80-25 人の業
『オノユニ山』から西へ30キロの地点で、礼子が地下に何かを発見した。
「お父さま、アーノルトさん、どうやらここのようですが」
窓から見下ろすと、一面の荒れ地である。
「うん、こんな何もない荒野で地下に自由魔力素反応があるということは、十中八九ここが目的地だな」
「では、どうすればいい、アーノルト?」
「うーん……自由魔力素反応の深さはわかるかい?」
「ちょっとお待ち下さい。少し移動して測定してみれば……ホープ、1キロほど西へ移動してください」
「はい、お嬢様」
これにより、三角測量ができ、距離がわかる。高度分を引けば深度が出るわけだ。
移動後、すぐに礼子が報告してきた。
「地下120メートルです。分布を見ると、空洞があるようです」
「間違いないな」
実は、老君が『覗き見望遠鏡』を使い、既に確認済み。間違いなく古の施設である。
「出入りにはおそらく転移魔法陣を使っていたんだろうが……さすがに地上部には残っていないだろうな」
「だろうなあ」
「なら、どうする?」
「地下探査用の『ミニモグラ』を使おう」
「ミニモグラ?」
「まあ、見てくれ」
いかにも『ハリケーン』に積んであったように見せ、その実は蓬莱島から老君が転送機で送り込んだ『ミニモグラ』。
ミニモグラは直径10センチ、長さ30センチの円柱状。マイクロ魔力反応炉が動力源だ。推進力は力場発生器。
「おお、これは凄いな!」
「小さいですが、大丈夫なのですか?」
「それは大丈夫。乗員はこの『コマンド1』だ」
「おお!」
『コマンド1』は身長5センチ。アーノルトが驚くのも無理はない。
「こんなに小さくて、ちゃんと動くのか……どうやって作ったんだい?」
「ノーマルの4分の1の作業用ゴーレムを作り、それがさらに4分の1のゴーレムを作り……とやったのさ」
「なるほど。160センチ、40センチ、10センチか」
「5センチは4分の1じゃなく2分の1だけどな」
「だが、いい発想だ」
アーノルトは仁の発想を賛美した。
仁としても、いずれアーノルトを『仁ファミリー』に迎えたいと思っているので、今は小出しに製作物を見せていこうと思っているのだ。
「調べた内容はこっちのモニタに表示される」
「いいな」
実際には、映像は蓬莱島の司令室に送られるのだが、老君が『ハリケーン』に転送してくれるので大丈夫。
仁は『ハリケーン』を一旦着陸させ、ミニモグラをセットした。
「『コマンド1』、頼むぞ」
「ハイ、ご主人サマ」
「では、『ミニモグラ』発進だ」
「ハッシン!」
『ミニモグラ』は地面に穴を穿ち、進んでいく。すぐにその姿は見えなくなった。
「なかなか速いな。どのくらいの速さで掘り進めるんだい?」
「うーん、土や岩の質によるから一概には言えないが、条件さえよければ1時間に50メートル以上行けるだろう」
「それは凄いな。2時間ちょっとで地下施設に到達できそうだ」
「その地下施設だが、まだ生きていると思うか?」
「いや、思わない。自由魔力素反応もそれほど大きくないようだから、せいぜいが空調か整備用ゴーレムだろう」
「そうか」
『最終兵器』と大仰な開発コードを付けられた兵器とはいったいどんなものなのか。
そもそも、この地に封じられているのか。
老君だけは『覗き見望遠鏡』で見ているのだろうが、何も言ってこないところを見ると危険はないのだろう、と仁は思っていた。
* * *
そして、待つこと2時間。
その間は暇なので、仁たちは付近の地形を確認したり、土壌の成分を確認したりと、動き回っていた。
「この土地にも重金属が含まれているな」
主に水銀、ベリリウム、ニッケル、クロム、鉛、亜鉛、ヒ素、カドミウム、バナジウム、マンガンなどの重金属による環境汚染を『重金属汚染』という。
仁が『分析』で確認したところ、主にヒ素とカドミウム、鉛、水銀が微量ながら含まれていた。
「『抽出』……ふむ」
仁が試しに工学魔法を使ってみたところ、ちゃんと金属鉛が抽出された。
とはいえ、1立方メートルほどの土壌から抽出してやっと1グラムほど。
鉛の比重は11.4くらいだから、見た目にもほんの僅かである。
仮に鉛の鉱山として考えたら、とうてい採算が合うような含有量ではない。
にも関わらず、その金属鉛他を含んだ土壌は、植物の繁茂を妨げていて、殺伐とした荒野を作り上げているのだ。
「うーん、専用の魔導機を作って、地下5メートルまでの土壌から有害物質を取り除くとして……結構大変そうだ」
仁が作る魔導機だと、1平方メートル、深さ5メートル……つまり5立方メートルの土壌から有害成分を『抽出』するのに2秒くらいかかると思われた。
この『オノユニ山』西の汚染面積はざっとみたところ250平方キロメートルくらい。
魔導機1台だと16年近く掛かる計算になる。
つまり16台作れは1年、32台なら半年、200台作れば1箇月弱。
同じものを使ってボロロン荒野の浄化をするなら、面積からいってその20倍の数を揃える必要があるだろう。
「これも、王様に報告してからの話だな」
勝手に行うこともできるが、ここはやはり国王に報告してから指示をもらい……という形で動くべきだろうと仁は考えていたのである。
「どういう方法で汚染させたんだろうな?」
これもまた、気になる仁であった。
「僕も聞いただけだけれど、金属を気体にして空中に撒き散らしたらしい」
「……えげつないな……」
気化した金属は肺や皮膚から身体に取り込まれて、いろいろな障害を引き起こすだろうことが想像でき、仁はその非人道的な戦術に嫌悪を覚えたのである。
気体にした方法は『分解』のような魔法だろうか……とも想像する仁。
「こうした行為は、ばらまくのは簡単だけれど、回収するのは面倒なんだよな」
時間の逆転みたいな魔法があるといいのに、と思う仁であるが、さすがにそれは無理な願いであった。
「地道に回収するしかないか……」
目前に広がる荒野に、仁は人の業を思わずにはいられなかった。
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本日8月8日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210808 修正
(誤)これにより、3角測量ができ、距離がわかる。
(正)これにより、三角測量ができ、距離がわかる。




