78-32 2回めのお祓い
2月15日、デウス・エクス・マキナ3世と従騎士レイは、商人『エクス』と『レー』として、再び『大聖堂』を訪れていた。
2人が大聖堂に足を踏み入れると、即座に神官風の者が寄ってくる。
どうやら昨日、多額の寄付をしたことが広まっているようだ。
寄ってきた者の1人は、昨日の『聖女』アリアンヌである。
その笑顔を見る限りでは、黒い企みを持つ似非聖女には見えないのだが……。
「ようこそおいでくださいましたね、『エクス』さん、『レー』さん」
「また『お祓い』をしていただきたくてやってまいりました」
「それはそれは。それではさっそく……」
通されたのは前回と同じ部屋だが、今回は『聖女』の他に『聖女見習い』という少女が1人付いている。
そして初めから『レー』用の椅子も用意されていた。
「腰痛の具合はいかがですか?」
「はい、少しよくなっているようですが、まだ痛みます」
「そうですか。それではまず、治療をいたしましょう。……『快癒』」
今回は診察を行わずに治癒魔法を行使。その一点を見ても、治癒士としての教育を受けていないことがわかる。
治癒士ならば、まずは『診察』を行うべきなのだから。
「……ああ、楽になりました。ありがとうございます」
「ふふ、お役に立ててよかったです」
そして今回も『エクス』は金貨10枚を寄付したのである。
「お志、誠にありがとうございます」
アリアンヌは『エクス』と『レー』に軽く頭を下げた。
そこへ、今度は見習いっぽい少女が、コップを3つ持ってやって来て、3人の前に置くと、無言のまま一礼して立ち去った。
また麻薬入りか、と察した『エクス』は、荷物の中から大きめの『魔結晶』を取り出し、テーブルに置くと見せかけ、アリアンヌの方へと転がした。
転がった『魔結晶』はアリアンヌの横を抜け、床に落ちる。
「あら」
「す、すみません」
アリアンヌは屈んでその『魔結晶』を拾い上げる。
彼女の視線が遮られたその瞬間、『エクス』は人間には不可能な速度で、アリアンヌのコップと自分のコップを入れ替えたのである。
「失礼致しました。この『魔結晶』も『お祓い』をしていただきたくて持参したのです」
「そうでしたか」
今回のものは前回寄付したものより2周り大きい。
価値としても十数倍はあるものだ。
「わかりました。今日はこちらも『お祓い』させていただきますね」
にこやかにそう言って、『聖女』アリアンヌはその『魔結晶』をテーブル中央に置いた。
そして、
「どうぞ、お飲みください」
と言ってアリアンヌはまずコップに口を付けた。
続いて『エクス』と『レー』も飲み物を口にする。
昨日同様、麻薬成分が僅かに含まれた飲み物であった。
……驚いたことに、『エクス』のものも。
(……すると、『聖女』も、微量とはいえ『麻薬』を摂取しているということなのか?)
これは驚くべき発見であった。
『捜理協会』における『聖女』の役割について、認識を改める必要があるかもしれない、と『エクス』……を操縦している魔導頭脳『導師』と、その上司である老君は考えを改めたのである。
* * *
飲み物を飲んだあと、『聖女』アリアンヌが口を開いた。
「今日は、お時間はいかがでしょうか?」
「昨日よりは余裕があります」
「そうですか。それでは、『お祓い』の前に少しお話をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「はい」
「ありがとうございます。……では」
一息置いてアリアンヌは話し始めた。
「悪想念、というものがあります」
「……はい」
「人は善のみではいられません。欲望は誰しも持っているもので、それ自体は悪ではないのです」
「はい」
「他者を害してでも己の欲望を満たそうとする、それが悪です」
「……確かに、そうかもしれませんね」
「では、なぜ『他者を害してでも』という思いが生じるのか。……そこに私どもの理念があります」
「はあ」
「他者と自分を比べ、不満を持つこと。では、なぜ不満が生じるのか。それは自分が他者より劣っていると感じるからです」
「……なるほど」
多少言いたいことはあるが、今は『聖女』の話を聞く時、と、『エクス』を操縦する『導師』はおとなしくしている。
「それゆえに、そうした世の中を変えていかなければならないのです。すなわち『公平』です」
ここで、相手が喜びそうな質問をしてみる『エクス』。
「平等とは違うのですか?」
「違います。……『平等』は『皆同じに』ということですから、例えるならお金持ちにも貧しい人にも、同じ物を与えるということになります。1万トール(約10万円)は、貧しい人には大金ですが、お金持ちには大した金額ではないでしょう」
「……耳が痛いですね」
「あ、いえ、『エクス』さんは、そうした格差を是正しようと、2度もお布施を行ってくれています。これが大事なのです」
「ありがとうございます」
「……話を戻しますね。『公平に』というのは簡単ではありません。ですが、だからといって安易に『平等』でいい、というのは間違っています」
「確かにそうかも知れませんね……」
「そうした『公平さ』を求めるための理念を私たちは求め続けているのです」
「そうなんですか」
「何かご質問やご意見はございますか?」
「ええと、それじゃあ1つ」
「はい、何でしょうか」
「前回『お祓い』をしていただきましたが、あれと『公平』にどんな関係が?」
この質問に『聖女』アリアンヌは莞爾として微笑んだ。
「よい質問ですね。『公平』を目指すための1つの手段は、『持つ者』から『持たざる者』への奉仕です。つまり、健康な者から病気を持つ方への奉仕とも言えます」
「ああ、そういうことですか。よくわかりました」
「ふふ、『エクス』さんはわたしどもの協会に興味がお有りですか?」
「……そうですね……実際にこうして腰痛を治療していただいて、なんというか……あなた方の活動に興味が湧いた、というのが正直なところです」
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
そして『聖女』は再び『お祓い』を行う、と言った。
「では、身体の力を抜いて、リラックスしてください……」
『聖女』アリアンヌは前回同様、首から提げていたペンダントを両手で捧げるように持ち、詠唱を行う。
ペンダントが淡い光を放ち始める……。
(ふむ、やはり弱い『暗示』だな。あのペンダントが魔導具になっているようだな)
前回以上の詳しさで一連の流れを分析していく『エクス』。
そしてペンダントの光が消え、
「『お祓い』はこれで終わりです」
と『聖女』アリアンヌは告げたのだった。
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