78-40 閑話131 過去にあったこと
『ルトグラ砦』が建設されたのは『魔導大戦』の初期。
その目的は『いざという時の避難所』というものが半分、『防衛戦のため』が半分。
当時の『魔族』(現北方民族)の侵攻ルートは、『パズデクスト大地峡』から東西に分かれた。
東ルートは現在の旧レナード王国の海岸線沿いに南下するルート。
もう1つの西ルートは『クリューガー山脈』の低い部分、現フランツ王国北西部、『カサカ川』沿いに南下するルート。
この2つがメインの侵攻ルートであった。
東ルートでの戦いの様子は機会を見て、ということにし、今は西ルートの説明を行う。
『魔導大戦』前期の主戦場はアスール湖の西に広がる平野部。
カシムノーレ遺跡やシューリレー遺跡はその名残である。
そしてアスール湖の南には、当時の巨大国『ディナール王国』の首都があった。
一部の人々は現エリアス王国のあるエリアス半島へ疎開した。
が、徹底抗戦を続けるディナール王国軍は、アスール湖から流れ出る大河、『ナウダリア川』沿いに南下しつつ戦っていた。
ナウダリア川沿いにある砦はその名残である。
『魔導大戦』中期になると、補給路が延びたため『魔族』の進行速度は落ちる。
人類側は一部で『焦土作戦』……敵に与えないため退却時に家も畑も全て焼き払う……を実行したのである。
この頃、人類の生存圏である『ローレン大陸』南部に砦が多数建設された。
そして、戦線は膠着状態となる。
戦闘用ゴーレムが活躍したのはこの時期である。
そして『黄金の破壊姫』エレナが戦場を跳梁跋扈したのも……。
同時に、いざというときのためのシェルター的な施設の建設も行われ始めた。
『ルトグラ砦』の地下施設はその1つである。
『魔導大戦』後期には、セルロア王国最南端にある島の地下にも地下施設の建設が始まったのだが、完成を見ることなく『魔素暴走』によって『痛み分け』という形で大戦は終了したのである。
そして同時に、建設中だった施設はすべて放棄された。いや、『自由魔力素』濃度の低下により、魔導具・魔導機が使えなくなったため、放棄せざるを得なかったのである。
『ルトグラ砦』地下の『魔導頭脳』もまた、『自由魔力素』の枯渇により強制スリープ状態へと移行したのである。
* * *
その遥か後、『アルス』上の『自由魔力素分布』の偏りは、『始祖』が遺したシステムによる『自由魔力素』の搾取によるものであったことが判明。
それを知った仁による、惑星『アルス』上の『自由魔力素分布』を正常化するというプロジェクトが始動。
『自由魔力素分布』を是正したことにより、ゆっくりとした速度ではあるが、自由魔力素濃度が正常化していったのである。
そして大陸暦3775年。
『島基地』の青髪自動人形、『ユミィ』と『ヴェラ』が再起動。
同じ頃、『ルトグラ砦』地下の『魔導頭脳』もまた、スリープ状態から復帰したのであった。
《……私は……再起動したのか……》
だが、600年以上の歳月は、『魔導頭脳』と『付随施設』の機能を損ねるのに十分であった。
《自己修復機能……72.0パーセント低下。……まずは自己修復機能の修復からだな》
自己修復機能を持つ『魔導頭脳』は、人間には真似のできない冷静さをもって、機能回復に努めることにした。
……10日後。
《低下度71.9パーセント》
……100日後。
《低下度70.9パーセント》
……1年後。
《低下度64.4パーセント》
……10年後。
《低下度12.5パーセント。自己修復機能もかなり回復したようだ。これなら、他のセクションと同時並行で修復できるだろう》
そこから、修復の速度が加速していく。
《システム修復、89.3パーセント完了。……資材が足りなくなりそうだな》
予想以上の損耗であったため、修復用の資材が不足することがわかった。
《あと1ヵ月で資材が底をつくな。今のうちに確保しなければ》
そういうわけで『魔導頭脳』は、修理済みのシステムから、戦闘用ゴーレムを3体起動し、『外』へと派遣したのである。
資材の確保先にはあてがあった。
先日、連絡してきた『未完成な施設』である。
『完成した施設』であるここと比較したら、重要度の差は明らか。
《必要な資材をもらってくることにしよう》
場所はわかっていた。
システムの修復が9割方終了しているので、『逆探知』も可能になっていたからだ。
