79-32 脳波検査機
作戦決行まではまだ時間があるので、皆それぞれの準備を進めることになった。
仁Dは宣言したとおりに脳波の測定機を作ることにした。
『アヴァロン』の工房ではなく、自分の乗機『ハリケーン』内で。
こちらにも、いろいろな資材、素材を積み込んであるため、小さいものであれば作ることができる、と言って。
実際には蓬莱島にいる仁が作り、転移門で『ハリケーン』へ送り届けるのだが。
* * *
「うーん……脳の走査と脳波測定か……」
「ジン兄、手伝う?」
「お、エルザ。いいところに」
「ん、老君が教えてくれた」
「そうか。老君、助かるよ」
『いいえ、御主人様のお役に立てれば、それで』
エルザは世界最高峰の治癒師である。
脳の反応を測定する魔導具を作るなら、彼女以上の助手はいないであろう。
「ええとな、1つは『前頭葉』の活動状況を測定するもの。もう1つは脳波のスペクトルを測定するもの、だ」
「ん……わかった。『前頭葉』の活動状況も、脳波のレベルで分かるから、どちらも基本は、脳波検査機」
「そうだろうな。……その辺までは想像できたんだ」
「非接触で、どこまで精度を上げられるか?」
「そうだな。それが難しそうだ」
エルザと打ち合わせていると、次々に構想が出来上がっていく仁であった。
「基本構成はチェルから聞いた。それを元にしたい」
「ん、なるほど……」
エルザは首を傾げ、少し考えこむ。仁もまた、自分なりに考えてみる。
そして1分ほど後、エルザが口を開いた。
「非接触、技術的には可能。けど、小型化が難しい」
「……そうだな」
任意の場所に魔法陣を構築し、魔法を発現させる技術は、一応の完成を見ている。
だが、複雑な走査と座標固定の必要があるため、小型化が難しいのだ。
「それは、有効距離を10メートルに限定すれば、かなりマシになるはずだ」
「あ、確かに」
これが有効距離100メートルになると、机の大きさでも不十分であろうが、10メートルならカバンくらいの大きさで済むだろうと仁は見積もった。
「あるいは5メートルならもっと小さくなるな」
おそらく距離の2乗か3乗に反比例して小さくできるだろうと考えられた。
「実用的な距離でいうと……5メートルで十分かも」
むしろ小型化のメリットのほうが大きい、とエルザは言った。
「よし。それじゃあまず有効距離10メートルクラスのものを作って、それから5メートルクラスのものも作ってみよう」
「そういうやり方はいい、かも」
もっとも、これは仁の製作速度がないと使えない方法ではあるのだが。
* * *
「よし、できた」
およそ30分で有効距離10メートル用の物を作り上げた仁。
やはり大きく、その昔にあった『ラップトップパソコン』くらいの大きさになってしまった。
モニター部分に対象者の脳波が表示される仕様だ。
「さすが、ジン兄」
「これでもできるだけ小さくしたんだ」
「ん、携帯性はあるから、実用レベル」
「これをベースに改良し、より小型化したとしても……10メートル用は半分にはならないかもなあ」
ラップトップパソコンがノートパソコンになるくらいだろう、と仁は言った。
「それでも、すごい」
「まあ先に有効距離5メートルのものを作ってみるよ」
そういうわけで、次に仁が作ったのはやや大きめのタブレットほどの魔導具だった。
「これが5メートルクラスだ」
「ん、十分実用的」
ここで老君が意見を述べてきた。
『御主人様、10メートルクラスの物もあった方がよろしいかと。そしてそれは同行するゴーレムに持たせ、メインは5メートルクラスを使う、としたらよろしいでしょう』
「なるほどな」
有効距離5メートルの範囲外にいる者も測定できるのは大きい。
「よし、有効距離5メートルのものを人数分プラスアルファで作ろう」
一度作ってしまえば、手順はマニュアル化されるため、製作時間はより短くて済む。
