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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
80 新たな仲間篇
3042/4341

80-28 新たな情報

 『コマンド1』が周囲を警戒してくれているので、アーノルトとチェルは、工房内の調査に専念できた。


「うーん、あまり大したものはないなあ」

「そうですね、アーノルト様」


 が、打ち捨てられた施設のためか、素材もなければ部品もなく、あるのはほんの僅かな加工屑のみ。

 その屑もきちんと分別されて再利用するつもりだったことがわかる。


「やはりここは一旦引き払ったのかなあ?」

「その可能性は大きいですね。……この施設内で亡くなった方はいらっしゃらないようですから」

「そうか……」


 それでもアーノルトとチェルは工房内を調査し続ける。

 そしてその甲斐あってか、


「アーノルト様、これを」


 チェルは何かを見つけたようだ。


「うん、どうした?」

「なにかの図面ではないでしょうか?」


 それは、錆びついた真鍮板に刻まれた図面だった。いや、刻んだ時には錆びてはいなかったのだろう。


 皮紙では十分な大きさが取れないことと保存性が悪いことがあって、薄い金属板に図面を保存することはままあったようだ。

 700年たった今も、その真鍮板は朽ち果ててはおらず、書かれた図面の様子を読み取ることができた。


「うーん……これは部品図だな。それも書き損じのようでもある」


 広義の設計図には、概要図、組立図、部品図、部品表などがある。

 概要図は見取り図や機能図を使い、製品の外形や機能をわかりやすく第三者に説明するためのもの。

 組立図はすべての部品を、どこにどう使うのかを説明した図面。

 部品図はすべての部品単品の図面。

 そして部品表は、製品を作るためにすべての部品が何個必要か、などの情報を提供する。


 一般に設計図というと『組立図』が想像されるかと思うが、それ1枚では製品を作ることはできない。


 ほとんどの機械は、部品の組み合わせで成り立っているのだから、どんな部品が必要か、それを知る必要があるわけだ。


 そして、重要な部品であれば、また優秀な技術者が見たならば、その図面1枚から機械の全容を知ることができる……かもしれない。


「とはいえ、これは何だろうな?」

「わたくしにはわかりかねます」

「うーん、ジンならわかったりするのかな? ……『コマンド1』殿、この図面をジンに見せてくれ」


 アーノルトは周囲を警戒する『コマンド1』を呼び、その視覚を通じて仁にも図面をよく見てもらおうと考えたのだった。


*   *   *


「うーん……なんだ、こりゃ?」


 『ハリケーン』の船室では仁が首を傾げていた。

 錆びついて黒くなり、ところどころで緑青をふいている真鍮板を仁はじっと見つめた。

 説明があるはずの場所は緑青で隠れており、どうにも読みづらい。


「だが……螺旋(らせん?)……そして片側に付いている円板……これって、もしかして……『ネジ』か!? ……いや、それにしてはおかしい」


 仁の感覚として、ネジの図面を書くにしても、わざわざ螺旋の溝まで描くということは考えられないからだ。

 だがそれは現代日本で見る図面の話であり、この世界では違うのかもしれない……とも思える。


「それに、ネジにしては山と谷の差が大きいしな……」


 縮尺がわからないので、なかなか思いつかない……が。


「螺旋階段かも?」


 だが、螺旋階段にしては、ステップが描かれていないのがおかしい、と思われた。


「……まさか……パイルドライバーじゃないよなあ?」


 パイルドライバーというのは、杭打ち機であり、ドリルではない。

 仁はこの点で勘違いしている。

 仁が思い浮かべたものの名称は、地面に穴を空けていく巨大なドリル『アースドリル』である。

 比較的軟らかい土壌の土を掘り進むもので、岩盤に穴を空けるものではない。


「工事用の機械の設計図なのかな? 魔法を使わず? だからわざわざ図面を?」


 当時の事情がわからないので、これ以上の推測はできなかった。


「『設計基(テンプレート)』ではなく設計図にしたのはなにか意味があるのかな?」

「お父さま、それこそ、アーノルトさんでないとわからないのではないのでしょうか」


*   *   *


「……キョダイナ ドリル ダトオッシャッテマス」


 一方、アーノルトにも仁の判断内容が『コマンド1』を通じて伝えられていた。


「ドリル……?」

「アーノルト様、何か思い当たることがおありですか?」

「うん。……『魔導大戦』末期には、さすがに優秀な魔導士も不足してきていて、工事には一般人も多く携わっていたんだ」


 それで、魔法を使わない工事機械も必要とされていたので、その部品ではないか、とアーノルトは推測したわけである。


 その説明は『コマンド1』の聴覚を通じ、仁にも届いていた。


*   *   *


「なるほどな。あの施設ではそうした重機の研究をしていたのか」


 だが、そうした重機は、少しの改造で兵器にも転用できる。

 そんな思惑もあったのではないか、という想像もした仁であった。


*   *   *


「他に資料は残っていないかな?」

「ないようですね……あ、ちょっとお待ち下さい」


 工房内の資料棚を調べていたチェルが、また何かを見つけたようだ。


「こんなものが見つかりました」


 それは情報保存用と思われる魔結晶(マギクリスタル)であった。

 ただし欠けている。おそらく不良品だな、とアーノルトは思った。

 が、一応念の為に『読み出し(リード)』で内容を確認しておくことにした。


 そして。


『……終*器……製造……*人…………資材***……ボーダ……源流………………** * *…………』

「……ここまでか」


 思ったとおり、大した情報は記録されていなかった。

 だが、


「アーノルト様、『最終兵器』の『製造』は、『ボーダー川』の『源流部』で行われている、ということでしょうか?」


 チェルの頭脳は、不完全な情報を補完し、ギリギリ必要な情報に組み上げたのだった。


「確実ではありませんが、蓋然性は高いかと思います」

「うん、そうだね。チェル、よくやってくれた」

「恐縮です」


 そして、これ以上工房を調査しても目新しい発見はなさそうだと、見取り図にあった『隠し部屋』へ行ってみることにした。


「まあ、『隠し部屋』って書かれていたわけでもないんだけどね」

「そうですね。おそらくは……」

「うん、多分ここだな」


 転移魔法陣のある部屋から廊下に出て、向かって右側の壁、である。

 よく見ると壁に細い隙間があり、扉になっているらしいことがわかる。


「開けてみるか?」

「いえ、アーノルト様、これは多分……」


 チェルは己の推測をアーノルトに告げたのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主ジン公もちょっと勘違いしちゃったりする事もあるわけです。完璧すぎるより親しみありますよ…ですから、礼子さんはその握った手の力を抜きましょう。サキさんは歯をガチガチさせるのをやめませう。エ…
[一言] 最終兵器そのものはありませんでしたが、それに繋がる情報や当時の技術の一部なんかも手に入りましたし初回の調査としては悪くない感じですねー
[一言] >「工事用の機械の設計図なのかな? 魔法を使わず? だからわざわざ図面を?」 でも動力は魔道具の類になりそうだけど。人力じゃ弱すぎるし。 前話のアクチュエータを数本使って星型エンジンみたい…
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