79-06 報告を通じて
仁は老君とこれからの行動計画を相談していた。
『御主人様、まずは手近なところを解決していき、作戦中に煩わされる心配をなくすことを提案します』
「うん、具体的には?」
『はい。『島基地』の管理です』
「なるほど。内容は?」
『はい。……転移魔法陣の閉鎖ですね』
「ああ、そうか」
今も発見者あるいはその関係者……『捜理協会』の関係者と思われる……が訪れている可能性もゼロではないし、今後訪れない保証もない。
まだ麻薬関連の資材が残っているので、放置はできないというわけだ。
そこで『島基地』側の転移魔法陣を無効にしてしまえば、もう訪れることはできなくなる、と考えたのである。
なにしろ、海を渡ってやって来ているわけではなさそうだからだ。
「転移魔法陣が使えなければ、99.99パーセント、『島基地』を訪れることはできなくなるだろうからな」
『そういうことです。こちらは簡易転移門を設置しておけばいいわけですし』
「よし、さっそくやってくれ」
『わかりました』
『島基地』にはランド隊と『職人』たちがまだ残っているので、そうした作業もすぐにできる。
『御主人様、終わりました』
老君が報告を行った。
仁が指示を出して1分後のことである。
* * *
「よし、それじゃあ次だ」
『はい、御主人様。『ルトグラ砦』の『敵基地』ですね』
「そうだ。これが当面の主目的だな」
『最終的にはどのような形で収まることをお考えですか?』
仁が望む決着の形を確認する老君。
「そうだな……。地上部の砦はそのまま残し、地下の魔導頭脳は無力化したいな」
『無力化ですか。……停止させますか? それとも『太白』のように移設しますか?』
「そうか……移設の場合、使い途はあるか?」
『今のところは特に。……そもそも、御主人様がお作りになる魔導頭脳の方が遥かに性能が上ですから』
「ありがとう。……そうか……そうすると完全に停止させる方向かな」
『破壊はなさらないんですね?』
「うん。俺の一存で、過去の遺産を破壊する、というのは抵抗があるからな」
『わかりました』
老君は、仁の要望を入れつつ、効果的な制圧手順をシミュレートしていく。
『もう1つ、破壊できない理由として、施設はセルロア王国に帰属しますからね』
「そうなんだよな」
無力化まではいい。
その後、セルロア王国に引き渡すことになるわけだが、その際のリスクが大きいと思っているわけだ。
「政治的な判断を含めるって難しくて面倒くさいよなあ」
『そうですね、御主人様』
老君としても、仁の立場もわかるだけに、判断に迷ってしまう。
いっそのこと『ルトグラ砦』地下の『敵基地』が暴走してくれれば、公然と破壊できるのだが、と思わずにはいられない。
『そうしますと……『魔導頭脳』は無力化する。戦闘用ゴーレムなどは全て停止させる。資料などが残っていたなら、全て確保する。その後、セルロア王国へ引き渡す。……こうした流れになりますが』
「そうなるだろうな。……ああ、『ギガース改』はなんとしても無力化しないとまずいだろうな」
『はい、御主人様。起動される前には確保できればいいのですが』
「その線で計画を詰めていこう」
『わかりました。……その前に、『島基地』に関して報告いたします。今度の参考になることがあるかもしれません』
「うん、そうだな。聞かせてくれ」
* * *
『『島基地』は、間違いなく未完成の施設です。『旧ディナール王国』の基地の特徴として、『魔導頭脳』と『自動人形』の組み合わせが見られるのですが、その魔導頭脳がありませんから』
対人用のインターフェースとして『自動人形』が置かれていた施設としてはフランツ王国にあった『魔導砦』が代表例である。
『そういう意味で、自動人形だけが配備されていた『島基地』は未完成と言えます』
「うん」
『魔導頭脳を設置する予定であろう空き室も見つけましたので、この推論は間違ってはいないと判断いたします』
「それでいいと思う」
『薬草関連の種ですが、麻薬になる『ファナ』の他にも、『ジギタリス』の種がありました』
『ジギタリス』は和名を『キツネノテブクロ』(狐の手袋)という。
英名のFoxgloveの直訳であり、花が深い袋状なのでそのような名前になったと思われる。
ただし、無計画に摂取すると危険だ。誤食すると、胃腸障害、おう吐、下痢、不整脈、頭痛、めまい、重症になると心臓機能が停止して死亡することがあるという。
強心剤としての薬効があると言われているが、近年は使われていないようだ。
『それからトリカブトの種もありました』
「毒草ばっかりだな」
トリカブトは有名な毒草で、別名を『附子』(あるいはぶす)という。
アコニチンというアルカロイドを全草に含んでおり、危険な毒草である。
ただし、適量を用いるなら水分の代謝を盛んにし、水分の偏在を除く、と言われている。
「他には?」
『はい。『アサガオ』の種がありました』
「お、それもいいな。蓬莱島で栽培してみよう」
『はい、御主人様。ですが、アサガオもまた有毒植物です』
「え、そうなのか?」
『はい。『賢者』の残した書物にあったそうです』
「うーん……毒草ばかり集めたのかな?」
『敵に飲ませたり、水に投げ入れたり……あるいは自決用としても栽培していたのではないでしょうか』
「ああ、そうかもな」
『食料にできる作物の種もあったようですが、全て持ち出されていました。『島基地』にあったリストと照らし合わせますと、『小麦』『大麦』『蕎麦』『豆類』が持ち出されたようです』
「『捜理協会』の奴らかな?」
『その可能性は大です。……『捜理協会』が信者に配り、栽培させているようですので』
「油断できないな」
『それからコーヒー豆が』
「お、それはいいな。品種が違うかもしれない。栽培方法はわかるのか?」
『はい。資料も一緒に保管されていましたし、栽培している地方もありますし』
「それもそうか。それじゃあ資料をコピーし、コーヒー豆も少しもらって蓬莱島で栽培してみよう。うまくいったら各国で本格的に作ってもらいたいな」
『わかりました』
これまでコーヒーはラシール大陸で見つかったものが流通していたが、薬用としてではあるが旧ディナール王国では少量栽培されていたようである。
品種が違えば味も違ってくるので、ちょっとだけ楽しみな仁であった。
ちなみに仁はブラックコーヒーは苦手で、やや甘いほうが好みである。
老君からの報告はもう少し続く……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210609 修正
(誤)『島基地』にあったリストと照らし合わますと、『小麦』『大麦』『蕎麦』『豆類』が持ち出されたようです』
(正)『島基地』にあったリストと照らし合わせますと、『小麦』『大麦』『蕎麦』『豆類』が持ち出されたようです』
(誤)『そうしますと……『魔導頭脳』は壊す。戦闘用ゴーレムなどは全て停止させる。
(正)『そうしますと……『魔導頭脳』は無力化する。戦闘用ゴーレムなどは全て停止させる。
(旧)
『ですが、施設はセルロア王国に帰属します。破壊はまずいのではないでしょうか』
「そうなんだよなあ。それがあるから迷っているんだ」
(新)
『もう1つ、破壊できない理由として、施設はセルロア王国に帰属しますからね』
「そうなんだよな」




