81-02 そしてゴー研へ
「大規模な戦争がいかに悲惨か、人々にわかってもらいたかったんだけどなあ」
「ジン、人は忘れる生き物だから、今は戒めになっても、将来はわからないぞ?」
仁の呟きにラインハルトが答えた。
「ああ、そうかもしれない。でもな、やれるだけのことはやりたいと思うよ」
「その点では『北方民族』の方が、世代を超えて語り継いでいけるかもしれないわね」
「シオンの言うとおりかもな」
「なら、『アヴァロン』からそうした思想を発信してもらうのはどうだろう?」
「それはいいと思うな。とにかく『魔導大戦』についてのまとめを提出する予定だし」
まずはできることからコツコツと。
それがこの夜の結論だった。
しかし、まだまだ話題は尽きない。
「ロケットエンジンらしきものが見つかったのには驚いた」
と仁が言うと、ラインハルトが食いついてきた。
「『アヴァロン』に移管したんだっけ?」
「そう。今はそれしかないよ」
仁が答えると、ラインハルトは残念そうな顔になった。
「だろうけどなあ……あの時代によくもそんなものを開発したなあと感心するよ」
「こっちでも研究はしてみたいよな」
「ジンもそう思うかい?」
「うん」
最初に仁が開発した推進機は『マギジェットエンジン』であった。
ジェットエンジンはその原理上、空気のないところでは使えない。
なので宇宙船は『力場発生器』が開発されるまで手付かずであった。
そういう経緯があるので、仁としては『ロケットエンジン』を研究してみたいと思ったのである。
ミサイルそのものやバズーカ砲、それに長距離砲(?)などには興味のない仁であった。……そちらは上位互換を開発済みなこともあるが。
「ロケットエンジンか……確かに興味あるな」
「ラインハルトもそう思うかい?」
「うん」
「僕もあるよ」
「アーノルトもか」
「そりゃあ、技術者としてはね」
仁、ラインハルト、アーノルトらは頷きあった。
「それにしても、アーノルト、ロケットエンジンをはじめとした、こうした新技術について聞いていなかったのかい?」
「知らなかったなあ。そんな技術者がいることも聞いてはいなかったよ」
「そうか……戦時中だったから、情報統制されていたのかな?」
「それはあるかもしれないな、ジン」
ラインハルトが言った。
「アーノルトのことだって、他の施設で開発をしている人たちは知らなかったんじゃないかな?」
「ああ、逆もありうるわけか」
「そうそう」
「そういう見方もあるか。……まあ、そうだとしても何の参考にもならないんだが」
「だよなあ」
所詮は雑談レベル、突き詰めるところまではいかない……。
* * *
その夜のうちに、大半のメンバーは再び自分の持ち場へと戻っていった。
実は今、惑星『ヘール』で大規模な工事を行っているのだ。
『ヘール』はあの『始祖』が見捨てた惑星である。
資源は他から持ってくることでなんとかなったが、植生はそうもいかない。
土地の除染や土壌改良など、やることは山積みである。
『仁ファミリー』は、惑星『ヘール』を再び人の住める惑星に戻そうと考えている。
仁やエルザのようにアルスでやるべきことがある者はいいが、そうでない者は基本的に暇である。
そのため、手が空いている者は『ヘール』でいろいろと作業をしているのだった。
もちろん、いつまで、という期限があるわけではないので、のんびりとしたものだ。
片手間で惑星改造をしようというあたりが、いかにも『仁ファミリー』なのであった。
* * *
翌3月2日。
仁とアーノルトは、『アヴァロン』へ向かった。もちろん礼子とチェルも一緒だ。
『アヴァロン』へ行く目的は、言わずと知れた、『魔導大戦』についてまとめた資料を提出するためである。
昨夜のうちに連絡を入れておいたので、トマックス・バートマンは時間を取ってくれていた。
「ジン殿、アーノルト殿、素早い対応、ありがとうございます」
秘書であるフィオネ・フィアスが資料を受け取り、礼を言った。
「それで、アーノルト殿、臨時講師の件はいかがですかな?」
「ええ、引き受けさせていただきます」
「それは有り難いですね」
「ただ、僕はセルロア王国の名誉国民という立場なので、臨時講師を務めるということを事前に連絡しておきたいと思います」
「おお、そうでしたか。でしたらこちらで連絡を入れておきましょう」
「助かります」
『アヴァロン』には『マナフォン』があり、各国と連絡が取れるし、実際に定期的な連絡も取っている。
その折にセルロア王国に一報を入れておいてくれる、というわけだ。
そういうわけで、アーノルトはこの日から1週間ほど、『アヴァロン』で臨時講師を務めることになったのである。
* * *
さすがにこの日から講義が始まるというわけではないので、アーノルトは仁の案内で『ゴー研』に来ていた。
「やあ、ジン!」
「エイラ、この前ぶりだな」
「そうだな。……そっちは?」
「ああ、彼はアーノルト。俺の友人だ」
「アーノルトです」
「あたしはエイラ。よろしくな!」
「こちらこそ」
エイラと挨拶を交わしていると、奥からカチェアとグローマ・トレーも出てきて、同じように挨拶を交わす。
そしてそのカチェアが、思いもかけない発言をした。
「ジンさん、アーノルトさんが自動人形だって本当ですか?」
「え? なんで?」
「そんな噂が流れてます」
仁は、出所はどこだろうと訝しみつつも肯定する。
どうせ、『魔導大戦』の講義の際には公開するつもりだったのだ。
「そうだよ。アーノルトは『魔導大戦』時に生きていた技術者なんだ」
「ああ、やっぱりそうなんですね!」
カチェアは素直に驚いた。そしてグローマとエイラは、
「アーノルト殿が自動人形……? すごい……人間にしか見えない……」
と感心するのであった。
「で、でも、だから当時のことを克明に覚えているわけですね!」
グローマが興味を持ったようだ。
「そういうことですね」
「すごいですね。講義、楽しみにしてます」
カチェアもまた、『魔導大戦』についての講義を受けるつもりのようだ。
「アーノルト、って呼んでいいか?」
「ええ、いいですよ」
「そうか。じゃあ、あたしのこともエイラでいいよ。……アーノルト、さっそくだけど……」
エイラはエイラで、技術者としてのアーノルトに興味を持ったらしい。
いきなり質問攻めにしていた。
「……うん、その点なら僕の意見は……」
アーノルトもまた、真摯に答えるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210830 修正
(旧)「その点では『北方民族』の方が、世代を超えて言い聞かせていけるかもしれないわね」
(新)「その点では『北方民族』の方が、世代を超えて語り継いでいけるかもしれないわね」




