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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
81 新技術開発篇
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81-14 解析と批評

 3月6日、朝食後、『マギロケットエンジン』使用の『ナイルⅥ』の飛行テストが行われた。

 遠隔操縦を行うのは礼子。その反応速度を買われてのことだ。

 ホープではないのは、操縦装置のサイズがどちらかというと礼子向きの大きさだったためである。


 場所は蓬莱島のタツミ湾。

 何があっても対処できる面々が揃っている。

 立ち会っているのは仁とゴウ。メルツェはエルザやアマンダと共にロイザートに残してきた。


「では、行きます」


 一言断ると、礼子は『ナイルⅥ』のエンジンをスタートさせた。

 尾部噴射口から、勢いよく噴射炎が吐き出される。


 船用の桟橋を滑走路に見立て、『ナイルⅥ』は走り出した。

 そのまま速度を上げ、30メートルほど滑走した後に離陸する。


「飛んだわ!」


 はしゃぐルビーナ。

 礼子はそのまま『ナイルⅥ』を斜め45度の角度で上昇させていく。

 あっという間に肉眼では追えなくなってしまった。

 だが大丈夫。

 臨時のモニターとして、大型の魔導投影窓(マジックスクリーン)が仮小屋の中に設置してあるのだ。

 老君が『覗き見望遠鏡(ピーパー)』で追った映像が映し出されている。


「飛行姿勢は安定しているな」

「だってデルタ翼6機目ですもの」


 誇らしげにルビーナが言う。

 模型サイズ、実機サイズ問わずに作ってきたデルタ翼機の6号機。

 これまでのノウハウをすべて注ぎ込んだ機体であった。


「うん、ルビーナが言うだけあるな」

「でしょ?」

「礼子、そろそろ運動性のテストに移れ。……いいよな、ルビーナ?」

「もちろん! お願いするわ」

「では」


 そこで礼子は基本中の基本である宙返りを3連続、次いで逆宙返りを3連続で行う。


「いいですね。速度低下も少ないです」


 次はインメルマン・ターンとスプリットS。これも『ナイルⅥ』は楽々こなした。

 水平飛行からエルロン・ロール。これも安定している。


「調子よさそうね」


 ルビーナは嬉しそうだ。


「最高速度は時速400キロ以上出ていますね」


 実機の10分の1ということを考えれば、十分すぎる数値である。

 その後、垂直上昇しながらのロール、垂直降下しながらのロールも問題なく行えたので、仁は礼子に指示を出し、『ナイルⅥ』を着陸させることにした。


「あ、見えたわ」


 タツミ湾に『ナイルⅥ』が戻ってくる。

 礼子は桟橋に『ナイルⅥ』を無事着陸させた。


「さあ、機体チェックだ。……エンジン周りは熱いから気をつけろよ」

「はい!」

「ゴウも手伝ってやれ」

「あ、はい。……ルビーナ、手伝うよ」

「ありがと」


 ゴウに手伝ってもらい、ルビーナはチェックを進めていく。

 仁には1点だけ気になったところがあるのだが、それに2人が気が付くかどうか、見極めるために黙っていた。


「……ルビーナ、ここ」

「え?」


 最初に気が付いたのはゴウであった。


「マギロケットエンジンの支持架だけど、わずかに強度低下起こしているよ」

「え? そんな……あ、ほんとだ」

「何でだろう?」

「……考えられるのは熱しかないわね」


 原因を推測するのはルビーナの方が先だった。


「そう。このエンジンはかなり発熱するから、周囲の素材の耐熱性を考慮しなくちゃいけない」


 仁がその推測を裏付けた。


「……ああ、あたしの機体は『魔法型噴流推進機関(マギジェットエンジン)』ベースで設定されていたわ」

「よし、それに気付いたな」


 機体を作っている軽銀や64軽銀は熱伝導率が金属の中でもかなり低い。つまり熱が籠もりやすいのである。

 耐熱性の高い64軽銀であるが、この籠もった熱が摂氏600度近くなると、『応力除去焼鈍おうりょくじょきょやきなまし』が起きる。

