77-45 短剣をめぐって
『忍部隊』4体は難なく指示を果たし、『第5列』のレグルス48、通称『アルフレート』とデネブ22、通称『クライネ』の下に戻った。
短剣を受け取った『アルフレート』と『クライネ』は、それを仁にどうやって届けるか、相談を行う。
「さて、あとはこの短剣をご主人様に届けるだけだが……」
「正規のルートを正攻法で行くと時間が掛かりすぎるわね」
「そうだなあ……」
ウルムの町と首都ロイザートの距離は190キロほど。道のりは230キロほどになる。
正攻法というのは、『普通の人間が取る手段』ということで、徒歩、馬車、馬などを使って移動することである。
「ここは、我々が走って届けることにしようか?」
『第5列』なら、時速60キロで疾走し続けることは朝飯前。それなら4時間弱でロイザートに到着できる。
だが『アルフレート』の意見に『クライネ』は反対した。
「それでは犯人の女を見逃してしまう可能性が増えます」
「それはわかるが、ではどうやって短剣をお届けすればいい?」
「老君に任せましょう」
連絡を受けた老君は即決。
『わかりました。短剣を受け取るため、アメズ102を向かわせましょう』
アメズ102はロイザートの屋敷勤務の5色メイドゴーレムの1人。
自律行動を取れるので、2人が命じていない行動を取ることがごくまれにある……ことはダイキやココナも知っていた。
そのアメズ102は、まず屋敷地下にある『転移門』で蓬莱島へ移動。
次いで老君が転送機で『アルフレート』と『クライネ』の下へ送り届ける。
『証拠の短剣』を受け取り、同じく老君が転送機で送り込んだ『ペリカン1』内蔵の転移門で蓬莱島へ帰還。
来た時と逆のルートでロイザートの屋敷へ戻る。
これらがおよそ5分で行われた。
ちょうど仁たちは宮城から帰ってきたところで、
「おお、ご苦労だったな」
仁はアメズ102を労うと、
「もう一度陛下に会ってくる」
と言って、ダイキと共に宮城へ向かったのである。
* * *
「おおジン殿、もう見つかったのか!?」
「はい。手の者が見つけ出してきました」
皇帝は退出したかと思ったらまた戻ってきた仁たちに面食らったが、差し出された『証拠の短剣』を目にすると、大喜びでそれを受け取った。
「間違いない、これだ……」
エルンスト2世は短剣を抜くと、魔力を流してみる。
すると短剣は明るい金色の光を放ったのである。
「おお、昔と変わらぬ美しい光。我が国の至宝が戻ってきた。……ジン殿、いくら感謝してもしたりないくらいだ」
「いえ、見つかってよかったですよ」
仁はエルンスト2世が手にした短剣を見て、少し複雑な気持ちであった。
というのも、おそらく短剣を作った当時の仁は、まさか皇帝家の至宝扱いされるとは思っても見なかっただろうなと想像したからである。
なにしろそちらも仁自身なのだから。
かといって、別人と思われている仁が、『それはおもちゃですよ』と言うわけにはいかない。
そこで老君が一計を案じた。
それは……。
「陛下、わたくしは、当時のお父さまがその短剣をお作りになったのは、エルンスト1世陛下のご長男が5歳になられたお祝いのためだったと記憶しております」
当時『2代目魔法工学師』に仕えていた礼子の口から無難な説明をするという方法であった。
「なんと!」
「ですから、その柄もお子様の手に合わせて小さく作られているのです。刃が軟質な樹脂でできているのも、怪我をしないための配慮ですし、お子様が喜ぶだろうから光るようになっているのです」
「ふうむ……当時のことを知っている貴殿がそう言うのならそうなのだろうな」
しかし、それはそれとして、と皇帝は言葉を継いだ。
「この短剣が、過去に何度か皇帝家の血筋を救ってくれたのも事実なのだ」
「どういうことですか?」
皇帝の意外な言葉に、仁は尋ね返してしまった。
「うむ。……実はな、かなり過去の話だが……不貞を働いた妃がいて、その子が皇帝の血筋かどうかの判定に、短剣を光らせることができるかどうか、という……」
「ああ……」
その説明を聞き、仁は、確かにそういう使われ方をされてもおかしくないなあ……と思ったのだった。
その頃には、すでに作った仁もおらず、代々伝えられているうちに宝物扱いされるようになったのだろう、とも。
贈り物には、もう少し気をつけたほうがいいな……と思った仁であるが、今更かもしれない。
そして、もう1つ質問を行った。
「陛下、短剣を持って逃げていた者も、私の手の者が捕らえてもいいでしょうか?」
実はこの質問には、2つの意味が含まれている。
ショウロ皇国の法律上、仁にはそうした犯罪者逮捕の権限はないので、許可が欲しい、ということ(現行犯で捕らえる以外、という但し書きが付くが)。
ゆえにメルツェ誘拐犯は捕らえることができたが、短剣を所持していた女は、その短剣のみ回収してしまったがゆえに逮捕できないのである。
もう1つは、『泳がせて背後の黒幕を暴かなくていいのか』という意味だ。
仁としては、皇帝家の醜聞となるので、今回に限り国内で完結させたほうがいいと思っているが。
「うむ? ……ジン殿の手の者は、短剣を取り返したのみならず、犯人の居所も掴んでいるのか?」
「そうです。今回は短剣回収を最優先にしたため、まだ犯人はそのままになっております」
「……わかった。今回に限り、兵に代わっての逮捕を許す。いや、逮捕してくれ。一筆したためよう」
「ありがとうございます」
文字どおり、皇帝陛下のお墨付きをいただいた仁は、老君を通じて、現地にいる『アルフレート』と『クライネ』に、犯人の女を捕らえるよう指示を出したのである。
* * *
そしてウルムの町。
現地時間は午後6時。
老君からレグルス48『アルフレート』とデネブ22『クライネ』に、女を捕らえるよう指示が下った。
『皇帝の許可状……便宜的に『逮捕状』と呼ぶことにします……がありますから、遠慮なくやってください』
「了解」
そして2体は、対象が部屋にいることを確認し、行動に移ったのだった。
部屋には窓があるので、そこから逃げられないよう、『アルフレート』が窓の外にいて封鎖。
『クライネ』がドアから突入し、女を確保する……そういう手順を決める。
なお、『忍部隊』の4体はまだこちらに残っており、万が一女が逃走した場合に後を追う手筈になっている。
『クライネ』がドアからなのは、その方が女が警戒しにくいだろうという判断からである。
「『アルフレート』も窓の外に回ったわね。……よし、決行!」
『クライネ』は女が泊まっている部屋のドアをノックした……。
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本日4月22日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
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20210422 修正
(誤)『クライネ』は女が止まっている部屋のドアをノックした……。
(正)『クライネ』は女が泊まっている部屋のドアをノックした……。




