81-28 2人の機体
チェックの後、仁は『スイフト』を飛ばしてみせた。
今回のパイロットも『スカイ1』である。
「うわあ、軽快ですね。見ていてもわかります」
「ああ。強化した部材を使ったから、その分重量を軽くすることができたしな」
「ああ、そういうことよね。軽くするといいことが多いわ」
「その分安定が悪くなったり、強風に弱くなったりするけどな」
「それは別途対策できるでしょう?」
「うん、そのとおりだ」
飛行の様子は老君が『覗き見望遠鏡』で追い、大型の魔導投影窓に映し出してくれているのでよくわかる。
それを見ながら仁は、ゴウとルビーナに実践講座を行っているのであった。
そして、この2人のデビューをどう演出しようか、とも考えていたのである。
* * *
「勉強になりました!」
「ジン様、ありがとう!」
『スイフト』の飛行を見せた後、仁たちはロイザートへ戻った。そろそろメルツェたちが戻ってくる頃だからである。
居間で話をしながらお茶を飲む。
「さて、そろそろ2人も、人が乗れる機体を作ってみてもいい頃だな」
「え? そ、そうでしょうか?」
「ゴーレムじゃなくて……人?」
「そうだ。安全に十分気を配って設計する必要があるが、基本は一緒だ」
その機体をレポートと共に『アヴァロン』でお披露目するつもりの仁なのであった。
「安全性……」
「そうだ、安全性だ。……自分が乗ることを考えて……いや、自分の家族が乗ることを考えて設計するんだ」
「家族……なるほど」
「だからジン様の作る乗り物は過剰な装備が多いのね……」
ゴウは考え込み、ルビーナは何か得心がいったような顔をした。
「…………俺の場合は、強度や安全係数もそうだが、緊急用の脱出を考えているな。……武装は……今回2人が作る機体は考えなくていい」
仁の設計思想の1つは『こんなこともあろうかと』の『こんなこと』に可能な限り対処できるように、である。
過剰ともいえる武装はそのためだ。
が、そのせいで一般公開できないものがほとんどなのである。
常識を遥かに超える数多の作品たち。
それは一部の限られた者しか知らない……。
だが仁は、ゴウとルビーナには、そんな七面倒臭い技術者にはなってほしくなかった。
それで、早い時期から一般へのお披露目を行い、なじませようとしていたのである。
「普通の人間が操縦できるように、という前提で必要なものは何だ?」
そのため、こうした質問をし、考えさせようとしているのだ。
「操作性?」
「加速度?」
「うん、1つ2つじゃないはずだ。どんどん挙げてみよう」
人数は少ないがブレーンストーミングの手法である。
「堅牢性」
「安全性」
重要なのは、多少ピント外れであってもそれを否定しないことである。まずはどんどん意見を出させることだ。
「思いつくままに出してみよう」
「通信」
「障壁?」
「視界」
「着陸のしやすさ?」
「価格やコスト」
「滑走距離の短さ」
「空中での接触事故回避」
「いいぞいいぞ。もうないか?」
「……探知?」
「えーと、夜間飛行のしやすさ」
「脱出装置は?」
「低速安定性」
「失速しにくさ」
「空調!」
「呼吸も」
「バードストライク対策があった」
「補助機能」
等、等、等、意見がたくさん出たのであった。
盛り上がっていたのだが……。
「ただいま戻りました」
買い物に出掛けていたメルツェ、イェニー、アマンダらが帰ってきたので、ブレーンストーミングは一旦終了だ。
なお、出た意見は全て礼子が記憶してくれているので問題はない。
「メルちゃん、おばあちゃん、イェニーさん、おかえりなさい」
ルビーナが出迎えた。
荷物は衣類らしく、嵩張っているが重くはない。
もっとも、自動人形のララが全部持ってくれていたが。
大半はメルツェ用の春物の服のようで、それらはクローゼットにしまわれる。
そして改めて皆でお茶会だ。
その席で、ルビーナとゴウはメルツェに買い物の様子を尋ねた。
「え、ええと、最初はお洋服の仕立て屋さんへ行って……」
メルツェも、たどたどしいながら報告を行っていく。
その様子を見て、もうすっかりこの屋敷に馴染んでいるなと感じて仁は安心した。
「おばあちゃんはどうだったの?」
「そうだねえ、いろいろ見て回って楽しかったよ」
「疲れたんじゃない?」
「そりゃあ少しは疲れたさ。でもまだまだ若いつもりだよ」
アマンダは今年53歳。
ローレン大陸に住む人類の平均寿命は100歳に届こうとしている。確かにまだ若いのだろう……。
* * *
その後は、ゴウとルビーナが何をやっていたのか、を掻い摘んで説明。
そうしたらメルツェは我が事のようにはしゃいだ。
「うわあ、2人が飛行機を作るの? 見てみたいなあ」
「メルちゃんがそう言うのなら頑張って作るわ」
「うん。見るだけじゃなく、乗ってもらいたいよ」
仁はそんな2人を見て微笑んでいた。
もちろん任せっきりにするつもりはないが、2人が作る飛行機がどんなものになるか、楽しみな仁である。
その日はずっと、いろいろ意見を交わしていたゴウとルビーナ。
翌日から試作機を作るつもりらしい、と、仁は感じ取った。
そして、必要そうな資材をこっそりとゴウの工房に運んでおいてやる。
その様子を見たエルザは苦笑しながら、
「なんだかんだ言って、ジン兄は甘い」
と言ったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210925 修正
(誤)「バードストライク対策があった
(正)「バードストライク対策があった」




