81-25 新型マギロケットエンジン
「よぉーっし!」
気合の入ったルビーナの声が工房に響いた。
仁がいつのまにか古の技術を再現した『マギロケットエンジン』を一人で開発していたので、ほんのちょっぴり拗ねていたのだ。
本人は、もう大人なんだからそんなことで怒ったりしない、と口では言っていたようだが……。
なお、祖母であるアマンダに言わせれば、『まだまだ子供』である。
それはさておき、ルビーナとゴウは協力して試作エンジンを作り上げた。
それは直径5センチ、長さ10センチほどの筒で、一端が半球状に塞がっている、『鉛筆キャップ』のような形をしている。
ロケットエンジンとしての基本形のようなものだ。
「ここに『風の一撃』の魔導式を刻むわけだけど、どこがいいかしら?」
「難しいね……ここは、実験をして最適な位置を決めるのがいいんじゃないかな?」
刻む場所の候補は2箇所。
1つは半球状になった先端部。
もう1つは円筒の内周だ。その内周のどの辺がいいか、ということも実験で決めていくことになる。
結果から言うと、どれも今一つであった。
「うーん、もうちょっとパワーが出ると思ったんだけどな」
「そうだね。……やっぱり、エンジンの燃焼室……じゃないな……『膨張室』かな……そこの中心に書き込みたいよ」
「ゴウの言うとおりね。その辺が一番効率がよさそうだわ」
「……球形の『発生基』に描き込んで、3本か4本の支持架で支えるしかないかな」
「そうねえ……やってみましょう」
最初の実験が思ったほどの結果が出なかったので、少しテンションが下がった2人は、それでもてきぱきと作業を進めていった。
そんな2人を見守るエルザとしては、気分の浮き沈みが激しいあたり、やっぱりまだまだお子様だな、と微笑ましく思っていたりする。
エルザの見守る中、2人は第2の試作エンジンを作り上げた。
そして実験。
「……やったわ!」
「前回よりもパワーが出ているね」
「調整をしていけばまだまだ上がると思うわ」
「うん」
そこでエルザも少しだけ助言を行うことにする。
「中の『発生基』? だけど、球形じゃなく、噴射口側は円錐にしたほうが、空気の流れがスムーズになると、思う」
「あ、そっか! エルザ様、ありがとう!」
「さっそくやってみます」
「ん、頑張って」
こうしたエルザの助言もあって、2人はその日の昼食までに、なんとか『新型マギロケットエンジン』を形にしたのである。
* * *
昼食後、レポートの草案を書き終わった仁は、2人に進捗状況を確認した。
ルビーナが堂々と報告を行う。
「ふうん、なかなかうまくやっているな」
「午後は詳細な出力テストをするのよ!」
「よし、それには俺も立ち会おう」
「うん、見ていて、ジン様!」
風洞室に移動した仁たちは、さっそく実験を開始。
「おっ、いい感じじゃないか」
「でしょ?」
「お褒めに預かり、光栄です!」
仁の目から見ても、ゴウとルビーナが作った試作エンジンはいい出来であった。
「採点するなら95点だな」
「すごい高得点の気がするけど、マイナスはどこ?」
「中の……『発生基』って名付けたのか? そこを支える支持架の断面形状が丸いからさ」
「あ……! そこも断面を流線型にすればよかった!」
「そういうこと。もう1つはエンジン内部の表面粗さだな。試作だからって、少し粗いかな?」
「ああ、そっか。空気の流れをできる限り阻害しない方がいいものね」
「それがわかればいい。全体を見たら文句なしの合格だよ」
「やった!」
躍り上がって喜ぶルビーナと、嬉しそうなゴウ。
「あとは、これを積んだ模型を飛ばしてみようか?」
「やるやる! 『ナイルⅦ』を作るわ!!」
仁に褒められたので、大乗り気のルビーナであった。
ルビーナとゴウは連れ立って工房へ。さっそく機体を作るようだ。
「あ、待って!」
メルツェもついて行った。
工学魔法は使えずとも、見ているだけで結構楽しいらしい。
ルビーナたちが作るのは『ナイル』シリーズなのでおそらくデルタ翼。今度もかなりの出来が期待できるだろう。
仁も楽しみである。
「エルザ、お疲れ様」
「ん」
そして仁は、2人を監督してくれていたエルザを労った。
「一休みしたら、俺も『新型マギロケットエンジン』を作ってみるかな」
「ジン兄らしい」
2人は屋敷に戻り、少し早いティータイムにした。
ダイキ、ココナ、アマンダも一緒である。
お茶は煎茶、お茶請けは芋ようかん。
「ジン様、あの子は大丈夫でしょうか」
少し心配そうなアマンダだが、仁は笑って答える。
「ルビーナは心配ないよ。いい技術者に育っている。そしてここにいる間に、いい令嬢にもなってほしいな」
「それが一番心配なんですよ……あの子はちょっとがさつですから」
「だから、ここにいて、いろいろな人と触れ合っていけばいいさ」
「ここにいていいのですか……?」
「いいとも。なあ、ダイキ、ココナ」
「もちろんです。毎日がにぎやかになって、とても楽しいですわ、ね、あなた」
「そうですとも。ルビーナさんもメルツェさんも、ゴウのいい友達になってくれましたから」
ダイキとココナも、本心から言っているということがわかる、柔らかな笑みを浮かべながらの言葉であった。
「ありがとうございます……」
そう言ってアマンダは会釈を行ったのである。
* * *
「さて、それじゃあ俺の方も」
ロイザート地下の工房で、とも思ったが、そちらでは手狭なので、仁は一旦蓬莱島へ転移した。
ロイザートが夜になるまでには戻るつもりでいるし、そういう連絡をくれるよう老君にも頼んである。
「お父さま、何から始めますか?」
「そうだな、まずは俺なりの試作を作ろう」
ある程度の理論はゴウとルビーナがまとめておいてくれたので問題はない。
直径5センチ、長さ10センチ、一端が半球状の円筒を作る。ここまではゴウたちと同じだ。
「ゴウたちは『発生基』を作ったが、俺は作らないでいこう」
そもそも、『風の一撃』を放つ時は、手のひらから放つわけではない。
だいたいにおいて、手のひら……魔力素の供給源……から5センチほど離れた場所から現象としての『風の一撃』は発生しているのだ。
つまり、発生場所と発生方向を決めるパラメータがある、ということになる。
そこまでのことを『魔法工学師』ではない2人に要求するのは酷である。
ゆえに先程は、その点については言及しなかった仁であった。
「さて、どのくらいの推進力が得られるかな」
5分で試作を作り上げた仁は、テストベンチにセットし、推進力の測定を開始する。
「よし、『起動』」
試作エンジンが風を吐き出した。
「よし。やっぱり爆発じゃないから、力の発生は緩やかだな」
そのまま、少しずつ出力を上げていく仁。
いよいよ実力テストである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210922 修正
(誤)昼食後、レポートの草案を書き終わった仁は、2人に慎重状況を確認した。
(正)昼食後、レポートの草案を書き終わった仁は、2人に進捗状況を確認した。
(旧)5分で試作を完成させた仁は、テストベンチにセットし、推進力の測定を開始する。
(新)5分で試作を作り上げた仁は、テストベンチにセットし、推進力の測定を開始する。




