78-06 仁の気遣い
「さて、どうするかなあ……」
自室で仁は独りごちていた。
「ジン兄、何を?」
それを聞きつけたエルザは、当然仁に尋ねる。
「え? うん、これからの予定をさ」
「ああ……」
元々、ルビーナをこっちにつれてきたのは、オノゴロ島での飛行機競技で見事な決勝戦を見せてくれたゴウとルビーナの2人に、ご褒美としてであった。
それが、ゴウがニドー家の養子になったり、『アドリアナ記念館』の見学の帰りに事故に出っくわして関わり合いになった挙げ句、メルツェという皇帝家の血を引く少女を助けることになったり……と、予期しない出来事が起こりまくりだったのだ。
「そろそろ、ルビーナをアマンダさんの所に帰さないとなあとも思うんだけど……」
「……メルツェさんと仲よくなってるから?」
「うん。なんか、メルツェがかわいそうかなって」
「それじゃあ、アマンダさんをこっちに呼んであげたら? 昨日話したから、こっちのこと、少しは覚えてくれたと、思う」
「それがいいかな……」
当初はメルツェの親代わり(?)として、ミーネ、マーサ、アマンダのうち誰か1人を呼ぼうかとも話していたわけだが、その役目はイェニーが受け持ってくれそうだ。
なので今は、純粋にメルツェの友人としてルビーナをもうしばらくこっちに留め、唯一の家族であるアマンダを、長く1人にしないためこっちへ呼んであげようというわけである
「それじゃあ、アマンダをこっちへ呼ぶことにするか」
「ん、それがいいと思う」
そういうわけで、仁はエルザに後のことを頼み、オノゴロ島へ行こうとして……。
「まだ向こうは夜かな」
と、気が付いた。
オノゴロ島とロイザートの時差は6時間40分くらい。
今は午前9時過ぎなので、オノゴロ島は午前3時前くらいである。
「午後3時くらいでないとまずいか」
「事前に伝えてもらっておいた方が、いいと思う」
「そうだな。いきなり連れに行くより、その方がいいな」
ということで、老君からオノゴロ島の管理統括魔導頭脳『テスタ』に連絡を入れ、『テスタ』からアマンダに伝えてもらうことにした。
「テスタなら、アマンダが起きてから伝えてくれるだろう」
「ん、任せて大丈夫」
これで当面の悩みは解決した。
「それじゃあ、メルツェをどこかに連れていってやろうかな」
仁もいつまでもここに留まっているわけではない。ルビーナも同じ。
なので、気晴らし、そしてニドー家に馴染めるよう、『ハリケーン』を使って空の旅をさせてやろうかなと考えた仁なのである。
「ゴウとルビーナ、ダイキとココナも一緒がいいだろうな」
「あと、イェニーさんも」
「そうだな」
残るはどこへ行くか、である。
「遊覧飛行、というのは、どう?」
特定の土地へ行くのではなく、ショウロ皇国上空をぐるりと回ってみる、というのもいいかもしれないとエルザは言った。
自分の祖国を空から見つめるというのもいい体験になるかもしれないな、と思い、仁はエルザの案を採用することにした。
「お昼は『ハリケーン』の中で食べられるよう、準備しておくか」
「ん、それがいいと思う」
「よし」
* * *
「ええ? 遊覧飛行、ですか?」
「そうさ。どうだい?」
「え、ええと……そもそも、遊覧飛行って、したことないので……」
まずメルツェに打診してみると、よくわからないという顔をされた。
「メルちゃん、行こうよ。楽しいよ?」
「う、うん……ルビーナさんがそう言うなら」
「決まりね!」
尻込みするメルツェの背を、ルビーナが押した形で、遊覧飛行に行くことが決まった。
「え、私も……ですか?」
「そうさ、みんなで行こう」
「あ、はい。ええと……よろしくおねがいします」
こうして、昼食の支度も行い、午前10時過ぎに『ハリケーン』はロイザートの空へ飛び立った。
「わ……あ……! すごい……!」
「でしょう?」
初めて見る空からの景色に、メルツェは感激していた。
窓に張り付くようにし、遥か彼方を見たり下界を見たり。
「わあ……あれがトスモ湖ですね! だとすると、あそこがラアア村で……」
やはり真っ先に自分の家……実家を探してしまうようだ。
『ハリケーン』はラアア村上空をかすめるように飛んでから、ゆっくりと北を目指す。
「……驚きました。高いところから見下ろすのって、素敵なことですね。これまでと違った世界が見えてきました」
イェニーもまた、空を飛ぶのは初めての経験だったようで、メルツェほどには態度に出さないが、相当に感激しているようだ。
* * *
ショウロ皇国の北には、『クリューガー山脈』が連なっている。
遥か東の旧レナード王国に始まり、小群国の北の国境を形づくり、ショウロ皇国とフランツ王国の国境付近で一旦標高を落とし、ソッキ川に分断されてはいるもののその後再び標高を上げ、ハリハリ沙漠の北まで連なっている大山脈だ。
今は冬、そのクリューガー山脈は白銀に輝く雪を頂き、屏風のごとく聳え立っている。
そこを目指して『ハリケーン』は飛んでいった。
「さあ、お昼にしましょう」
時刻は正午少し前。
ココナはそう言うと、『ハリケーン』の船室に備え付けのテーブルに、用意してきた軽食……サンドイッチを広げた。
「こちらもどうぞ」
礼子は『ハリケーン』に常備しているペルシカジュースを全員に配った。
ちなみに、この昼食の間だけはそれと気づかないように『力場発生器』を使い、船室が揺れないようにしている。
「あ、これ美味しいよ、メルちゃん」
「うん……美味しい」
「ゴウ、これも食べてごらん。ココナの得意な玉子サラダが挟んである」
「あ、美味しいです」
「うん、美味いな。ハムもいいハムだ」
「ん。野菜も鮮度が良い」
「ええと、私もご一緒させていただいていいのでしょうか」
「どうぞ。皆さんのお世話はわたくし1人で十分です」
「は、はあ……」
イェニーは、礼子が1人で手際よく……人間の倍ほどの速度で……給仕をしていくのを見て驚き、また、皆と一緒に食事をしていいものかどうか面食らっている。
「そのへんは慣れてくださいな」
「は、はい、奥様」
ココナに言われ、これがニドー家の家風だと知りつつも戸惑うイェニーなのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
お楽しみいただけましたら幸いです。
20210501 修正
(旧)一旦高度を落としソッキ川に分断されてはいるものの、その後再び高度を上げ、
(新)一旦標高を落とし、ソッキ川に分断されてはいるもののその後再び標高を上げ、
20210801 修正
(旧)「それじゃあ、アマンダさんをこっちに呼んであげたら?」
(新)「それじゃあ、アマンダさんをこっちに呼んであげたら? 昨日話したから、こっちのこと、少しは覚えてくれたと、思う」
78-04 と整合を取りました。




