78-26 島の調査
クゥプの南海上にある島。
それに名前が付いていない理由は、主に2つ。
1つは距離。
地球よりも半径が小さいアルスでは、見通せる水平線までの距離が短いのだ。
半径が1200キロメートルとして、目の高さが1.5メートルなら見えている水平線までの距離は1.9キロとなる。
クゥプには高い土地がないし、高い建物があるのは海から離れているので、10キロちょっと離れている島は目視できないことになる。
そしてもう1つ、こちらの方がより重要で深刻な理由なのだが、それは島の周りに『幻影結界』に似たものが張り巡らされていて、近くに寄っても島が見えないようになっていることである。
このため、船で沖へ出たとしても、島は見えないということになる。
加えて、クゥプのある岬状の先端と島の間は海流が速く、船が近づきにくいということもあって、これまで島が現地の者に認識されることはなかったのである。
ただし、『ウォッチャー』のように高空から観察すればそこに島があることは一目瞭然。
ゆえに蓬莱島の地図には大小2つの島が描かれていた。
そのため、まさか現地では島があることを知らないとは思いもよらぬことだったのだ。
* * *
『そこまではわかっているのですが、誰が、いつ、このような結界を張ったのか、まだわかりません』
蓬莱島の魔導頭脳老君は、仁にそう報告した後、さらなる調査の計画を立てていく。
今のところ、『魔法連盟』や『新魔法連盟』のように表立って反社会的行動をとってはいないので、武力に訴えるような処置は下策である。
麻薬の使用だけが今のところ問題となるが、これも信者だけであるため、大事にはしづらかった。
まして、未知の施設があるとすれば、慎重にならざるを得ない。
まずは、その施設の情報を集めることが肝要である。
『ここは、やはり『忍部隊』の出番ですね』
小さいということはそれだけで認識されづらいということ。秘密裏の情報収集という点において、彼らを凌駕するものはいない。
そして老君は『忍 壱』から『忍拾』まで、つまり全員をその島に送り込んだのであった。
* * *
〈……何だ、この島は?〉
思わずそんな感想を抱いてしまうほど、荒れ果てた風景だったのだ。
海岸付近はゴツゴツした岩がむき出しの地面。塩害に強い草や灌木がところどころに生えているだけ。
基地とか拠点とか、そういう単語が似合わないことこの上ない。
〈いつものように二人一組になってこの周辺を探索しよう。私は拾と。弐は玖と。……足して11になるようペアを組み、ツーマンセルで行動だ〉
〈了解〉
〈了解〉
そして彼らはそれぞれの調査対象を探し、散開した。
〈……うーむ、なにもない〉
〈ありませんね……〉
『忍壱』と『忍拾』は、海岸線を調査したが、めぼしいものは何も見つけられなかった。
〈岩と草ばかりだ〉
〈本当になにもないな……〉
『忍弐』と『忍玖』、『忍参』と『忍捌』は海岸から50メートルほど内陸に入ったあたりを調査している。
〈灌木と草。足跡もない〉
〈人の痕跡もないな〉
『忍肆』と『忍漆』もまた、何の手掛かりも見つけていない。
〈結界が張られているのだから、守っているなにかがあるはずなのだ〉
〈でもそれは、この付近ではないということになるのだろうな〉
『忍伍』と『忍陸』もまた、何も見つけられていないのであった。
〈……海岸線付近には何もなさそうだ。内陸へ向かうぞ〉
〈了解〉
* * *
そういうわけで『忍部隊』は内陸へ向けて進んでいる。もちろん調査を行いながら、である。
〈相変わらず痕跡がないな〉
〈うむ〉
本当に『捜理協会』と『公平党』の拠点なのか、疑わしくなってくる。
〈だが、中心部にそれらしい施設があるのは間違いない〉
〈老君が『覗き見望遠鏡』で確認しているからな〉
〈……だが、そこに誰かがいるのを見たことはないのだろう?〉
〈そうだ。とはいえ、24時間監視していたわけではないし、期間も1週間ほどだがな〉
〈そうなると、思いつく理由が1つ〉
〈そうだな〉
〈……転移門、あるいは転移魔法陣、だな〉
〈それなら、島の外側に人が入った気配が微塵もないことは説明できる〉
『忍部隊』の面々は意見を交わしあった。
〈転移で行き来しているとすれば、最初はどうしたのかという疑問が残るが〉
〈それについては、最初だけは海を渡って辿り着いたか。あるいは未知の転移門で飛ばされてきたか……ではなかろうか〉
〈ありうることだな〉
だが今大事なことは、基地もしくは施設を発見、確認して、『覗き見望遠鏡』では得られないような連中の情報を少しでも多く得ることである。
〈この上は、調査をより簡潔にして、中心部を目指す速度を上げるとしよう〉
『忍壱』の言葉に、全員が賛成する。
〈それでいいと思います〉
〈結果的に目的の達成が早くなるでしょう〉
〈よし〉
ということで、10体は倍の速さ……調査をしながらなので時速2キロほど……で中心部を目指したのである。
* * *
島の長径は20キロもなく、従って『忍部隊』が踏破すべき距離は10キロもない。
よって5時間弱で10体は島の中心部に到着した。
そこは海抜にして40メートルほどの、丘とも呼べないような地面の盛り上がり。
植生も灌木が大半で、喬木は1本も生えていない。
〈ここの地下30メートルに目指す施設があるのか〉
〈老君の調査によればそういうことになる〉
老君から、転移先の情報が送られてきているのだ。
〈深さはわかっているから、転移で潜入するのがいいと思うが、どうだろう〉
〈二人一組で、片方が緊急離脱の転移準備をしておき、もう片方が潜入の転移を行うのがいいと思うのだが〉
〈それがいいでしょうね〉
と、『忍壱』の意見が採用され、まずは『忍弐』と『忍玖』が転移することになった。
1分経っても2体が戻ってこない時は次の2体が転移する手筈になる。
〈では、行きます〉
〈気をつけてな〉
そして弐と玖は転移した。
1分経っても何事も起こらず、2体も戻ってこないので、参と捌が転移。
その1分後、肆と漆、また1分後に伍と陸が転移していった。
そして最後に壱と拾も転移したのである。
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