78-31 その頃
ギガース。
それは、周囲の自由魔力素を糧に、岩や石などを取り込み、人型を成す『人工魔物』である。
周囲の自由魔力素や魔力素を取り込んで動作する。
失敗作のため、一度動き出すと制御不能で、周囲に対し無差別の攻撃を仕掛ける。
そしてなぜか高い所を目指す習性がある。
……ということを仁は思い出していた。
「『ギガース改』は幾分か改善されています。具体的には『高い所を目指す習性』がなくなりました」
「……あまり意味がないな」
「そうでもありません。平野での戦闘における敵部隊の撹乱に使いやすくなりました」
「……まあそうか」
しかし、今問題となるのはそこではない。
「一体何者が『ギガース』……いや『ギガース改』の魔力核を盗み出したのだろう」
「わかりません」
「申し訳ございません」
「いや、それは仕方ない。2人のせいじゃないよ」
仁はしょげかえるヴェラとユミィを慰めた。
そして話題を変えることにする。
盗まれた『ギガース改』の魔力核とその犯人ゴーレムも気になるが、今は手近な問題から解決していかなくてはならない。
「施設を管理統括する魔導頭脳なんてものはあったのか?」
「いえ、ありません。設置しようという計画はありましたが、設置前に『魔素暴走』が起きましたので」
「そういうことか……」
未完成の施設なので致し方ない、と仁は考えた。
ここで老君が仁にアドバイスを行う。
『御主人様、質問の仕方を変えたほうがよいと思います。……ユミィとヴェラに、『捜理協会』や『公平党』のことを伝えたほうがいいと思います』
「なるほどな、わかった」
老君のアドバイスに従って、仁は2体のいた施設を調査している理由を説明した。
「そういう事情がおありなのですね」
「私たちに何ができるでしょうか?」
「まず、そいつらが施設で何を得たのかを知りたいかな」
「わかりました。調べてみましょう」
「あ、ここは施設ではありませんね?」
「ああ、俺の拠点だ。それじゃあ、施設へ戻ろう」
「お願いいたします」
「よろしくお願いします」
そこで仁は、ユミィとヴェラ、そしてランド隊10体を引き連れ、施設へと戻った。
* * *
「ご主人様は転移も使いこなしていらっしゃるのですね」
「さすがです」
「うん、それじゃあ、施設内の調査をしてくれ」
「わかりました」
「3時間ほど掛かるかと思いますが」
「それなら、このランド201に伝えてくれ」
「はい、ご主人様」
というように、『施設』の調査はユミィとヴェラに頼むことになり、『忍部隊』とランド隊はそのまま待機していてもらうこととなったのである。
* * *
さて、同じ頃、ロイザートの屋敷では。
「……だから、このxには3を代入して……」
「……あ、そういうやり方が……」
メルツェの勉強が行われていた。教師役はゴウである。
初めはルビーナが立候補していたのだが……。
「ええとね、ここの角度とここの角度が同じみたいに見えるから、こうやって比較して解を出してみて、とりあえず計算してみるのよね。で……ほら、合ってた」
「……そんなことできないよ……」
感覚派の彼女では、メルツェがわかるように説明ができなかったのである。
「こういうところはゴウのほうがうまいな」
「うー……どうせあたしは説明下手ですよ!」
ふくれっ面をするルビーナを、エルザが慰める。
「そうやって、いつまでも苦手意識を持っていちゃ、駄目。考えて、克服しなきゃ」
「エルザ様……」
「……まず、あなたは治癒魔法を覚えてみるべき」
「え?」
「モノづくりで怪我をした時、応急処置ができるといいから」
「それはそうですけど……あたし、『治癒魔法』の適性はないって言われてて……」
だがエルザは首を横に振った。
「大丈夫」
治癒魔法は魔力特性がフラットな方が適性が高いというだけで、ピーキーな人には使えないというわけではないから、と説明した。
「一定のレベルよりも高ければ、使うことは、できる」
「そうなんですか……」
「……これは最近の研究でわかったことも含んでいるから、『オノゴロ島』の人は、まだ知らないかも」
「あ、そうなんですね」
エルザの説明で納得したルビーナは、空き部屋に移動し、2人で特訓を開始した。
「まず、自分の魔力を『完全に』制御することから」
「は、はい」
エルザは『魔力過多症』であったため、自分の魔力……『魔力素』が暴走しないよう制御する術に長けており、こうした指導は手慣れている。
それで、感覚派なルビーナにもわかりやすい指導ができるのだ。
(エルザ様って……大人だなあ……)
指導を受けているルビーナも、きっちりとわかりやすいエルザの指導に、熱心に耳を傾けている。
そして1時間後には、初歩の治癒魔法、『癒し』を使えるようになったのであった。
「いい調子。この『癒し』は内科、外科両用で、小さな切り傷、軽い擦り傷、軽い打撲、悪心等を治すことができる。覚えておいて損はないから」
「はい!」
さらに1時間後には『痛み止め』と『治せ』まで使えるようになったルビーナである。
「やった、やった! エルザ様、ありがとうございました!!」
「ん、ルビーナちゃんの努力の賜物。それ以上の中級を覚えるなら、まず初級を使いこなしてから、ね」
「はい!」
治癒魔法を、初級とはいえ使えるようになって大喜びのルビーナであった。
そしてその一方でメルツェは、
(ゴウさん……教え方はわかりやすくて丁寧だし、1つしか違わないなんて思えないなあ……)
と、ゴウに対する評価を数段階上げていたのであった。
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