《大陸の南端にある島の地下。転移用の魔法陣が必ず近くにあるはず》
そういう前提でのゴーレム派遣である。
そして、その予想は当たった。
セルロア王国……既に『ディナール王国』は滅んでおり、幾つかの国に分裂したことも『魔導頭脳』は把握していた。
そのセルロア王国最南端の町クゥプの郊外に、地下施設があるはずなのだ。
そしてその地下施設に、島へ渡るための『転移魔法陣』が設置されているはずである。
もし、手間が掛かるとしたらその『転移魔法陣』の捜索であろうと思われた。
とはいえ、10日以上掛かるはずはない。
というのも、こういった転移魔法陣の設置工事には『癖』があり、『魔導頭脳』はそれを把握していたからだ。
まず、水の影響を受けにくいよう、やや高くなった場所を選び、そこの地下に専用の施設を作る。
その際、出入り口の隠蔽のためにすることととして、『大岩での蓋』もしくは『完全な埋設』を行う。
そしてこのクゥプの場合は『完全な埋設』であった。
《魔法陣があるなら、『自由魔力素濃度』を一時的に高めれば、魔力反応があるだろうな》
そして『魔導頭脳』は、旧……最早滅亡した国なので旧を付ける……ディナール王国の技術にもかなり詳しかった。特に軍事関係には。
予想どおり、一時的に『自由魔力素濃度』を高めたところ、4回目にして地下から反応があったのである。
そこは、付近になにもない低い丘。
戦闘用ゴーレムは『魔導頭脳』の指示に従い、穴を穿っていく。
縦穴ではなく、斜めに掘っていくのだ。……工学魔法で。
1時間後、穴が貫通した。
《よし》
穴の底には小さな部屋があり、そこには転移魔法陣が刻まれていた。
密室内にあったので、ほとんど劣化しておらず、すぐにでも使える状態だった。
《1体はここで見張りをし、2体が転移せよ》
『魔導頭脳』は3体のうち2体を送り込み、1体を見張りに残した。
転移した先は、未完成の施設。
《ふむ、それなりに使えそうな資材はあるか。よし、機能していない未完成の施設からであれば遠慮はいらぬ。こちらで有効に活用してやろう。必要な素材を持ち出せ》
『魔導頭脳』の指示により、その施設を維持するために保管されていた資材の大半が持ち出された。
それを止めようとした2体の『青髪の自動人形』は一撃で沈黙。
さらに、
《大金庫室……か。資源不足でアダマンタイトではなく合金鋼か。なら穴を穿ち、中を調べてみろ》
という指示も出された。
施設を破壊されるということで繰り出された戦闘用ゴーレム3体も破壊された。
《自動人形もゴーレムも、旧型だな……。大戦末期で慢性的な資源不足だったのだろう。出来もよくないし素材も低品質だ。持ち帰る必要はない》
『魔導頭脳』はそう評価した。
大金庫の中には、大したものはなかったが、唯一……。
《おお、『ギガース改』の魔力核もあったのか。それも持ってくるように》
と、2個の『ギガース改』の魔力核が持ち出された。
そうして2体の戦闘用ゴーレムは、必要と思われる資材と全て持ち出したのである。
《ふむ、このくらいでよかろう》
『魔導頭脳』は、『薬草の栽培室』のように、今現在役に立たないと判断した設備は完全に無視している。
医療用ゴーレムも必要とはしなかった。
なにしろ、『魔導頭脳』が仕えるような人間がいないのだから。
《十分な資材が手に入った。戻ってこい》
そして3体のゴーレムは帰還した。
クゥプの丘には地下へと続く穴が残されたまま……。
後に、偶然その穴を見つけた者がおり、残った資材を手に入れ、大きな力を得た……ようである。
* * *
時に3785年。『魔法連盟』が世界に大きな影響力を持っていた頃のことである。
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本日6月3日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
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20210603 修正
(誤)この頃、人類の生存権である『ラシール大陸』南部に砦が多数建設された。
(正)この頃、人類の生存圏である『ローレン大陸』南部に砦が多数建設された。




