84-03 市井の研究者
エイラとグローマの話し合いはまだ続いていた。
「さて、残る『精密動作性』についてだが……」
「おや、グローマもなにか意見があるのか?」
「ああ。『フィードバック』だな」
「……うん、なるほど、そういうことか」
精密動作性を向上させるには、骨格の改良だけでなく『位置検出』の精度も向上させる必要がある、とグローマは言ったわけだ。
わかりやすくいえば、『ものさしが正しくなかったら正確な図面は描けない』ということである。
「今のセンサーをそのまま大きくしたのでは、誤差も大きくなる。だからそこも工夫しないとな」
「グローマの言うとおりだな」
エイラもグローマの意見に賛成だった。だが、
「例えば10倍の大きさのセンサーを作った場合、現実には精度は半分くらいに下がってしまうんだよな」
さすがに10分の1になるということはないが、精度が落ちることは間違いない。
「その原因の1つは寸法精度だな」
「それはそうだけど、それだけじゃないぞ。読み取る側にも問題がある」
「処理速度を考えると、大雑把にしか読み切れないんだよなあ」
ボディが大きいので、センサー数も多くなり、結局、1つあたりのセンサーを読み取るのに割り当てられる時間が減ってしまうということになる。
ボディサイズが2倍になれば、表面積は4倍になり、従って体表のセンサ数は単純計算で4倍になることになる。
もちろん、体表面積単位あたりのセンサ数を減らせばいいのだが、そういう方向性では結局のところ精度が落ちてしまうことになるわけだ。
「つまりはセンサーを新規開発することと、読み取り速度を上げる方法を見つけることか」
「そういうことになるな」
ということでエイラとグローマの意見は一致したのだった。
「……あとは……『制御核』のさらなる性能アップも必要なんだろうが……」
グローマが言い淀む。
「うん? それがどうしたんだ?」
「ああ、実は市井に、魔導頭脳の研究家がいる、って話を小耳に挟んだんだ」
「へえ? あたしは聞いたことがないな」
「エイラはもう少し人付き合いを覚えたほうがいいぞ」
「うるさいな。……その分グローマが補ってくれればいいだろ」
「お前なあ……」
溜息を吐くグローマであった。
「……で、その魔導技術の研究家、ってのはどうなった?」
「ああ、それはな……、この前来たセルロア王国の業者に聞いた話なんだ」
「何で業者?」
「そりゃ魔結晶とかレアメタルのインゴットとか頼んだからだろうが」
「ああ、そうか。カチェアがやってくれてるから気にしてなかった」
「お前なあ……」
再び溜息を吐くグローマであった……。
気を取り直したグローマは説明を再開。
「セルロア王国の東……『リーバス地方』といったかな。そこの山の中で研究を続けている一派がいるんだとさ」
「一派?」
「ああ。なんでも『魔法連盟』から逃れてそんな僻地へ移り住んだらしいがな。今は2代目だか3代目だかに代替わりしているが、今でも弟子は5人くらいいて、日夜研究に没頭しているらしい」
「へえ。でも大事なのは研究成果だろ?」
「それはそうだ。だが、それだけの研究を続ける資金はどこから得ていると思う?」
「わからん」
即答だった。
「お前なあ……」
三度溜息を吐くグローマ。
「少しは考えろよ」
「だって、答えを知っている者が目の前にいるんだから考えるだけ時間の無駄じゃないか」
「…………まあいい。それで資金だが、研究成果である『制御核』技術を売っているらしい。もちろん、最新のものではなく、2つ3つバージョンが古いものだろうがな」
「なるほどね。そこへも納品に行っているわけだ、その業者は」
「まあそういうことさ」
「……で、そのレベルはどうなんだい? 見掛け倒しじゃないんだろうね?」
エイラの言うことももっともである。
もっともらしい、見せかけだけの技術を売りつけて大金をせしめる。そうした詐欺まがいの技術者も世の中には一定数いるのだから。
「もう何十年もそうやってきたから、少なくとも詐欺師のたぐいじゃないな」
「それもそうか」
「それから、個人的に興味があったので、そこで作られた制御核を1つ、どんな用途のものでもいいから手に入れてくれと頼んである」
「お、それを解析すれば技術レベルが分かるな」
「そういうことさ」
「で、それはいつ届く?」
「今月の納品時だから1週間以内だろうな」
「長いな……待ち遠しいぞ」
「まあ焦るな。明日届くということだってありうるんだから」
「それもそうだな」
「……さて、そろそろ昼飯を食べに行こうぜ」
「ああ、もうそんな時間か。よし、行こう」
そんな感じでグローマとエイラの話し合いは終わったのだった。
* * *
同日夜、ノルド連邦、マリッカの工房にて。
「よかったですね、デルフィナさん」
「はい、マリッカ様」
歓迎会を終えて戻ってきたマリッカとデルフィナが話し合っていた。
「シオンさんによると、支度を整えて明後日、ガスマダ島へ向かってほしいとのことです」
これは『ノルド連邦』として公式の依頼である。
「楽しみです」
「今回の調査行は身内だけですので、気軽に行けますよ」
この場合の『身内』というのは『仁ファミリー』のメンバーだけという意味である。
つまり、最先端技術のその先を出し惜しみなしに使えるということだ。
「明後日ですか。マリッカ様も?」
「はい。ジン様から要請がありました」
『遺跡の管理者』としてのマリッカには是非参加してもらいたいと思った仁なのであった。
「それは心強いです」
「この『花子』も一緒に連れていきますし」
「まあ」
花子はマリッカが礼子に憧れて作った少女型自動人形で、ノルド連邦では最高性能を誇る。
当の花子は礼子に憧れているので、この遠征を心待ちにしているようだ。
「兄が遺してくれた施設……どんな所なのでしょう」
デルフィナはまだ見ぬその施設を想像し、心躍らせていた。
果たしてガスマダ島で何が起きるか、それは誰も知らない……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日12月19日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20211219 修正
(誤)「今のセンサーをそのまま大きくしたのででは、誤差も大きくなる。
(正)「今のセンサーをそのまま大きくしたのでは、誤差も大きくなる。
(誤)「うん? それがどうたんだ?」
(正)「うん? それがどうしたんだ?」




