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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
78 過去からの縁篇
2958/4346

78-25 潜入捜査

 『エクス』と『レー』が通された先は、4畳半ほどの広さで、壁も床も天井も真っ白な部屋であった。

 部屋の中央にぽつんと小さなテーブルが一つ、向かい合わせに椅子が1つずつ。

 その1つを勧められ、『エクス』は座る。


「お連れ様の椅子を用意しますね」


 『聖女』アリアンヌはそう言って、壁に立て掛けられていた折りたたみ式の椅子を運んできて『レー』に勧めた。


「ありがとうございます」


 礼を言って『レー』は椅子に腰を下ろした。


「では、手短にお話しいたしますね」

「お願いします」


 テーブルを挟んで『エクス』『レー』と『聖女』アリアンヌは対面して座っている。


「まず、『エクス』さんは商人ということでしたが、何を扱っていらっしゃいますか?」

「主に魔石、魔結晶(マギクリスタル)などの魔導素材ですね」

「まあ、それはそれは。……何かサンプルなどはお持ちですか?」

「え? ああ、そうですね。商人ですから、観光旅行中でも幾つかは持っておりますよ」


 『エクス』はそう言って『レー』に持たせたカバンから、3つほどの魔結晶(マギクリスタル)を取り出してテーブルに置いた。


「拝見します」


 『聖女』アリアンヌはそう断りを入れて魔結晶(マギクリスタル)を手に取った。


「これは…………!」

「何か?」

「……『エクス』さん、あなたの体調がよろしくないのは、こうした素材の影響もあります」

「え?」

「ある種の魔結晶(マギクリスタル)は、所持する人のジンを吸収したり、悪想念をばらまいたりすることがあるのです」

「は、初めて聞きました」

「そうでしょう。……これは我々『捜理協会(そうりきょうかい)』が見つけ出した『ことわり』の1つなのです。何も知らない世間の人々は、知らないうちに肉体と精神を蝕まれているのですよ」

「お、恐ろしいですね……」


 どうやらこれが手口のようだ、と『エクス』を操縦する『導師』は推測した。そして相手に合わせた態度を心掛ける。


「……どうすればいいのでしょう?」


 『聖女』アリアンヌは微笑んで答える。


「多額のお布施をいただきましたので、わたくしが『おはらい』をいたします。……ああ、申し訳ございません、今、お飲み物を用意しますね」

「お気遣いなく」

「いえ、これも役目ですから」


 『聖女』アリアンヌは席を立つと、隣の部屋へ行き、すぐに戻ってくる。

 その手にはトレイがあり、3つのコップが乗っていた。


「どうぞ」


 『エクス』、『レー』、そして自分の前にコップを置き、一口飲んで見せる『聖女』アリアンヌ。

 毒が入っていないアピールなのかもしれないが、コップに注ぐところを見せていないのであまり意味はない。

 が、『エクス』も『レー』もそれを指摘することはせず、


「いただきます」


 と言ってコップの中身を口に流し込んだ。

 水かと思いきや、ほんのりとラモン(レモン)の酸味とハチミツの甘味が口の中に広がる、爽やかな飲み物であった。

 いわゆる『ハチミツラモン』である。


 薄めたハチミツにラモンの絞り汁を加えてもいいのだが、本格的に作るならハチミツ中にスライスしたラモン(もちろんよく洗って)を漬け込んで数日置くのである。


 それはさておき、そこにはごく少量の『麻薬』の成分が含まれていたのだが……人間には感知できないであろう。

 『エクス』と『レー』は、『麻薬成分』については気付いた素振りも見せず、中身を飲み干したのである。


「喉が渇いていたので、美味しくいただきました」

「それはよかったですね」


 そして『聖女』アリアンヌは少し世間話を行う。これは『麻薬』が効いてくるまでの時間稼ぎであろうと思われた。

 飲まされた『麻薬』は極微量なので、この程度だと精神が活性化し、短時間の高揚感を覚える程度である。体内に残留もしない。

 だが脳は、その高揚感を記憶してしまい、また味わいたいと思い始めるのだ。それこそが『常習化』『依存性』である。


「では、簡単な『おはらい』をいたします」


 『聖女』アリアンヌは首から提げていたペンダントを取り出し、それを両手で捧げるように持つと、聞き取れぬような詠唱を行った。

 するとペンダントが淡い光を放ち始める。

 ごく弱いが、『暗示(セデュース)』の効果も含んでいるようだ、と『エクス』は看破した。


(ふむ、『麻薬』が効き始めるタイミングでこれか。なかなか凝った演出だな。……これでは、普通の人間ならころっと騙されるかもしれん)


