78-08 信頼
仁がアマンダを連れてきたことに一番驚いたのはやはりイェニーである。
「あ、あの、ジン様は、いつアマンダ様を迎えに行かれたのでしょう……?」
「ああ、そのことか」
質問されたダイキは、一瞬考え、仁の顔をちらっと見た。
その意味を察した仁は小さく頷いてみせる。
それを、『ある程度まで話していい』という意味だと受け取ったダイキは、
「ジン様は『魔法工学師』だからな。常人には考えも及ばないような手段を持っているのだよ」
と説明する。
「え……魔法工学師……ああ、やっぱりそうなのですね。あの飛行船を拝見して、普通の方ではないと思っていましたが……」
薄々そうではないかと思っていた、とイェニー。
「でも、それでしたら納得です。失礼致しました」
技術的な話をするまでもなく、それで納得してくれたようだ。あまり深く追及してはいけないと察したのかもしれない。
「ジン様、孫の面倒を見ていただいて、ありがとうございます」
「いや、今のうちにいろいろなことを見聞きするのはいいことだからな」
「ルビーナ、ジン様にご面倒をお掛けしていないだろうね?」
「大丈夫。……だと思う……」
「はは、そうだな。アマンダ、ルビーナはいつもどおりだよ」
「いつもどおり……そうですか、いつもどおりお転婆ですか……」
「お祖母ちゃん……!」
が、アマンダはルビーナににこりと笑いかけた。
「そこがお前のいいところでもあるんだけどね。……ただ、人様に迷惑をかけたりするんじゃないよ」
「はい! ……ねえ、お祖母ちゃんはあたしと一緒の部屋に泊まるんでしょう?」
「そうしましょうね」
ルビーナの言葉を受け、ココナがそう言った。
そんな2人を見ていた仁は、なんだかんだ言ってルビーナはアマンダが大好きなのだな、と思うのだった。
* * *
夕食までの間、ルビーナはメルツェと遊ぶようだ。
そしてアマンダはダイキ、ココナといろいろな話をしている。
仁はゴウとともに工房だ。
作りかけの助手ゴーレムを完成させようというわけである。
「さて、それじゃあ『触覚』システムはどうすることにした?」
「はい。外装が金属ですので、『歪み感知型』っていうんでしょうか、センサーを主要部分に取り付け、外被の歪みを検出して加わっている力を算出する方式にしたいと思っています」
「うん、それでいいだろう」
自動人形のように軟らかな外被をもっていると、上記のような方式は使えない。
センサーから数センチ離れただけで、もう歪みは伝わらなくなっているだろうからである。
その点、金属製の外被は、局所的な歪みを離れた場所で感知することが可能だ。
「手の各指先、掌、足の各指先、足裏は特に大事だと思います」
「うん、それから?」
「顎にも付けたほうがいいかと思います」
「そうだな。あとは?」
「肩、腰、腹部、膝、腿、脹脛、額……くらいでしょうか」
仁は頷いた。
「うん、いい線だな。あとは肘、手首にも欲しいかな」
「あ、わかりました」
これで方針は決まった。
ゴウは軽銀で外装を作っていく。
その外装の内側に『歪みセンサー』を配置していく。
モノは蓬莱島で標準化してある『歪みセンサー』を使う。
歪みと出力の関係がきっちりと管理されているのでばらつきが小さく、使いやすい。
「歪みセンサーの出力から、外装に加わっている圧力を計算する補助処理装置が必要になるぞ」
「はい、構想は考えてきました」
「おお、偉いぞ」
仁はゴウに作業をやらせてみて、まあまあ適正なレベルであることを確認した。
ちなみに仁の『まあまあ』は、世間的には『一流』レベルである。
(経験を積めば、もっと伸びそうだな)
基本的なことはマリッカからみっちりと叩き込まれているので、応用の幅を広げてやるのがいいだろうと仁は感じた。
それにはいろいろなものを作り、いろいろなものを見て、いろいろな経験を積むことだ。
ゴウだけに関わるわけにはいかないが、ニドー家の跡取りという立場なので、今後もいろいろな便宜を図ってやるつもりはある。
「ジン様、これでどうでしょうか?」
「いいだろう。あとは制御核、それに魔素変換器、魔力炉だな」
「はい!」
魔力反応炉はまだオノゴロ島でも一般的ではないので、この組み合わせが今はベターである。
「『書き込み』『知識転写』」
「うん」
作業は安定しており、基礎がしっかりできあがっていることを仁は感じ、マリッカの教育が素晴らしかったことをあらためて認識した。
* * *
「ジン兄、ゴウ、そろそろ切り上げてオフロに入ったら?」
午後5時にならんとする頃、エルザが工房へ様子を見にやって来た。
「あ、エルザ。もうちょっとで完成するから」
「ん、見ていていい?」
「もちろんだ」
今は外装を取り付けているところ。仁はゴウの作業を見守っている。
「……なんとなく、マリッカさんを見ているような気になる」
「あ、エルザもそう思うか。やっぱりゴウはマリッカの弟子なんだなと見ていて思ったよ」
そしてゴウはゴーレムを完成させた。
「できました、ジン様。あ、エルザ様、いらっしゃいませ」
「うん。セルフチェックは行ったのか?」
「はい」
「それならよし。……礼子、内部チェックをしてやってくれ。俺は制御核のチェックをするから」
「はい、お父さま」
礼子には『透視装置』や『分析』を使っての内部チェックを。
仁は『読み取り』を使って制御核のチェックを、それぞれ行った。
「お父さま、異常なしです」
「うん、こっちもバグは見つからなかった。……ゴウ、よくやったな」
「ありがとうございます。ジン様のおかげです」
ゴウは仁にお辞儀をした。
「うん。それじゃあ、起動してみよう」
「はい。……『起動』」
ゴーレムに魔力が流れ、動作を始める。
「はい、ご主人様」
ゆっくりと起き上がるゴーレム。
「ゴウ、名前は決めてあるのか?」
「はい、『ピスティ』にしようかと。どうでしょう?」
「ゴウのゴーレムだ、俺がどうこう言えないよ。だが、いい名前だと思うぞ」
「はい! …………お前の名前は『ピスティ』だ」
アルス古語……ヘール語で『信頼』の意味である。
こうして、ゴウの助手ゴーレムが完成したのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210612 修正
(誤)あまり深く追求してはいけないと察したのかもしれない。
(正)あまり深く追及してはいけないと察したのかもしれない。




