼むぞ」
「はい、お任せください。……デルフィナ様、以後もよろしくお願いいたします」
新生『フィル』はデルフィナに最敬礼を行ったのだった。
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本日12月23日(木)は14:00に
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