81-06 報告書
まっ先に仁が聞いたのは基本中の基本。
「ロケットエンジンの原理は知っているよな?」
「大丈夫です」
それならと仁は、今回見つけた『ロケットエンジン』について説明することにした。
「これまで考えられていたロケットエンジンは『燃焼』による空気の膨張を利用して推力を得ていた。しかし今回見つけたロケットエンジンは『爆発』を利用するものだったんだ」
「……」
「断続的に小さな爆発を起こして推進力に変える。俺の試算では従来研究されていた『燃焼型』の3倍から5倍の推進力を得ることができるんじゃないかと思う」
「おお!」
「それは凄いですね!」
「これは、ぜひ実用化しないと!」
『航空研』の面々は俄然やる気をみなぎらせた。
「ジン殿、その先をお聞かせください」
「うん。……この爆発は魔法で行うから、燃料や酸素の供給は必要ない。『自由魔力素』もしくは『魔力素』を供給すればいいから、燃料タンク類が必要ではなくなり、全体の構造が単純化できる」
「それは、確かに」
「問題は魔力素の供給と制御だな。……それから爆発なので推進力が大きい分、低速は苦手だろう」
「火属性魔法を使うから、エンジンの耐熱性も重要だね」
アーノルトも仁の説明を補足した。
「そうなりますね。ですが、これは航空機の速度アップに貢献しますよ!」
「そうなるだろうな」
仁としても、『マギジェットエンジン』に代わる推進機になるかもしれないという期待を抱いている。
ただ、先程も注意したように、低速が苦手なのではないかという推測をしていた。
(まあ、その場合は爆発の圧力を逃がす方法を考えればいいんだろうけどな)
やり方は幾つか考えられた。
ロケットエンジンの燃焼室……爆発室? ……に適当な穴を空け、噴射方向以外にも圧力を逃がす。
爆発を結界でくるみ、力を削ぐ。
噴射口の口径を可変にする(絞ると噴射速度は上がり、広げると噴射速度が下がる)
などである。
将来性のある技術といえた。
「制御が難しそうですね……」
『航空研』室長、ロア・エイスカーが腕組みをしながら呟くように言った。
「そこは、地上で実験を繰り返して制御データを取り、次いで実験機でまたデータを……とやる必要があるだろうな」
仁がアドバイスを行う。
「実験機は飛行船を使うのがいいかな。どのくらいの爆発でどのくらいの推進力が得られるか、これの繰り返しだ」
制御データは魔結晶に保存し、応用が効くようにする。
もちろん制御は専用の制御核に任せることになるだろう。
「うーん、操縦者が直接制御は無理かな?」
「初めのうちは無理だろうね」
『マギジェットエンジン』なら出力特性がリニアだから、直接制御も可能であったが、『マギロケットエンジン(仮称)』ではそううまくは行きそうもないと仁は考えている。
制御データが十分集まれば、スロットルに応じた出力を出せるような変換テーブルを構築でき、そうなれば操縦がずっと楽になるだろうと思われた。
「わかりました。ジン殿のアドバイスを生かし、慎重にデータを集めていきましょう」
「そうしてほしいな」
「そうなるとやはり、制御データの制御核部分は『ゴー研』と共同研究したほうがいいかもしれない」
こういうわけで、『航空研』は『ゴー研』と共同で『マギロケットエンジン(仮称)』の開発を行うことになったのである。
* * *
そんなこんなで夕方になったので、この日は『アヴァロン』の宿泊施設に泊まっていくことになった。
仁は礼子とのんびりしているが、アーノルトはセルロア王国への『報告書』を書かねばならない。
ちょっと意外だったのはアーノルトはレポートを書くのが苦手だったことか。
仁が夕食を食べに食堂へ行こうとアーノルトの部屋を訪ねた時、彼はレポート用紙を前に四苦八苦しているところであった。
「アーノルト、大変そうだな……」
「ああ、ジン。どうも、こういうのは苦手で……」
「とりあえず、食堂へ行かないか?」
「ああ、そうだね……」
仁に誘われたアーノルトは、書きかけの報告書をそのままに立ち上がった。
「どうにも、レポートのたぐいは昔から苦手なんだよ」
「うーん、ちょっとわかる気がする。……チェル、アーノルトって、もの凄く生真面目に報告書を書いていないか?」
「はい、仰るとおりです」
「やっぱりな」
仁にも覚えがあった。
研究レポートは抜けがないように、きっちりと全体の構成を考えて書く必要があるが、報告書は少し異なる。
現代日本で仁のいた会社では、『○○○ショウ』、というような技術展示会を見学に行った際にはレポートで報告することになっているのだが、受け取った上司はロクに見もせずに廃棄してしまうのだ。
それを知った仁は、不本意ながら適当に手を抜くことを覚えてしまったのだった……。
それはさておき、仁はアーノルトに1つ、アドバイスを行う。
「チェルに手伝ってもらえ」
と。
「チェルに?」
「そう。チェルの頭脳は凄いからな。記憶力や構成力は人間以上だ。それはアーノルトの方がよくわかっているだろうに」
「そう言われればそうだった。でも、これは僕の仕事で……」
「チェルだってアーノルトが作ったんだ。そのチェルがした仕事はアーノルトがしたも同然さ。なあ、チェル?」
「はいっ!」
仁の問いかけに、一緒に来てアーノルトの後ろに立っていたチェルが勢いよく返事をした。
「そ、そうか。じゃあ、頼もうかな」
「はいっ、お任せくださいっ!」
いつになく勢いよく返事をするチェルであった。
* * *
仁の言ったことは大当たりであった。
夕食後、チェルにまとめを頼んだアーノルトは、またたく間に出来上がっていく報告書を驚き半分、喜び半分で見つめていたのである。
「アーノルト様、終わりました」
そして書きはじめて15分で、A4用紙10枚に及ぶ報告書が完成していたのである。
「早かったな」
内容も、まったく問題ない。
これで、明日には報告書を提出できるなとほっとしたアーノルトであった。
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