78-24 大聖堂
2月14日朝。
デウス・エクス・マキナ3世とレイは、それぞれ『エクス』と『レー』と名を変え、観光に来た商人に偽装して『捜理協会』に潜入することにした。
『エクス』は若旦那、『レー』は付き人、と言う役割である。
まずは『第5列』の『デネブ25』、通称『ミア』に案内してもらい、『大聖堂』へと向かう。
「これは……」
明らかに異質な建物がそこにあった。
周りは石造り、もしくは木造の建物で、『四角い』。
だが『大聖堂』はレンガ造りで、しかも『三角』……というよりも……。
「……ピラミッドか?」
四角錐の形をしていたのである。
「すごいでしょう?」
ミアが笑っている。
そういえば昨夜、情報交換をした際に、この『大聖堂』の『外見』だけは教えてもらっていなかったことにマキナは気が付いた。
〈先入観を持ってもらいたくなかったので、お伝えしなかったのです〉
内蔵魔素通信機での通信がマキナに届いた。
〈この『大聖堂』を見た観光客は皆、驚きます。マキナ殿もレイ殿も、そうした人の仕草の再現をされているので、素直に驚いてもらったほうが、周囲の目をよりごまかせるだろうと考えたのです〉
〈なるほど、そうだったのか〉
〈とはいえ、成功率のアップはコンマ数パーセントかもしれませんが〉
〈いや、ほんの僅かでも、作戦の成功率を上げるということは大事だからな〉
そんなやり取りを0.4秒で済ませたマキナとミア。
「ここは、一般観光客でも『お布施』をすれば入ることができます。私は入りませんけどね」
「わかった。案内ありがとう」
「それでは」
これでミアのサポートも終了。マキナ改め『エクス』と、レイ改め『レー』は、商人の主従を装い、『大聖堂』へと向かったのである。
* * *
入り口に立つ『神殿騎士』によく似た格好をしている門番に、2人分のお布施として金貨1枚を払い、中へ入れてもらう。
「ほう」
ピラミッド型の『大聖堂』。その内部は豪華な作りだった。
白い大理石製の床。
蛇紋岩の柱。
縞瑪瑙の装飾。
天井は御影石。
どれだけの金と労力を注ぎ込んだか、ちょっと見当がつかない。
……普通の人間には。
『エクス』には、それら目を引く素材が、全て見せかけのまやかしであることが見て取れたのである。
普通の石材をそれらしく見せた『張りぼて』なのだ。
(それでも、これだけ大きなものを作るのはそれなりに大変だっただろうけどな)
『捜理協会』もしくは『公平党』の財力が並々ならぬものであることがわかろうというもの。
『エクス』と『レー』は奥へと歩みを進めていった。
2人が歩いているのは中央入口から続いている通路。
『エクス』たちの他にも、ちらほらと観光客らしき者もいる。そして信者らしき者も。
2人が歩く通路は、幅は10メートルもあり、天井までの高さも5メートルくらい、ちょっとしたホールのようだ。
その通路の行き着く先には、何やらわけのわからないモニュメントが立っている。
神像の代わりなのか、あるいは別の意味があるのか。
信者はその前に跪いて祈っている。
『エクス』と『レー』はそこまではせず、信者ではないことが一目でわかるよう黙礼をするに留めた。
そして順路らしきルートに沿って歩いていく。
今度は普通の通路だ。
そして出たのは小学校の教室くらいの部屋。
「ようこそ『大聖堂』へ。観光ですか?」
『エクス』たちに声を掛けたのは、20代後半くらいの、神官のような白い衣に身を包んだ女性だった。
これが『聖女』かもしれないな、と思いつつ、『エクス』は返事をする。
「ええ。知人にこちらのことを伺い、見学させていただいてます」
そして答えながら腰を軽く叩く。まるで腰痛を抱える者のように……。
その演技は完璧で、それに気が付いた『聖女』が気遣って言葉を掛けるほど。
「腰がお悪いのですか?」
「え、ええ。以前重い荷物を持った時に腰を痛めまして……」
「まあ、それはお辛いでしょうね」
「治癒士に掛かっても、なかなか全快しないのですよ」
「それはお気の毒に。……よろしければ、わたくしが診察いたしましょうか? あ、申し遅れました。わたくしはアリアンヌと申します。この『捜理協会』で僭越ながら『聖女』と呼んでいただいております」
『エクス』は驚きを隠せないような声を上げた。
「おお、これはこれは、聖女様でしたか。私は『エクス』。しがない商人です。こっちは従者の『レー』です」
「これはご丁寧に。で、どういたしましょう?」
「ありがたいお申し出ですが、旅先ゆえ、いくらも持ち合わせがありませんが……」
そんな『エクス』の答えに、『聖女』アリアンヌは笑って答えた。
「お金のことはお気になさらず。……運よく治せましたら、お心付けをいただければ幸いですわ」
「そうですか……それでは診察をお願いいたします」
* * *
そういうことになり、『エクス』『レー』そして『アリアンヌ』らは右手の壁にあった扉をくぐって、より小さい部屋に出た。
どうやら診療室だったようである。
「それでは、こちらへお掛けください」
「はい」
「まずは診察の魔法を掛けさせていただきます」
「お願いします」
「体の力を抜いてください……『診察』……なるほど……慢性的なぎっくり腰ですね」
「え……治りますか?」
「大丈夫です。それでは治療してしまいましょうね。『快癒』……」
「おお、随分と楽になりました」
「それはよかったですね」
「……それでは、感謝の意を表し、心付けを弾ませていただきます」
そう言って『エクス』は『浄財』と書かれた白い箱に金貨10枚、つまり日本円で100万円に相当する金額を寄付したのである。
「まあ、これはこれは、ありがとうございます。もし、お時間がございましたら、奥の部屋でお話をさせていただけませんか?」
「そうですね……あまり時間が掛からないのでしたら」
「それはお約束します。……では、こちらに」
『聖女アリアンヌ』は『エクス』と『レー』を、さらに小さい部屋へと案内したのであった。
内心で『エクス』は『ちょろいな』と思っていたようである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210519 修正
(誤)その通路の行き着く先には、何やらわけのわからなないモニュメントが立っている。
(正)その通路の行き着く先には、何やらわけのわからないモニュメントが立っている。
(誤)『エクス』たちに声を掛けたのは、20大後半くらいの
(正)『エクス』たちに声を掛けたのは、20代後半くらいの
(旧)〈先入観を持ってもらいたくなかったので、お教えしなかったのです〉
(新)〈先入観を持ってもらいたくなかったので、お伝えしなかったのです〉




