78-02 道
「メルツェ様をお連れ致しました」
「おお、ご苦労」
5色ゴーレムメイドのアクア102が、メルツェを伴ってやって来た。
「おお、そなたがメルツェか。余はエルンスト・ルプス・フォン・リヒト・ショウロである」
「は、初めてお目にか、掛かります。わわ、私は、メルツェ、と申します」
「うむ。会えて嬉しいぞ、叔母上」
「お、おばっ、叔母……」
「祖父の娘であるということは、我が父の妹。すなわち叔母だからな」
「そ、そうかもし、知れませんが、あ、あまりにも、おそれおおいことで……」
その様子を見た皇帝エルンスト2世は、ふう、とため息をついた。
「……やはり、皇帝家の一員であるというのは、そなたには重荷のようだな」
「……」
「今日のところは、そなたに会ってみたかった、ということと、先々代……というより祖父のことを詫びたかったからなのだ」
庶民に手を出し、あまつさえ子をもうけ、さらにはその子を正式に認知せず、単に証拠の品を与えただけ、という無責任なやり方に責任を感じている、とエルンスト2世は言った。
「……いろいろと苦労もあったであろう。今更謝っても遅いだろうが、このとおりだ」
皇帝エルンスト2世はメルツェに向かって頭を下げた。
「へ、陛下!? そ、そんな!? あ、あ、頭をお上げなされてく、くだしゃい!」
パニックを起こし、しどろもどろになるメルツェ。
「陛下、そのへんで……メルツェ様も面食らわれておいでですので」
「……うむ」
近衛騎士の1人が諌め、ようやくエルンスト2世は頭を上げた。
「非公式な場であるし、叔母に対しているだけだ。何もまずいことはなかろう」
「それはそうかも知れませんが……」
「過ちに対し、それを恥じて謝ることができないことこそ恥じるべきだと余は思うぞ」
その言葉に、仁はかつて女皇帝が『頭を下げるべき時には躊躇わず下げられる君主でいたい』と言っていたことを思い出したのであった。
* * *
場の空気が落ち着いてきたのを見計らい、皇帝エルンスト2世は再度口を開いた。
「メルツェ、そなたには幾つかの選択肢がある。……1つは、皇帝家の血筋として、宮城内で暮らす道。1つは臣籍となり、地方に領地を持つ道」
どっちも嫌なんじゃないかな、と、横で聞いている仁は思っている。
そして事実、メルツェもまた、嫌そうな顔をしていた。
「もう1つは皇帝家と縁を切って生きる道だ。……とはいえ、完全に無関係になれるとは言えぬがな」
「……私、まだ……」
「おお、もちろん、今すぐに結論を出せとは言わん。半年か1年くらい、じっくりと考えるがよい」
「あ、はい」
思いがけない提案に、少し面食らうメルツェであった。
「……だがこのまま、以前のように一人暮らしをさせるわけにはいかないことは理解してくれ」
メルツェ自身の意思に関わらず、利用しようという輩は必ず出てくるものだから、とエルンスト2世は説明した。
「はい……」
「それで、そなたの身柄だが、……ニドー伯爵に預かってもらえぬかな?」
「そういうことでしたら、はい、謹んでお預かりいたします」
「そうか。……最初に余に知らせてくれたヨヒア子爵に、と思ったのだが、こうして時折訪問できるニドー伯爵に預けたほうが何かと都合もよくてな」
「光栄に存じます」
ヨヒア子爵邸よりもニドー伯爵邸の方がずっと宮城に近いのである。
そして皇帝エルンスト2世はメルツェに向き直る。
「メルツェ、そういうわけであるから、そなたはしばらくニドー家に厄介になり、貴族の世界や、世の中について、いろいろ見て、学んで欲しい。そうして自分の判断で道を選んでくれ」
「……は、はい。……ありがとうございます」
「うむ」
こうして正式に、メルツェはニドー家に起居することになったのである。
* * *
「さて」
エルンスト2世は、仁とエルザに向き直る。
「ジン殿、エルザ殿。この度はメルツェの救出、治療、それに『証拠の短剣』の奪還に加え、犯人逮捕まで、誠に助かった。礼を言う」
「いえ、できることをしたまでですから」
仁がそう言うと、エルンスト2世はふ、と笑った。
「そうだな。ジン殿にしかできないやり方で、な」
「……」
「そんなジン殿とエルザ殿にも、皇国から……というより、余個人として礼がしたい。受け取ってもらえるだろうか」
「ええと……」
「はい、ありがたく頂戴いたします」
一瞬ためらった仁に代わり、エルザが返答を行った。
「そうか。それは嬉しい。これが目録だ」
エルンスト2世の横に立つ近衛騎士が目録を差し出した。
仁はそれを受け取り、内容を確認する。
「ミスリル銀100キロ、アダマンタイト10キロ、黄金10キロ、白銀50キロ……ですか」
「うむ。『魔法工学師』である貴殿は、素材の方が使い途があるだろうと思ってな」
「仰るとおりです。ありがとうございます」
* * *
「うむ、このお茶は美味いな。菓子も絶品だ」
「畏れ入ります」
主な用件が済んだので、皇帝陛下以下、お茶を楽しんでいた。
蓬莱島産の最高級煎茶に、ペリド102が作った羊羹。
羊羹も原材料である赤目豆、寒天、砂糖は蓬莱島産のものを使っている。
お茶同様に自由魔力素の含有量が多いので、旨味が違う。
ちなみに、『自由魔力素含有量』がどう作用して旨味を増すのか、についてはサキが研究中である。
「それでだな、……これも話しておいたほうがよいだろう。……説明を頼む」
「はい、陛下」
エルンスト2世が指示を出すと、近衛騎士の1人が口を開いた。
「ジン殿が捕らえてくださった誘拐犯と窃盗犯を尋問し、わかったことに付きまして簡単にご報告させていただきます」
それは仁としてもぜひ知っておきたいことであった。
「まず、3人共に『公平党』という社会思想団体の一員であること。その本拠地はセルロア王国南部にあることがわかりました」
「南部ですか」
「はい。正確な場所はまだ白状しておりません。……そして……」
近衛騎士からの説明はまだまだ続く……。
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