78-10 ジルコ
ルビーナ、ゴウ、メルツェの3人のことはもう少し様子見をすることにした仁は、もう1つエルザに相談を持ちかける。
「あと、ヨヒア子爵のことなんだが」
「彼が、何か?」
「いや、イェニーをメルツェのために寄越してくれたろう?」
「ん」
「だから、向こうの家では困ることもあるんじゃないかと思ってさ」
「ああ、そういうこと」
それはあるかもしれない、とエルザも仁の危惧していることを理解した。
侍女というものはそれぞれの家のやり方を習い覚えていくものである。
雇ったばかりの侍女は、基本的な家事は任せられても、家の中のことに関してはまだまだ任せられないものだ。
まして、イェニーは侍女頭であったという。
そんな彼女が抜けた穴は大きいであろう。
仁はそう思ったのであった。
「で、どうするつもり? ……なんとなく想像できる、けど」
「はは。多分合ってるよ」
「……メイドゴーレムを作って貸し出す?」
「当たりだ」
仁としては、イェニーがこっちにいる間、メイドゴーレムを1体貸し出せればいいのではと思っていた。
「ん、それならいい……かな?」
「一応、リミッターを掛けて、人の倍くらいのスペックに収めておこうと思っているんだ」
ゴーレムなので、人と同じというのはちょっとバランスが悪いだろうというわけだ。
扱う者たちも、人より力があるだろう、くらいのイメージは持っているはずだから。
「ベースは5色ゴーレムメイド。スペックはゴウが作った『ピスティ』を参考にする」
「あ、いいかも」
「と、いうわけで、ちょっと作ってくる」
ここロイザートの屋敷にも仁の工房があるので、このくらいの製作は問題なくできるのだ。
「私も、行く」
「助手は礼子だけで十分なんだがな」
「たまには、モノづくりの現場を見たい。それに……」
「それに?」
「万が一にも、徹夜されないように」
「……はは、わかったよ」
そこまで言われては拒絶するわけにもいかないな、と仁は笑ってエルザと礼子を連れ、工房へ行った。
* * *
「……地下にしてから、来るのは、初めて」
「ああ、そうか」
今、地上部分にはゴウの工房があるわけだ。
「地下だけど、湿気っぽくない」
「うん。周囲の土はしっかりと固めたし、空調もしているからな」
地下なので特に重要なのが換気である。また、工房の建物の周囲に十分な空間も確保してある。
「中は昔のままだぞ」
「ん、懐かしい」
「それじゃあ礼子、いつもの素材を用意してくれ」
「はい、お父さま」
仁は作業台を準備し、礼子に素材を用意してもらう。
標準的なゴーレムメイドを作る手順だ。
『いつもの』と言えば礼子には十分。仁が必要とする素材を素材庫から必要量を取り出してくれた。
骨格は軽銀、筋肉組織は蓬莱島標準、つまり地底蜘蛛糸を加工したもの。
外装も軽銀を使い、表面処理で色を淡い茶色、つまり肌色っぽくする。
今回、目の役割をする視覚センサーには透明な魔結晶を使った。
「じゃあエルザ、せっかくだから服を作ってくれないか?」
「ん、わかった。任せて」
それだけでエルザは、何を作ればいいか理解した。
仁が『ベースは5色ゴーレムメイド』と言ったので、服のサイズも自ずと決まる。
伊達に仁の弟子をしていたわけではない。
およそ15分で仁はゴーレムメイドを完成させ、エルザもそれとほぼ同時に服を仕上げた。
ゴーレムメイドに服を着せ、起動する。
「『起動』」
「はい、ご主人様」
ゴーレムメイドが起き上がった。
「よし、お前の名前は『ジルコ』だ」
「はい、私は『ジルコ』です」
5色以外の色、『無色』の宝石である『ジルコン』から取った名前である。
「どうだジルコ、身体の調子は?」
セルフチェックを終えたゴーレムメイド『ジルコ』は、
「はい、問題ありません」
と答えた。
「よし。……わかっていると思うが、出力は50分の1に抑えているからな」
「はい」
「身を守る時、それに周囲の関係者を守る時など、自己判断でリミッターは解除していい。むしろ躊躇うな」
「はい」
「よし。明日1日は、先輩の5色ゴーレムメイドたちと一緒に家事をしてみてくれ」
「わかりました」
こうしてゴーレムメイド『ジルコ』は完成したのである。
* * *
「さて、今夜はもう休むか」
「ん」
時刻は午後9時を回ったところ。
この世界的には就寝時間だ。
「『ジルコ』のお披露目は明日にしよう」
「ん」
そしてロイザートの夜は更けていく……。
* * *
翌10日、朝食の時間に、仁は『ジルコ』を皆に紹介した。
「ええええ!」
「昨夜作っちゃったんですか!?」
「あーん、作るところ見たかったー」
「さすがジン様ですね」
「もしかして、子爵に……?」
「……凄い出来ですね……」
「……」
それぞれ、メルツェ、ゴウ、ルビーナ、ダイキ、ココナ、アマンダ、イェニーである。
「ココナが言うように、イェニーにこっちに来てもらっている間、ヨヒア子爵に貸し出そうと思っているんだ」
「やっぱりそうなんですね」
「で、念の為今日1日はこの屋敷で家事をしてもらって、問題がなければ明日にでもヨヒア子爵に貸しに行こうと思う。……イェニー、君はどう思う?」
ヨヒア子爵家のことを最も知っているのはイェニーであるがゆえの質問であった。
「はい、正直に申し上げますと、非常に助かります」
子爵家で働く侍女は4人。その侍女頭である彼女が抜けたので、残った3人はてんやわんやだろうとイェニーは言った。
「そうか。……なら、イェニーの知識も持っていたほうがいいな。……君の侍女としての知識を転写させてもらっていいかな?」
「え? あ、はい」
よくわからないままに承諾するイェニー。
仁は早速『知識転写』を使った。
「『知識転写レベル2マイルド』」
「…………え?」
「よし。これを『ジルコ』に『知識転写』……ジルコ、どうだ? 子爵家での役割は理解できたか?」
「はい、ご主人様。問題なく」
「よし」
何が起こったのか全くわからないうちに話が進んでいくので、イェニーは面食らっている。
そんな彼女に、ゴウがわかり易く説明した。
「ジン様は、君の侍女としての知識を『ジルコ』にコピーしたんだよ。……できるのか、って、事実できているからね。ジン様だから」
「は、あ、……ジン様ですから?」
「うん。慣れた方がいいよ」
「はい……」
よくも悪くも、こうして少しずつニドー家に馴染んでいくイェニーであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。