 すると、加工硬化させて上げたはずの強度が下がってしまうわけである。

 これを防ぐには、最初から焼鈍しされた素材を使うか、より耐熱性の高い素材を使うか、あるいは焼鈍し温度にならないよう冷却するか、ということになる。

 他にもあるが、ゴウとルビーナが気付くかどうか、である。


「さあ、ルビーナ、どうする? ゴウも、自分ならどうするか考えてみよう。時間は5分だ」

「え? うーん……」

「は、はい。……えーと……」


 考え込む2人。

 5分後に仁はそれぞれの判断を聞いてみる。


「あたしは耐熱性の高い素材を使うわ。アダマンタイトとか」

「うん。ゴウはどうだ?」

「僕は冷却します」


 2人の意見は異なっている。

 どれが正解、というわけではないので、仁はそれぞれの判断に対し評を述べていく。


「まずルビーナだが、その方法はコストアップに繋がるな」

「それはしょうがないわね」


 アダマンタイトは一般的には非常に高価である。蓬莱島やオノゴロ島では気にせず使えるが。


「ゴウの方法は、エンジンが、ひいては機体が大きくなるな」

「それは仕方ないですね」


 一長一短はあるが、どちらも間違ってはいない。

 ちなみに仁はルビーナ寄りの考え方をする。レア素材をふんだんに使える立場だからだ。

 だが、もちろん、『ローコスト』で作ることもできる。

 その場合の仁は……。


「俺なら、最初から焼鈍しされた素材を使うかな」

「それはなぜ?」

「まず、コスト。64軽銀を例に取ると、焼鈍しによる強度低下は40パーセントくらいだ。つまり支持架を、4割強度低下しても想定した強度になるよう、7割増しの強度で作ればいいことになる。これなら冷却をしなくても済むしな」


 冷却必須だと、冷却ができないような環境……高温の環境で飛行しなければならない場合など……では使えなくなるからだ。


「もちろん、使用環境ということで最高温度と最低温度を想定することは必要だ。俺の『スワロー』の場合、使用環境は摂氏でいうとマイナス80度からプラス300度くらいまでかなあ」

「その温度ってどこから?」

「マイナス80度はドライアイスの温度を参考に。300度はあまり根拠はないかな」

「ふうん……」

「ちなみに『ノルド連邦』の最低気温は摂氏マイナス50度くらいらしい」

「寒っ!」

「うん、まあ、つまりは摂氏300度で焼き鈍されない素材を使おう、ということになるからな」

「……わかったわ」


 こうしてまた1つ経験を積んだルビーナとゴウであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。

     https://ncode.syosetu.com/n5250en/

     お楽しみいただけましたら幸いです。


 お知らせ:9月11日(土)早朝から12日(日)昼過ぎまで不在となります。

      その間レスできませんのでご了承ください。


 20210912 修正

(誤) その場合の仁は……・

(正) その場合の仁は……。

(誤)つまり支持架を4割増しの強度で作ればいいことになる。

(正)つまり支持架を、4割強度低下しても想定した強度になるよう、7割増しの強度で作ればいいことになる。

 170(7割増し)x0.6(4割引)=1.02ですからね……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 81-14 解析と批評 更新ありがとうございます。 [気になる点] やはりルビーナは、おのれの置かれている環境の特殊さに気づかないようですね。 その点、ゴウの方が視点が現実的な方なんで…
[一言] >ホープではないのは、操縦装置のサイズがどちらかというと礼子向きの大きさだったためである。 つまり、女の子の掌サイズ、という事ですね。 仁「身長だけなら既に俺を越えてるんだけどな。2年前には…
[一言] 熱処理の問題……うーん、いっそエアインテイク復活します? 外から空気取り入れて、熱を空気に渡してノズルから捨てるのです ジ「推進剤としての空気はロケットで生んでるぞ?」 礼「外から冷たい空…
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