81-24 実験の結果……
実験が開始された。
一番難しかったのは、結界の中を真空にすることだったりする。
水蒸気で満たした後、温度を下げて凍らせれば真空になるだろうとか、転移で宇宙空間へ行き、物理障壁を展開し、地上へ戻ってくればいいとか、幾つか案が出された。
検討した結果、ゴウとルビーナの勉強にもなるので、手軽にできる方法が取られた。
それは。
『礼子、まずは自分をぎりぎり包む大きさの物理障壁を張れ』
『はい、お父さま』
仁は『仲間の腕輪』で指示を出し、礼子は内蔵魔素通信機で返事をした。
真空中では声が伝わらないから、予めこうした方法を取っておくわけだ。
『そうしたら、結界の大きさを広げていくんだ』
『はい』
そうすることで、内部の気圧は低くなっていく。
完全な真空にはならないが、実験の目的を果たせる程度には気圧を下げられるだろうというわけだ。
最終的に、屋敷の庭で張れる限界に近い大きさ……直径50メートルまで物理障壁を広げた礼子である。
最初の結界が直径130センチほどだったのが50メートルになったわけである。
気圧は球の体積に反比例するから、1.15立方メートルが65416.67立方メートルとなり、内部は1気圧から0.00176気圧に下がったわけである。
実験には十分といえた。
『では、やってみます』
『おう』
『……『風の一撃』!』
『おお!』
ほとんど目には見えなかったが、空気の塊が飛んでいき、結界の内壁に当たって弾けたらしいことがわかった。
『もう一度だ』
『はい、お父さま。……『風の一撃』!』
『!『精査』……おお、やっぱり』
予想どおり、擬似的な空気の塊が飛んでいったことがわかった。
『礼子、ついでだから『火の玉』も試してみてくれ』
『はい、お父さま。……『火の玉』!』
『おっ! やっぱりなあ。……あと『水の弾丸』も頼む』
『はい、お父さま。……『水の弾丸』!』
『おお、やっぱり。……『雷撃』も頼む』
『はい、お父さま。……『雷撃』!』
『おおっ! ……よし、よくわかった。礼子、結界の大きさをゆっくり小さくしていけ』
『はい、お父さま』
『物理障壁』を広げた時と逆に、小さくしていく礼子。
そして最小の直径130センチ……礼子の身長と同じになった時点で解除すると、小さくポン、という音がした。
これは、内部に残っていた空気分子が『火の玉』や『雷撃』などの作用で化学変化を起こし、体積が減ったからであろうと推測される。
おそらく窒素が窒素酸化物になったためと思われるが、化学に疎い仁なので、しかとはわからなかった。
閑話休題。
こうして、一部の魔法現象が、魔力素の一時的な変質によるものであることが明らかになった。
つまり……。
『火の玉』は魔力素が擬似的な空気分子に変化し、その温度が上がったがゆえに発光し、炎として認識されているらしい。
『水の弾丸』は魔力素が擬似的な水分子に変化し、撃ち出されている。
『雷撃』も、魔力素が電荷を作り出し、放電現象を引き起こす。
そして『風の一撃』も、魔力素が空気分子となって撃ち出されている。
いずれも、魔法としての効果を発揮して数秒以内に霧散している。
この実験は画期的なものであった。
灯台下暗しというか、コロンブスの卵というか、どうしてこれまで試す者がいなかったかと思われる内容である。
「あと、疑問に思ったにしても、実験を真空中で行わないと、はっきりした結果が出ないからじゃないかなあ」
「ん、それもありそう」
いずれにしても、この実験結果は『仁ファミリー』や『オノゴロ島』で共有するだけではなく、『アヴァロン』にも知らせるべきであった。
そしてその共同研究者としてルビーナ・ギャレット、ゴウ・ニドーの名前が載ることになる。
2人の学会デビューである。
「ええ……恥ずかしいわ」
「僕もです……」
大したことはしていない、という2人だったが、
「これは攻撃魔法の歴史的にも、工学魔法の歴史的にも大きな発見だ。さらにこれを利用すれば、『マギロケットエンジン』が大きく進歩するだろう。そうなれば、航空機もさらに進歩する。その栄誉を俺が独り占めするわけにはいかないだろうさ」
「ジン様1人でいいと思うけどなあ……」
「同感です……」
とはいえ、仁としてはこの機会にゴウを魔法工作士……いや、ショウロ皇国なので魔法技術者としてデビューさせたかったし、そうなればルビーナも、となるのは必然である。
今後ルビーナがゴウと(友達以上として)付き合っていくなら避けては通れない道である。
そして今回のこれはこの上ない題材であった。
「レポートは俺が書く。共同研究者の名前にはエルザ、ゴウ、ルビーナの名前を載せる」
「うわあ……。ゴウ、あなたは平気なの?」
「僕はもう覚悟を決めたよ」
「うう……しょうがないか」
「そうそう。諦めが肝心だぞ」
「ジン様ぁ……」
* * *
そういうわけで、仁はレポートを書くことにした。
その間、ゴウとルビーナには、『風属性魔法』を使った『マギロケットエンジン』を開発してもらうことにする。
「ええ……できるかしら」
「できるさ。……エルザ、2人の監督をお願いしてもいいかい?」
「ん、任せて」
やりすぎて危険な実験をしないかどうか、エルザが2人を監督することになった。
ゴウとルビーナも、エルザが付いていてくれるというだけで心強いようだ。
「それじゃあ、構想をまとめて、みて」
「はーい……まず、使うのは風属性魔法よね」
「中でも使いやすそうなのは『風の一撃』でしょうか」
「ん、いいと思う。『風の大槌』は威力が大きすぎて、扱いにくい」
「熱が発生しないでしょうから、耐熱性や放熱などの熱対策は考えなくていいでしょうか」
「基本的には、いいと思う。でも、空気が圧縮されるから、多少の発熱はありそう」
「ああ、そうですね」
「その辺は、実験で確認する必要が、ある」
このようにエルザの指導で『新マギロケットエンジン(仮称)』の研究が始まったのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210922 修正
(誤)このようにエルザの指導で『新マギジェットエンジン(仮称)』の研究が始まったのであった。
(正)このようにエルザの指導で『新マギロケットエンジン(仮称)』の研究が始まったのであった。




