78-13 懐かしい味
一方、ココナとアマンダも、親しげに話をしていた。
「ルビーナちゃんは、はきはきした元気のいい子ですね」
「それだけが取り柄みたいなものですから」
「いえいえ、メルツェちゃんのお友達になっていただけて、とてもありがたいですわ」
「ジン様から伺いましたが、メルツェちゃんも大変なんですね」
「ええ、そうなんです。何があの子にとって一番いいのやら」
できることならメルツェが望む道を選ばせてあげたいんですけれど、とココナは言った。
「ですけどね、どうしても『皇帝家の血筋』というものがついてまわると思うんです」
「それって、困る要素なんですか?」
今ひとつ、『浮世』のことに疎いアマンダである。
ココナもなんとなくそれを悟り、説明を考えた。
「そうですね……メルツェちゃんを利用しようとする者が出てくる可能性があるから、でしょうか」
「利用ですか?」
「ええ。『皇帝家の血筋』って、いわゆる『野心家』には格好の道具なのよ」
「……人の世って、面倒ですねえ」
「……」
アマンダは理知的で深い知識を持っており、洞察力もある、とココナは評価している。
そんな彼女と話をしていて、一番驚いたことが、『裏がない』ということだった。
もう少し言うなら『陰謀』や『悪巧み』と無縁ということ。
(いえ、そうじゃない。……『人の世の悪意』を経験していない、ということなのでしょうね……)
ココナは伯爵夫人。貴族社会の裏も表も経験している。
いかにショウロ皇国がよき君主によって統治されていようとも、少なからず闇や腐敗はあるものなのだ。
これまでに、そうした事例は幾度か目にしていたのだった。
(ジン様の知人、ということですから、多分この方も、ちょっと違う世界の住人なのでしょう)
推察により、ほぼ正解を導き出していたのである。
だがそれによって、ココナの態度が変わるわけではない。
それからも2人は楽しく雑談を続けたのであった。
* * *
午後5時、仁たちが帰ってきた。
メルツェの実家に寄ってきたので、30分ほど余計に時間が掛かったのだ。
「ただいま、ココナ」
「おかえりなさいませ、あなた」
「お帰りなさい、ジン様、エルザ様」
「お帰りなさいませ、ジン様、エルザ様」
「おかえりなさい、メルちゃん」
屋敷に残ったメンバーが勢揃いで出迎えた。
「イェニーさん、お帰りなさい……でいいんだよね?」
「はい、ゴウ様。私はこちらに勤める身ですので。ですが、私のことは呼び捨てにしてくださいませ」
「なかなか慣れないな…………イェニー、お帰り。 ……でいいのかな?」
「はい、それで結構です」
イェニーはまた、ゴウがニドー家に馴染むためのサポート役もしてくれそうである。
「お帰りなさいませ、皆様。お風呂の用意ができております」
『ピスティ』がメイドゴーレムを代表して仁たちに告げる。
「お、それはいいな。なんとなく汗をかいたし、埃っぽい感じもするから、風呂はありがたいよ」
そういうわけで、仁、ダイキ、ゴウらは男湯に、エルザ、ココナ、ルビーナ、メルツェ、アマンダらは女湯に向かった。
さすがにイェニーは別だ。
彼女が、侍女が主人と一緒に風呂に入るわけにはいかない、と主張したからである。
過去、風呂好きな仁が整備したため、今のニドー邸の風呂場は10人くらいはいっぺんに入れる大きさがある。
* * *
男湯では3人が寛いでいる。
「ああ、やっぱり風呂はいいなあ」
「ジン様はお風呂が好きですね。僕も好きですが」
「私もですよ」
仁の血には風呂好きの遺伝子があるのかもしれない。
そして女湯でも。
「ニドー家に嫁いできて、すっかりお風呂好きになってしまいましたよ」
「お風呂っていいですね」
「メルツェさんも、お風呂、好き?」
「はい、エルザ様。……実家にいた頃は、毎日とはいきませんでしたけど」
「あたしもお風呂好き!」
「はいはい、お前がお風呂好きなのは私が一番よく知ってるよ」
やはりニドー家に繋がる者たちは風呂好きなようだ。
この分ならメルツェもじきに風呂好きになるだろうと思われた。
* * *
風呂で寛いだあとは、夕食が待っている。
「本日の献立は、イェニーから提案された献立が大半を占めております」
今回もメイドゴーレム代表で『ピスティ』が説明を行っている。
「大麦の粥、冬野菜のスープ、コカリスクの蒸し焼き、トロート(マス)の塩焼き……これらがイェニーによる指導で調理されました」
つまり、メルツェの母も作ったことがあるだろう献立ということになる。
実際、これらは宮城でも出されることの多いメニューであった。
「加えまして野菜とフルーツのサラダ、それにピグ(豚)のジャンジー(ショウガ)焼きを添えております」
「なるほど、これもまた美味そうだな」
「メルちゃんはこういうご飯が好きなのね?」
「うん!」
「……エルザ様には、コカリスクの蒸し焼きの代わりとして、カウブル(牛)のヒレステーキをご用意いたしました」
「ありがとう」
好き嫌いがほとんどないエルザであるが、コカリスクの肉だけは苦手なのだ。
5色ゴーレムメイドは皆それを知っているので、今夜もエルザには別メニューを準備したのである。
「いただきます」
……という、祈りにも似た言葉の後、食事が始まる。
イェニーにも一緒に食べてほしいとメルツェは言ったのだが、『お客様もいらしておりますので今夜は遠慮させていただきます』と言われてしまったのであった。
そうまで言われては、メルツェとしてもそれ以上強いるわけにもいかなかったのである。
「あ、このスープ、変わった味がする」
ルビーナがいつも食べているスープとは少し違った味わいがあったようだ。
「ルビーナ様、このスープには干しキノコが入っておりますので、その出汁が出ているんです」
仁も食べてみたところ、干しシイタケに近い味わいであった。
聞いてみると『イェドタケ』というキノコで、近年ミツホから干したものが輸入されているのだそうだ。
仁がこのキノコを気に入ったということを知った老君は蓬莱島での栽培を目指すことになるのだが、それはまた別のお話。
「お粥、懐かしい味です」
食べるとほっとする、と言ってメルツェはお粥を3杯もお代わりしたのであった。
そんな食欲のあるメルツェの様子を見て、ダイキ、ココナ、仁、エルザらはイェニーがいてくれてよかった、と思ったのであった。
同時に、そんなイェニーを1年間こちらに寄越してくれたヨヒア子爵にも感謝したのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210508 修正
(誤)これまに、そうした事例は幾度か目にしていたのだった。
(正)これまでに、そうした事例は幾度か目にしていたのだった。