 だが『エクス』も『レー』も、人間ではない。このような『暗示』も『麻薬』も効きはしないのだ。

 とはいえ、ここは『掛かった振り』をするところ。

 『暗示(セデュース)』は『相手の言葉を信じやすくする』もの、『麻薬』は高揚感をもたらし、いい気分にさせるもの。

 その効果を受けたように振る舞うことは難しくはない。


「お、おお……なんとなく頭の中がすっきりしました。身体の中の淀んだ感じも消えたような気がします」

「私もです……」


 『エクス』と『レー』は、『聖女』アリアンヌが望んだような反応を見せた。


「ええ、それが『おはらい』の効果です。ですが、これまでどおりの生活を続ければ、すぐ元に戻ってしまいます」

「そうなのですか? とてもいい気分なのですが」

「この『大聖堂』の中は汚れが浄化されやすくなっていますが、一歩外に出ればそこは『俗世』。欲望と欺瞞と悪意に満ちた世界です」

「は、はあ……」

「あまりお時間をとっても申し訳がございません。……もし、我々の活動に興味を持っていただけたら、またいらしてください」

「あ、はい」

「今日はご参詣、ありがとうございました」


 やや唐突な終わりの切り出し方であったが、『暗示(セデュース)』が効いているとすれば、これで『仕込み』は終わったのだろう、と『エクス』を操縦している『導師』は判断したのである。

 この突き放したような態度によって、逆に縋り付きたくさせる、という心理的効果もあるのかもしれない。


「こちらこそ、ありがとうございました。あ、この魔結晶(マギクリスタル)も寄付いたしますので、役立ててください」

「まあ、それはそれは、ありがとうございます」

「ありがとうございました」


 『エクス』と『レー』は礼を言って部屋を出た。来た時とは反対側の扉から出れば、裏手にあるホールに出、そこにも白い服を来た者たちが幾人かいてにこやかに2人を送り出したのである。


*   *   *


『ふむ、まずは巧妙な手口だったと言えますね』


 蓬莱島で『導師』と共に事態を観察していた老君は、一連のやり取りをそう判断した。


『まずは軽い高揚感を与え、再訪したくなるようにする』


 今回の『麻薬』は、ほとんど身体に害を及ぼすことはなく、ただ『もう一度』という願望を掻き立てるためのもの。

 そして再訪した者を少しずつ薬漬けにし、自分たちのために働かせるわけだ。


『あの『暗示(セデュース)』には、『大聖堂』で何が行われているか吹聴しないように、という指示も含まれているようですしね』


 『エクス』の感覚器官を通じて入手した魔力反応を分析した結果出した結論である。


『次は、あの『島』の調査が必要でしょうね……』


 クゥプの南海上に浮かぶ島。

 何故か名前のないその島には、『捜理協会(そうりきょうかい)』と『公平党(エキーター)』の本部がある……はずなのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


  本日5月20日(木)は14:00に

  異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す

  https://ncode.syosetu.com/n8402fn/

  を更新します。

  こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。


  20210521 修正

(旧)

「こちらこそ、ありがとうございました」

(新)

「こちらこそ、ありがとうございました。あ、この魔結晶(マギクリスタル)も寄付いたしますので、役立ててください」

「まあ、それはそれは、ありがとうございます」

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― 新着の感想 ―
[一言]  もう、どうしようもないことですが、『導師』がダブってしまいましたねえ。一瞬、『捜理協会』の『導師』と勘違いしそうになりました。  まさか、『導師』の取り違えが起きる伏線ですか。
[良い点] 麻薬といいセデュースといい、イリーガルなニオイがぷんぷんしますねぇ。 ホ「こいつはくせぇ、g(めぎょりん☆)」死〜ん 礼「不自然な立ち姿のポーズで決め台詞するのをやめなさい#」 ホ(速攻復…
[一言] >『聖女』アリアンヌはそう断りを入れて魔結晶を手に取った。 >『聖女』アリアンヌは席を立つと、隣の部屋へ行き、すぐに戻ってくる。 > その手にはトレイがあり、3つのコップが乗っていた。 ん…
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