80-26 調査開始、そして
周囲を見て回っていた仁とアーノルトに、礼子から声が掛かった。
「お父さま、アーノルトさん、『ミニモグラ』が目的地に到達しました」
「お、今行く」
荒野の調査はそれで終わりとし、2人は『ハリケーン』内に戻った。
そこのモニターには、『ミニモグラ』からの映像が映し出されている。
「映像が粗いな」
アーノルトが言うが、仁は説明する。
「赤外線映像だからな」
「ああ、そうか。明かりがまったくないのか」
「そういうことだ。内部に危険がないことを確認し終えたら明かりを灯そう」
「それがいいな」
その後、『ミニモグラ』は施設内部の自由魔力素の動きを調査し、全く動きがないところから、大は魔導機やゴーレム、小はセンサ類にいたるまで、活動が停止していることを確認した。
「よし、必要最低限の明かりを灯そ……」
「いや、ちょっと待て」
仁の言葉をアーノルトが遮った。
「こういう施設だから、本来の照明があるはずだ。それに魔力を流し込んだほうが自然だろう」
「なるほど。非常灯のようなものがあるかな?」
非常灯はエネルギー系統が独立しているものが多いので、再点灯させるのも楽なのである。
「あるはずだ。こういう施設は多分、足元だな」
「ほう」
アーノルトの助言に従い、『ミニモグラ』に床から10センチか20センチほどの高さの壁を探らせると、すぐにそれは見つかった。
『ミニモグラ』から降りた『コマンド1』が調べたところ、独立した『魔力貯蔵庫』を持っていることが判明。
『魔力貯蔵庫』は簡易ゴーレムなどの燃料タンクにも使われる。
魔結晶で作られ、魔力素を蓄えるバッテリーのようなものだ。
そこへ外部から魔力素を注いでやれば、非常灯が復活する。
「成功だ」
黄色みがかった薄暗い明かりが灯る。
同じようなものが3つあったので、それらも点灯させると、かなりフロア内が見やすくなった。
赤外線と可視光とでは解像度が違う。
「この部屋は空調設備だったようだな」
今まではぼんやりしていた魔導機がはっきり見えるようになったので、アーノルトも判定がらくになったようだ。
「他にはないな。別の部屋に向かわせよう」
『ミニモグラ』は、別に地中だけを進むものではない。平坦な床の上も問題なく移動できるのだ。
というわけで、隣の部屋も同じように調査したところ、単なる倉庫であった。
倉庫の隣はゴーレム格納庫。とはいえ壊れたゴーレムの部品が転がっているだけで、ゴーレム本体は見つからない。
更に隣の部屋は宿泊施設のようで、2段ベッドが5組と、洗面台が残っていた。
「作業者が寝泊まりしていた部屋なんだろうかな?」
「うん、ジンの見立てどおりだと思う。開発スタッフ用の設備だろう」
そしてさらに調べていくと……。
「お、工房か? 研究室か?」
興味深い部屋に行き着いたのである。
「ここで開発を行っていたようだな」
「うーん……ジンの目から見て、どう見える?」
「そうだなあ……悪いけど、子供だましの設備にしか見えん」
「いや、悪くないよ。僕もそう思う」
「そうすると、ここには『最終兵器』はないのかな?」
「少なくともここで開発はされていなかったようだね」
ほっとしたような、がっかりしたような2人であった。
* * *
「さて、どうするか」
「ジン、まだ探すべきものがあるよ」
「え、何だい?」
「転移魔法陣さ。それが見つかれば、同じものを描ける。そうすればあの施設へ乗り込める」
「ああ、そうか。……よし、引き続き探させよう」
そうしたら、次の部屋で転移魔法陣が見つかった。
「アーノルトの言ったとおり、転移魔法陣があったよ」
「だろう?」
非常灯だけでははっきりしない部分もあるので、一時的に『明かり』の魔法で明かりを灯した。
「ふんふん、なるほど」
「これが、こう、か」
まずは危険防止のため、『ハリケーン』内ではなく、簡易天幕を荒野に張り、その床に描いてみた。
「これで向こうへ行けるかどうか、試してみよう」
「そうだな」
この転移魔法陣は、『動かないもの』を送る際は要注意なタイプだ。
ゴーレムや人間なら、向こうに着いたなら歩いて魔法陣から出るのだが、荷物の場合はそのままとなる。
この場合、言わば『電話の受話器が外れた状態』(携帯電話、スマートフォンしか使ったことがない読者諸氏には申し訳ない例えであるが)となり、転移できなくなってしまうのだ。
再度転移するには魔法陣の上から荷物を一旦どかさなければならない。
ちなみに、ゴミ・ホコリ、砂粒、小石くらいまでは一種のノイズとして扱われ、転移を阻害することはないし、一緒に転移されることもない。
そのあたりは対象の質量によって変わる。だいたい100グラムくらいを閾値としていることが多い。
「とりあえず、向こうにいる『コマンド1』に、こっちへ来てもらうか」
「それが一番かな」
こちら側の魔法陣が不完全ならやって来ることはできない。というよりも転移魔法陣は単体では作動しないのだ。
* * *
「おお、成功した」
ちゃんと『コマンド1』はこちらの転移魔法陣内に現れたのである。
「これで、我々も向こうへ行けるな」
「うん」
「お父さま、危険はないのですか?」
「大丈夫だと思うがな……」
「イエ、ダメデス」
「え?」
戻ってきた『コマンド1』が駄目だと言う。
「サンソガ、ホトンドアリマセン」
「ああ、そうか……」
空調が動いていないのだから無理もない。
「ここは、わたくしにお任せください」
そこで名乗り出たのはチェルだった。
「いや、僕だって大丈夫さ」
アーノルトもその身体は自動人形、呼吸を必要としない。
そんなわけで、いろいろ相談をした結果、アーノルトとチェルが転移して調べてくることになった。
その際、『コマンド1』を一緒に連れて行ってもらうことにする。
そうすれば、『コマンド1』の視覚を通じて向こうの様子を観察でき、いざという時に即対処できるからだ。
「何か装備はいるかい?」
「そうだなあ……『魔結晶』を幾つか。それに、何か武器を」
「わかった」
仁は魔結晶を10個、アーノルトに。
そして武器として『超高速振動剣』をチェルに預けたのである。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「気を付けてな」
そして3体は転移魔法陣で移動したのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210809 修正
(誤)「映像が荒いな」
(正)「映像が粗いな」
(誤)「そうだなあ……悪いけど、子供だましの設備にか見えん」
(正)「そうだなあ……悪いけど、子供だましの設備にしか見えん」
(旧)そうすれば、『コマンド1』の視覚を通じて向こうの様子をモニタでき
(新)そうすれば、『コマンド1』の視覚を通じて向こうの様子を観察でき