さらに『職人』たちにも手伝ってもらい、12台の『有効距離5メートルクラス』の『脳波検査機』が完成したのであった。
「1台は蓬莱島に。1台は予備として『ハリケーン』に。で、10台を『アヴァロン』に納品しよう」
* * *
そして『ハリケーン』から出てきた仁Dは、中で作ってきました、という顔で5メートルクラス10台と10メートルクラス1台の『脳波検査機』を納品した。
「お、おおお! さすがジン殿ですな」
まだ1時間半くらいしか経っていないのに、これだけのものを作り上げてしまう実力に、あらためてトマックス・バートマンは驚愕していた。
「チェルさんは?」
「ハーン殿と共に、『アヴァロン』の中を見学してもらっています」
マキナ3世やレイも同行しているということで、仁はそれならと安心した。
「では、使い方ですが……」
とりあえずトマックス・バートマンに使用法を説明する。
使い方は簡単だ。
起動し、画面にOKの表示が出たら、センサ部分を対象者に向けて『スタート』のスイッチを押す。
すると画面に対象者の頭部が映し出され、測定が始まる。
およそ5秒で検査は終了だ。この短時間で終わらせる、というのも仁が工夫した点である。
「人体に害はないのですよね?」
「もちろんです」
「では、ちょっと試してみたいですな。……フィアス君、いいかね?」
トマックス・バートマンは最高管理官秘書のフィオネ・フィアスを呼んだ。
「はい、閣下」
「話は聞いていたな? 君の脳波を測定させてもらえんかな?」
「危険は全くありません。単なる測定機ですから」
非接触で脳波を測定するだけです、こちらからは何も働きかけていません、と仁Dが補足説明を行った。
「はい、そういうことでしたらいいですよ」
本人の許可ももらえたので、トマックス・バートマンはフィオネ・フィアスに向けて『脳波検査機』を作動させた。
「どうかね?」
「何も感じません」
そして5秒後、モニタ画面に脳波画像が映し出された。
「これは、医学で使う脳波画像とはちょっと違います」
仁は画像の見方を説明していく。
「横軸は時間ではなく周波数です」
「おお、なるほど」
「縦軸はレベル……強さと思ってください」
「うむ」
「5秒ごとに更新します」
「なるほど」
「こうしてみますと、フィフィさんの脳波は平均的ですね」
「あの、フィフィさんはやめてください……」
そんなやり取りのあと、事務職の人たちにも協力してもらい、この『脳波検査機』の使い方を指導した仁Dであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210705 修正
(誤)「いいえ、御主人様のお役に立てれば、それで」
(正)『いいえ、御主人様のお役に立てれば、それで』
(誤) 一度作ってしまえば、手順はマニュアル化されているため、製作時間はより短くて済む。
(正) 一度作ってしまえば、手順はマニュアル化されるため、製作時間はより短くて済む。
(誤)『御主人様、10メートルクラスの物もあった方がよろしいかと、ですからそれは同行するゴーレ
(正)『御主人様、10メートルクラスの物もあった方がよろしいかと。そしてそれは同行するゴーレ
(旧)
「危険は全くありません。単なる測定機ですから」
「はい、いいですよ」
(新)
「危険は全くありません。単なる測定機ですから」
非接触で脳波を測定するだけです、こちらからは何も働きかけていません、と仁Dが補足説明を行った。
「はい、そういうことでしたらいいですよ」
(旧)およそ10秒で検査は終了だ。
(新)およそ5秒で検査は終了だ。
(旧)そして10秒後、モニタ画面に脳波画像が映し出された。
(新)そして5秒後、モニタ画面に脳波画像が映し出された。
(旧)「10秒ごとに更新します」
(新)「5秒ごとに更新します」
20220329 修正
(旧)「縦軸はレベル……電圧と思ってください」
(新)「縦軸はレベル……強さと思ってください」




