79-28 安堵
「……『魔族』、いえ、『北方民族』について、ですか」
「そうだ。『魔導大戦』時に作られた君たちだ。何かしら、思うところはあるだろう?」
マキナ3世の言葉に、チェルは小さく頷いた。
「ないと言えば嘘になります。確かに、一部のゴーレムや自動人形は、『魔族』というだけで殲滅しようとする者もいるでしょう」
現に『イザーク』がそうだったわけだ。
「ですが、私たち……『第2地下』の面々は違います」
「どう違う?」
「『魔族』を無差別に攻撃するような、無計画で無思慮なことはいたしません」
「その保証は?」
「必要ですか?」
「必要だ」
「それはなぜ?」
この質問の答えを、チェルたちがどう受け止めるか。それは1つの分岐点であり、賭けでもある。
そしてマキナ3世は、その答えを口にする。
「俺の知り合いに『北方民族』が何人もいるからだ」
「………………そうなのですね…………納得、しました」
「大丈夫か?」
「はい。事実を認識し、現状を把握し、判断基準を最適化するのに少々時間が掛かりましたが、もう大丈夫です」
ちょっとその間が気になったが、大丈夫という言葉を信じようと思ったマキナ3世であった。
* * *
蓬莱島では仁と老君が、マキナ3世とチェルとのやり取りを逐一追っていた。
「ああ言っているが、大丈夫かな?」
『はい、御主人様。今のところ信頼性の確度は80パーセントほどです』
「そうか……やっぱり確認したいな」
『それがよろしいかと存じます』
それが本当かを試す必要がある、と仁は言い、老君も同意した。
「そうすると……マリッカとマリッカの分身人形、マリッカDに頼むか」
『それがよろしいかと。……マリッカさんにはもう連絡しております』
「手際がいいな」
『ありがとうございます。こういう事態は予測できましたので』
そこへマリッカがやって来た。
「ジンしゃま、状況は老君から聞きました。分身人形で『アリストテレス』へ行けばいいんでしゅね?」
「あ、マリッカ、わざわざ済まないな。……うん、行ってみてくれるか?」
「はい」
分身人形の魔力パターンは本人と同じである。
『魔力模倣機』で魔力パターンだけを発生させるという手もあったが、存在そのものを認識した場合の反応が予想できないことから、老君はマリッカDに協力を求めたのである。
* * *
『アリストテレス』内の転移門へ、マリッカDは転移した。そのことはマキナ3世も知っている。
そして、タイミングを見計らってチェルとハーンの前へ姿を現すわけだ。
「……では、『北方民族』と出会っても、いきなり問答無用で攻撃などしないな?」
「もちろんです」
「それじゃあ。……マリッカ殿」
「はい」
内蔵魔素通信機での打ち合わせにより、マリッカDは船室の奥から出てきた。
「……! 確かに、あなたは『魔族』……いや『北方民族』でしたな」
チェルではなくハーンが呟いた。
「確かに『北方民族』ですね。そして、マキナ様とは友好な関係を築かれているご様子」
チェルもまた、落ち着いた対応を見せていた。
そしてチェルとハーンは、
「お初にお目にかかります。わたくし、チェルと申します。以後、よろしくお見知りおきの程を」
「初めまして。ハーンと申します。今後、よろしくお願い申し上げます」
と、マリッカDに頭を下げ、丁寧に挨拶したのであった。
「ご丁寧なご挨拶、いたみいります。私はマリッカ。『森羅』のマリッカと申します。よろしくお願いいたします」
マリッカDもそれに応え、挨拶を行い、マキナ3世の隣に着席した。
雰囲気は特に悪くなく、まずは一安心、といったところである。
やはり『人類への貢献』という基底命令は強力である。
人類と仲違いしない限り、チェルやハーンらは今の北方民族を敵とみなすことはないだろうと思われた。
「それでは、俺の方から話しておくことがある。700年前の真実だ」
「マキナ様、真実、ですの?」
「そうだ。『魔導大戦』がどうして起きたか、についてだ」
「原因、ということですか?」
「そうだ」
そういうわけでマキナ3世は、『魔導大戦』を引き起こしたのは、アルス人類の祖である『始祖』が作った『負の人形』、通称『デキソコナイ』と呼ばれる人造人間の陰謀であったことを説明していった。
もちろん、その過程で『始祖』についても説明せざるを得なかったし、2代目『魔法工学師』についても、詳しく説明していったのである。
口頭での説明なので、全てを説明するのには2時間ほど掛かってしまった。
「…………なかなか衝撃的な内容でした」
「全て真実だ。信じてもらえるだろうか?」
「はい。話の流れに矛盾はありません。真実と判断いたします」
「そうか」
* * *
蓬莱島でことの成り行きを見守っていた仁もマリッカもほっとした。
「これで、彼らと敵対する心配がなくなったな」
『はい、御主人様。非常に理性的でようございました』
「うん。これで彼らを『アヴァロン』へ連れて行っても安心だな」
『はい』
不安があった時は、マキナ3世の基地『アルカディア』へ、とも思ったが、今の様子なら大丈夫だろう、と仁は判断した。
「『アヴァロン』で俺……というか分身人形で対面するか」
『それならば安心です』
「『魔法障壁』を皮膚表面に沿って展開していれば、チェルにも見破られないようだしな」
そう、チェルの検知能力に対処すべく、デウス・エクス・マキナ3世は、体表面を『魔法障壁』で覆っていたのである。
これにより、チェルの魔力センサーを無効化できるわけだ。
今現在、操縦のための魔力波は、搬送波に『亜自由魔力素波』を使っているため、通常の『魔法障壁』は通過できるので問題はない。
「そうなると、また、礼子に行ってもらうことになるな」
「お任せください」
礼子はそう答えて『ミニ礼子』を仁の下へ送り込んだ。
ミニ礼子は仁の左肩にちょこんと座る。
「よし、それじゃあ『アヴァロン』に連絡をして、マキナ3世と俺……仁Dが行くことを伝えておこうか」
『はい、お任せください』
こうして、『アヴァロン』(世界警備隊)、『魔法工学師』、『デウス・エクス・マキナ3世』、そしてチェルとハーンらが協力して『捜理協会』の闇を暴くことになるのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日7月1日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210701 修正
(誤)そして、マキナ様とは有効な関係を築かれているご様子」
(正)そして、マキナ様とは友好な関係を築かれているご様子」
(旧)『そう思われます』
(新)『それがよろしいかと存じます』




