78-09 それぞれの話
夕食の時間に、ゴウの助手ゴーレム『ピスティ』のお披露目をした。
「ピスティと申します、皆様、よろしくお願いいたします」
反応は様々だった。
「お、おおお! もう、こんな凄いゴーレムを作れるのか!」
「ゴウ、偉いのねえ。いっぱい勉強したのね」
「ゴ、ゴゴ、ゴーレムをご自分でお作りに……?」
ダイキ、ココナ、イェニーである。
「わあ、ゴウ様って魔法技術者だったんですね」
「……むぅ、ジン様、ずるい……」
「何言ってるんだい。お前はメルちゃんと遊んでいたんじゃないか」
「ぶぅ」
メルツェ、ルビーナ、アマンダである。
「……ふつう……ジン兄、手伝ってないみたい」
「うん、エルザの言うとおり、俺は手を出していないからな。アドバイスしただけだ」
「納得」
そして『ピスティ』は礼子、ホープ、5色ゴーレムメイドたちにも挨拶をしている。
「これからいろいろご鞭撻の程をお願い申し上げます」
なかなか難しい言葉を知っているな、と仁はちょっと感心した。
それからは『ピスティ』に家事をやらせてみることになった。もちろんゴーレムメイドが付ききりで監督する。
「そう、お皿は優しく洗わないと割れますからね」
「はい」
「拭く時には、布巾に雑菌がついていないかどうか確認します。『殺菌』を使うのもいいですね」
「はい」
「床の拭き掃除にはモップか雑巾を使います。基本は乾拭きですが、汚れによって水拭き後乾拭き、また洗剤を付けての水拭きもありえます」
「はい」
「お部屋の掃除は、ハタキがけをして埃を払い、埃が床に落ちた頃を見計らって掃き掃除、または掃除機掛けをします」
「はい」
「お庭への水やりは、この魔導具を起動すれば、ほぼ自動でやってくれます。ですが、個別に増やしたり減らしたりはできませんのでそれは適宜調整してください」
「はい」
『ピスティ』は、当然ながら物覚えがよく、一度聞けば忘れないので、家事を覚えるのも早かった。
一緒に説明を聞いていたイェニーは冷や汗を流していたが。
* * *
そんなイェニーを呼び出したのはココナだった。
「なんでございましょうか、奥様」
「ちょっとあなたとお話をしてみたくて。どうぞ、掛けて頂戴」
「……では、失礼いたします」
この家では、こういう場面で遠慮するのは失礼に当たると、イェニーは学習していた。
「来たばかりでいろいろと大変でしょう」
「いえ、そんなことは……」
「無理しなくていいのですよ。当家がかなり特殊な家風であることは間違いないのですから」
「は、はあ」
「ずっと当家に勤めるならともかく、1年後にはヨヒア子爵家に戻るのですから、無理はしないほうがいいと思いますよ」
「……」
「あなたにお願いしたのはメルツェさんのお世話と、いろいろと寄り添ってもらうためですからね」
「寄り添う、ですか」
「ええ。やはり人間の温もりは大事ですからね。特に成長期の女の子には」
「……」
「今、この家の中でメルツェさんのことを一番よく知っているのはあなたです。ですから、あなたなりのやり方で彼女に寄り添ってあげてください」
「奥様……」
「お願いしますね」
「はい、精一杯努めます」
* * *
「あなたがメルツェちゃんね。うちの孫と仲よくしてくれてありがとうね」
「いえ、私の方こそ、ルビちゃんに仲よくしてもらってます」
アマンダはルビーナと一緒にメルツェの部屋にいた。
生みの母亡き後、祖父母に育てられたメルツェなので、アマンダに馴染むのも早かった。
「この子は同年代の友達がゴウ君くらいしかいなくてねえ。同い年で女の子の友達ってメルツェちゃんが初めてなのさ」
「お祖母ちゃん……! 余計なこと言わなくていいから!」
少し頬を染めて抗議するルビーナ。
「でもね、お前も人並みなところがあるんだと知ってほっとしたよ」
「え?」
「だって向こうじゃ魔法工学三昧の毎日だったろう? 友達なんていらない、って態度だったじゃないかね」
「そう……だったかな」
「そうさ。でも、こうしていいお友達ができて、楽しそうだよ」
「うん、楽しい……よ」
「モノづくりよりもかい?」
「え……」
アマンダの言葉に即答できなかったルビーナは、そんな自分に驚いていた。
そしてそうしたルビーナの内心の驚きを、祖母であるアマンダは即見抜いている。
「あらあら、これは本当に……少し変わったみたいだねえ」
孫の変化に戸惑いもせず、アマンダは微笑んだのであった。
* * *
「……ゴウとルビーナ、それにメルツェ……なんかややこしい関係になりそうな気がするんだが」
「ん……大丈夫、だと思う」
仁とエルザは自室で2人、話し合っていた。
主に仁が、ゴウとルビーナの関係に変化があったことを気にしているのだが。
「あれほど『マギクラフト・クイーン』に拘って、ゴウをライバル視していたルビーナが、同い年の友人ができた途端に変わるものかな?」
「人による、としか言えないけど」
「そうか……」
考えてみれば、仁以外の『ファミリー』メンバーは今の仁より遥かに人生経験を積んでいることに、今更ながら気づく仁であった。
「じゃあ、エルザとしては、ルビーナはこれからどうなると思う?」
「ん……いつまでもこの屋敷にとどまれるわけじゃないから、オノゴロ島に帰ったらまたモノづくりの日々に戻ると、思う。……帰ってから2日くらいは落ち込むかもだけど」
「そっか……ゴウとメルツェは?」
「難しい」
「なぜ?」
「……エルンスト2世陛下は、もしかするとゴウとメルツェさんがくっついてくれたらいいなと、思っているかも」
「ええ……」
だがよくよく考えてみると、そう悪い話ではない。
特にメルツェの立場から考えると、伯爵家の一員となるのは身分的にも立場的にも安心である。
しかもそれはニドー家なのだ。
ニドー家としても、皇帝との縁ができるわけだから、一般的に見れば非常に良縁である。
「あとは本人たちの意思か……」
「ん、そうなる」
「俺としては、ゴウは……いや、ルビーナはゴウに気があると思っていたんだけどな」
「まだ、今年13歳の子供だから」
「まあ、なあ……」
こういうことには慣れないな……と自嘲する仁であった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210504 修正
(誤)ですが、個別に増やしたる減らしたりはできませんのでそれは適宜調整してください」
(正)ですが、個別に増やしたり減らしたりはできませんのでそれは適宜調整してください」




