80-27 役割分担
アーノルト、チェル、『コマンド1』らは転移魔法陣を使い、無事地下施設へ転移した。
「うーん、やっぱり暗いな。それに嫌な臭いがする」
アーノルトは疑似呼吸を止めた。人間ではないので問題ない。
「空気の組成……窒素82パーセント、酸素3パーセント、二酸化炭素12パーセント、その他希ガス類が3パーセントです。気圧は0.89気圧」
チェルが分析してくれた。
「それじゃあ生き物はいないだろうね」
「はい」
「チェル、もう少し明るくしてくれるかい?」
アーノルトのボディは『人間並み』なので、非常灯では暗すぎて室内がよく見えないのである。
「お任せください」
だが、チェルは違う。
サポート機能満載の自動人形だ。
「『明かり』」
「うん、明るくなった」
転移魔法陣のある室内には特になにもないことはわかっていたが、アーノルトは念の為見回してみた。
すると、壁になにか地図のようなものが貼ってある。
「これは……施設の見取り図かな」
「そのようですね」
いい発見であった。
というのも、『コマンド1』が調査した部屋の他に、隠し部屋が1つあることがわかったからだ。
もっとも、転移魔法陣がある部屋の壁に貼られている見取り図に載っているということは秘密ではないのかもしれないが。
「まあいいや。まずはひととおり見ていこう」
「はい、アーノルト様」
アーノルトは肩に『コマンド1』を乗せたまま歩き出した。
* * *
まずは隣の部屋からである。
そこは、壊れたゴーレムの部品が転がっているだけのゴーレムの格納庫と思われた場所。
アーノルトは転がっていたゴーレムの部品を拾い上げてみた。
大きさは、直径2センチ、長さ10センチくらい。
それはアクチュエータ……おそらく筋肉として使われるものと思われた。
「ピストンとシリンダーがあって、魔力で伸び縮みするのか……」
ゴーレム用としたら、非常に珍しい構造である。
仁ならば、ゴーレム用というよりもロボット用なんじゃないか、と言ったかもしれない。
似たものに例えるなら『ガススプリング』である。
金属製の筒から、これまた金属製の軸が伸びている。
そして魔力を入力するための端子が5つ付いていた。
「初めて見る型式だな……」
アーノルトは、この部品を持ち帰ることにした。
* * *
次に訪れたのは資材倉庫である。空っぽだが。
「うーん、見るべきものはないか」
「本当に空っぽですね」
そこはそれまでとし、宿泊設備のある部屋に行ってみる。
「快適とは言い難いが、なんとか泊まり込みには使えるか……」
アーノルトも元は技術者、研究室に泊まり込んだこともある。
それに比べれば、この宿泊設備はまあまあ整っている方か。
2段ベッドが5つ、つまり10人泊まれるようになっているわけだ。
部屋の中央にはテーブルが置かれており、一方の壁には洗面台が3つ並んでいる。
トイレも3人分、奥の壁のドアから行けるようになっていた。
「空調も見てみよう」
「はい」
工房の前に空調設備を確認するアーノルト。
設備自体は『ルトグラ砦地下基地』で使われているものと同じであったので、チェックは簡単だった。
どうやら故障して停止しているのではなく、強制停止させられたあと、再起動されなかったようだ。
「施設内に危険がないことを確認したら動かしてみるか」
「はい」
そういうわけで、いよいよ興味の中心、工房を調査することになった。
* * *
「ううん、これが工房か……」
アーノルトは思わず嬉しそうな声を上げてしまった。
やはり彼は技術者、あるいは職人気質なのである。
「設備は整っているな」
「そうですね。少なくとも『ルトグラ砦』地下の基地よりは」
アーノルトの言葉に、チェルは同意した。
「何を研究、あるいは製作していたんだろうな」
「……お待ち下さい、アーノルト様」
「どうした、チェル?」
「空調が止まっているのに、ホコリが溜まっていません。なのに清掃用ゴーレムが稼働している様子もありません。これは少しおかしくないですか?」
「うん、いいことに気が付いてくれたね。確かに変だ」
すぐに思いつく原因は2つ。
1つめは施設内に元々ホコリがなかった。
2つめは比較的最近、掃除がなされた。
1は無理があるので、おそらく2だろうとアーノルトは想像した。
「掃除をしたゴーレム……だろうと思うけど、そいつは今、停止しているんだろうな」
「そうですね。自由魔力素の動きがない、ということでしたから」
「もう動き出さないのか、それとも定期的に起動するのかな?」
これについてはチェルが自説を展開した。
「おそらく、定期的に起動しているのだと思います」
「どうして?」
「はい。掃除の仕方がきちんとしているからです。動作に不具合は出ていないようです。これは、設定されたとおりに定期的な起動ができているからだと思われます」
「なるほど、チェルならではの視点だな」
「おそれいります」
「そのチェルから見て、掃除されたのはいつ頃だと思う?」
次の掃除のタイミングがわかれば、その掃除ゴーレムと出くわす可能性を検討できるわけだ。
「そうですね、およそ2日前から10日前の間くらいではないかと。まだまだ綺麗ですから、掃除ゴーレムが起動するのはずっと先だと思われます」
「そうか、わかった」
100パーセントの確証があるわけではないが、できれば調査が終わるまで、不確定要素……この場合は掃除用ゴーレム……との邂逅は避けたいと思っているアーノルトであった。
「それじゃあ、少しは落ち着いてここの調査ができるね」
「はい、アーノルト様。わたくしが周囲を警戒しておりますので、ごゆっくり……」
「イヤ、ソレハワタシガ ウケモチマショウ」
「『コマンド1』殿?」
「ケイカイハ ワタシガシマスノデ、チェルドノハアーノルトドノト トモニ、チョウサヲ オコナッテクダサイ」
「ありがとうございます」
『コマンド1』が周囲の警戒を行い、アーノルトとチェルが工房の調査を行う。
この役割分担により、効率的な調査が行えたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210810 修正
(旧)宿泊施設
(新)宿泊設備
2箇所修正。
(誤)「おそらくですが、定期的に起動しているのだと思います」
(正)「おそらく、定期的に起動しているのだと思います」




