80-45 閑話133 その語られなかった闇
「うむ……これを、こうして……これで、よし」
北の地、そのさらに北の、地の底。
1体の『人造人間』が何やら怪しげな研究をしていた。
「これなら……起動すれば、周囲の自由魔力素を全て光に変えて消費してしまうはずだ」
そうなれば、自由魔力素に依存して生きている生物にとって致命的なはずであった。
「自分たちの都合で私たちを作り……出来が悪いというだけで廃棄した『奴ら』……その子孫にこれで復讐できるというものだ」
* * *
その『人造人間』を作り出した存在……『始祖』は、この惑星上で生き延び、繁栄することを目的とし、その手助けをさせるため彼ら『人造人間』を作った。
しかし、予想よりも低い能力に、『デキソコナイ』と呼び、13体全てを廃棄したのである。
13体はすべて『原形質』に戻されたはずであった。
だが、『始祖』が天寿を全うした、そのさらに後。
『原形質』の中から2体が復活したのである。恨みを糧に……。
生き延びた2体は自らを『負の人形』と名乗り、自分たちを塵芥のように扱った『始祖』に復讐をすべく、行動を開始した。
しかし、当の『始祖』はもういない。いるのはその子孫と思われる者たちだけ。
それでもよかった。
子孫を残し、再びの繁栄を目指してこの惑星『アルス』に移住してきた『始祖』。
その目的を達成させないため、子孫を根絶やしにする……。それが復讐になると考えたのであった。
そのためには、2体はまだまだ力不足であった。
皮肉なことに、13体分の原形質から再構成された2体は、作られた当初よりも遥かに能力が高まっていたのだ。
その高まった能力により、2体は長期計画を立てた。
まずは自分たちの基盤を確立すること。
次に外界の情報を集めること。
そして復讐するための『力』を手に入れること。
生物学的な寿命のない人造人間なので、時間はたっぷりあった。
『始祖』が遺した施設も利用し、情報を集め、力を蓄えていく。
* * *
あっという間に1000年、2000年が経った。
その間に、『始祖』の子孫は2つの大陸に広がっていた。
北の大陸は『ゴンドア大陸』。
ここには『始祖』の血を色濃く引く者たちが集まり、氏族ごとにまとまって社会を形成していた。
南にある大陸は『ローレン大陸』。
こちらは気候が穏やかなためか、爆発的に人口を増やしていた。
しかしその反面、寿命が短くなっていたが。
「こんなに増えたとはな……」
己の知識と力を蓄えることに専念していた『デキソコナイ』は、少々驚愕した……が、それもわずかのこと。
復讐対象が多いということに、かえって昏い喜びを感じたほどだ。
そこで、ローレン大陸にも工作を仕掛けるための準備を始める。
具体的な方法としては、工作員を潜入させることだ。
自分たちを操るために作られた『操縦針』。
その構造を理解し、量産……とまではいかずとも、いくらか作り出すことにも成功。
ゴーレムを使って捕らえた『魔族』にそれを打ち込み、下僕とした。
「ふ、ふふふふふ……我々を操るための『操縦針』が、まさか子孫を操る道具になっているとは思うまい」
こんなことにさえ喜びを得られる『デキソコナイ』は、やはり正気ではないのだった。
* * *
『魔族』の工作員は期待に応え、ローレン大陸の情報を集めると同時に、小さな破壊工作も行っていった。
それは本当にごくごく小さなものだったが、『人類』の発展をわずかながらも鈍らせるようなものばかり。
平民への教育は害悪だ、と支配階級に吹き込んでみたり。
『医療』に携わる人を、迷信を用いて排除したり。
必要以上の乱獲を奨励してみたり。
それらは小さな棘となって人間社会に埋もれ、ふとした時に思わぬ足かせとなり発展を妨げることになった。
そして、大陸暦3151年。
待ちに待った、その時は来た。
『操縦針』によって操られる『下僕』の扇動により、『魔族』に南の地を力ずくで奪い取るよう働きかけさせ、それは成功する。
後に『魔導大戦』と呼ばれる戦争の始まりである。
『人間』が勝とうが『魔族』が勝とうが、『デキソコナイ』にはどうでもよかった。
『始祖』の子孫が殺し合い、その数を減らすのを見ることが目的だったからだ。
そして膠着状態になりかかった時に、大きなテコ入れを行う。
『魔素暴走』である。
『操縦針』を埋め込んだ『下僕』を使い、『人間』側に『最終兵器』として与えたのだ。
その魔導具自体は『古代遺物』という扱いにした。
使えばよし。使わずともよし。
『魔素暴走』の魔導具は遠隔操作によりいつでも『デキソコナイ』が起動させることができるのだから。
だが、3155年9月29日。
『最終兵器』を所持していた基地に『魔族』が攻め込んだ。
基地の司令はもうこれまでと、魔導具を起動したのだ。
これにより、『人間』は6割、『魔族』は実に8割もの人口激減が起こったのである。
「ふふふ、愉快だ。生き残った連中は、せいぜいいたぶってやろうではないか」
昏い愉悦に打ち震える『デキソコナイ』であった……。
それからも小さな嫌がらせは続けられ、激減した『人類』と『魔族』は知らないうちに『デキソコナイ』の悪意にさらされ続けていた。
それは、大陸暦3456年まで続く……。
* * *
大陸暦3456年。
『デキソコナイ』は気づかなかったが、その『棘』が抜かれ始める。
それとなく衰退へと誘導していた『人類』側が変わり始めたのだ。
初めは小さな改革だった。
魔導具でさえない、単なる道具。
だがそれは、人々の生活を変えるだけの力があった。
その道具の名はポンプという。
それからも小さな改革は続いた。
コンロ。リヤカー。浮き輪。ライター。ポップコーン。湯沸かし器。冷蔵庫。掃除機、顕微鏡……。
ほんの少し、生活を豊かにするもの。だが積み重なれば、生み出される『ゆとり』は大きくなっていく。
『魔導大戦』の残滓であった『ギガース』を単独で倒すモノがいた。
意識誘導をした『魔族』に仕掛けさせた『疫病』も解決された。
そして決定的だったのは『魔族』を排斥せずに受け入れた『人間』がいたことだ。
その『人間』が、あまつさえ『魔族』を救おうと手を差し伸べるなど、『デキソコナイ』の理解の外だった。
『操縦針』を用いて『魔族』を扇動し、その『人間』を排除しようとしたが、逆に『操縦針』の存在を突き止められ、無力化されてしまった。
半ば強引に起こした局所的な『魔素暴走』は『魔族』の数を減らしたが、その代償は大きかった。
『魔素暴走』への対策まで行われてしまったのだ。
繰り出した最強のはずのゴーレムも倒されてしまった。
「いったい、奴は何者なのだ!!」
魂……というものが『デキソコナイ』にもあるのなら、それは魂の奥からの叫びだったろう。
『デキソコナイ』の悪意に立ちはだかった者。
それは『魔法工学師』だったのだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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お楽しみいただけましたら幸いです。
20210828 修正
(旧)ライター。ポップコーン。湯沸かし器。冷蔵庫。
(新)コンロ。リヤカー。浮き輪。ライター。ポップコーン。湯沸かし器。冷蔵庫。掃除機、顕微鏡……。




