78-38 誤解と危機と
〈『魔族』に酷似した魔力パターン感知。地上部、砦内に侵入せり〉
『魔導頭脳』配下の地上部センサーが非常事態を伝えてきた。
《地上の砦に、人間と……『魔族』が砦内に!?》
『魔導頭脳』には理解できない事態であった。
《……可能性は2つ。『魔族』が捕虜の場合》
これなら『魔導頭脳』は何も行動を起こす必要はない。
《もう1つの可能性は、その逆の場合である。『魔族』は独自の洗脳隷属魔法を使うからな》
そこで『魔導頭脳』は今しばらく様子を見ることにした。
* * *
地上の砦に近付いてきた一団は、一見争い事とは無縁に見える。
『魔族』と思しき者も、拘束されている様子はない。
《……これは、『魔族』が人間を支配しているということか?》
残念ながら、音声を拾うための機構は損傷したままであり、彼らの会話を傍受することはできなかった。
だが『魔導頭脳』は、行動を観察するだけで十分であると考えていた。
《む!?》
地上の砦内を見学するかのように足を踏み入れてきた一行。
その1人が、『魔族』と思われる者に打擲されたのである。
《やはり『魔族』はあの人々を奴隷にしていたのか》
『魔導頭脳』は地下施設の機能を目覚めさせた。
そして奴隷にされた人々を救い、『魔族』を退治すべく、戦闘用ゴーレム2体と医療用ゴーレム2体を起動したのである。
《戦闘用ゴーレムは『魔族』の女を排除せよ。医療用ゴーレムは洗脳された人々を治療せよ》
地下施設と地上の砦を繋ぐ通路は幾つかあったが、そのほとんどは600年以上使われておらず、開く際に砦全体が振動するはめになった。
《ようやく開いたか。よし、出撃!》
その時、砦に設置された対空センサーが飛行物体を発見、報告してきた。
《何だ、これは……。この巨大な飛行物体は! ……『魔族』のものか? いや、『魔族』の魔力は感じぬ。まさか、これを人間が作ったのか!?》
『魔族』に重力魔法を使える者がいることを『魔導頭脳』は知っていた。
故に、それを応用して飛行しているのかと推測することができた。
しかし、その飛行物体からは『魔族』の魔力は感じられず、従って人間が乗っているものと結論する。
《そちらは様子を見よう。まずは砦内からだ》
『魔導頭脳』は、その飛行物体はとりあえず様子見とし、砦内の制圧を優先することにした。
《行け!》
戦闘用ゴーレムに命令が下った。
* * *
「な、何だ!?」
砦が鳴動……振動したことに驚く『調査団』の一行。
「ま、まさか……ここも『遺跡』だったのか!?」
誰かが叫ぶ。
その声に応じたわけではないだろうが、砦内、通路の奥から2体のゴーレムが現れた。
身長はおよそ2メートル、体格はゴツく、戦闘用ゴーレムと思われる。
「『GXー027』! 皆を守れ!」
グローマ・トレーが命令を出すと、『GXー027』は持っていた荷物を投げ捨て、迫りくるゴーレムの前に立ち塞がった。
同時に、護衛として付き添っているセルロア王国のショウ・ノリジもまた、グローマ・トレー、エイラ・シアータ、ラザロ・デロッシ、カイン・ゲイら非戦闘員を庇う態勢を取る。
「外へ逃げましょう!」
そして世界警備隊のアレオ・ヨカ・ナイツは、非戦闘員を砦外へ脱出させるべく、退路を確認しようとして……。
「こっちからもか!」
やや小柄な2体のゴーレムが迫ってくることに気が付いたのだった。
「対物結界!」
『アヴァロン』特製の防御兵器、『対物結界』を作動させる世界警備隊のアレオ・ヨカ・ナイツ。
これは数年前から実用化されたもので、言わば仁が使う『物理障壁』の劣化版である。
風属性魔法は『空気』を『動かす』魔法であると言えるが、その応用で『空気を』『動かさないように』して壁を作るのである。
その防御力は込めた魔力に比例する。
そして、駆け寄ってくる2体のゴーレムを弾き飛ばすことに成功した。
が、この魔法の大きな欠点は、『燃費が悪い』こと。
継続して展開すると、人間でも魔導具でもすぐに魔力切れを起こしてしまうのだ。
ゆえにここぞという時を見極めて展開する必要がある。
「うわ……前もゴーレム、後ろもゴーレムか……まいったねえ」
さすがのエイラも顔を引きつらせている。
「くっ、『GXー027』、頑張れ!」
そしてグローマも、頼みの綱のゴーレム、『GXー027』が劣勢なので顔を青ざめさせている。
1対1なら負けないのだが今は2対1で、しかも背後の人々を守りながらなので戦いにくいのだ。
唯一の救いは、敵ゴーレムが武器を手にしていないことか。
「ぎゃっ!」
「な、なんだ!?」
グローマは、背後で上がった悲鳴に思わず身を固くした。
その悲鳴は、背後からきたやや小柄のゴーレムに捕まった医療研のカイン・ゲイが上げたものだった。
カインは気を失い、やや小柄のゴーレムは彼を通路の端に寄せ、静かに横たえたのである。
そしてもう1体の小柄なゴーレムは土木研のラザロ・デロッシを気絶させ、通路の端に横たえている。
「くっそー! いったいなんなんだよ、こいつら!」
たまらずエイラが絶叫する。
今、小柄な2体のゴーレムはセルロア王国兵士のショウ・ノリジと世界警備隊のアレオ・ヨカ・ナイツが相手取っていた。
1対1ではなく、2対2の形で、である。
アレオ・ヨカ・ナイツが『対物結界』で防ぎ、ショウ・ノリジが剣で攻撃を行う。
が、防御はともかく、剣での攻撃では相手に与えるダメージは少なかった。ちまちまと削っていくしかないのである。
そんな中、エイラは状況を見て、やや不利なグローマとゴーレム『GXー027』の方をサポートすることにした。
「『明かり』!」
工学魔法『明かり』で敵ゴーレムの目を狙う。
人間のように目が眩むことはないだろうが、わずかなりとも動作を鈍らせられればと思ったのだ。
また、『明かり』なら狙いをつけやすい上、フレンドリーファイアを起こしにくい。
「いいぞ、エイラ! 何もしないよりマシだ!」
「なんで一言多いのかね、このロクデナシは」
「相変わらず口が悪いな!」
だが、そんな軽口を叩く余裕もそこまでだった。
さらにもう1体、戦闘用ゴーレムが増えたのである。
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