77-44 背景判明
短剣を持って移動していたのは10代後半に見える女だった。
一般人に見える……本当に一般人かもしれないが……格好をしており、町中を歩いていても目立たない。
『しかも、いるのはウルムの町中ですか……これは、あまり事を荒立てるのは得策ではありませんね……』
ウルムの町はバニュウから35キロほど南下したところにある町で、そこから東へ進めばダンガという町で『干涸らび街道』と合流し、セルロア王国へと向かうことができる。
『……『干涸らび街道』を行かないのは、追跡を恐れてのことなのでしょうかね』
結局はダンガの町で『干涸らび街道』と合流するのだが、二手に分かれた意味は、追跡に気が付いたためか、それとも何か他の理由があってのことか。
『どうやら、セルロア王国へ向かっているようですね。黒幕はそこにいるのでしょうか』
そこで老君は、『第5列』のレグルス48、通称『アルフレート』とデネブ22、通称『クライネ』に任せることにした。
2体はバニュウから南下し、ウルムの町へと急行。
老君が『覗き見望遠鏡』で追跡しているため、対象を探す手間は省けている。
今は、町の片隅にある宿屋に泊まっている。時刻は現地時間で午後2時。宿泊には少し早い時間だが、おかしいというほどでもない。
「さて、どうやって捕らえるか、だな」
「そうね」
『アルフレート』と『クライネ』は夫婦のふりをし、同じ宿屋に部屋を取った。
部屋は2階、対象の女の向かい側の部屋である。本当は隣の部屋がよかったのだが、あいにくと既に塞がっていたのである。
「いきなり押し入ったら、こっちが悪者になってしまいそうだ」
「そうね。そもそも、対象の女性は、持っている短剣が盗品だと知っているのかしら?」
「それもあるな」
例えば、誘拐犯から盗品と知らずに買い取った、というケースが考えられる。
その場合は罪に問うことは難しいだろう。
「誘拐犯との繋がりをはっきりさせてから、あるいは繋がりがはっきりしてから行動に移る必要があるな」
「そうね」
* * *
同日、宮城のすぐ外にある近衛騎士詰所。
その地下牢に誘拐犯2名は収容され、尋問を受けていた。
初めは頑として口を割らなかったが、騎士たちの精神的な揺さぶりに耐えきれず、まず1人が屈した。
そうなっては、沈黙を守ってもいいことはないとばかりに、もう1人も口を割ったのである。
それによると……。
誘拐犯2名は、とある反社会的組織の党員である。本拠地はセルロア王国。
党名は『公平党』。
メルツェのことを知ったのは、メルツェが『証拠の短剣』を鑑定してもらったオーキツの町にある道具屋が、その反社会的組織『公平党』の党員であったから。
そこから情報が『公平党』上部に伝わり、ショウロ皇国皇帝家への脅しに使えるだろうと判断し、今回の凶行となった。
短剣を持って逃走中のもう1人は、その道具屋の孫娘である。
道具屋自身も既に国外逃亡を済ませており、孫娘は短剣のみを持って国外へと脱出する手筈になっている。
『証拠の短剣』もしくは『メルツェ』のどちらかが手に入れば、脅しには十分使えるだろうという判断からの分離である。
もちろん両方が揃っているのが最も望ましいが。
……と、ここまではわかったのである。
道具屋の孫娘とはそれまで面識がなく、互いに名乗らなかったので名前も知らないという。
ゆえに、その孫娘がどのような行動をするかもわからない。
「ううむ……今から追手を差し向けても間に合わないか……」
尋問を担当した近衛騎士は頭を抱えた。
「……とりあえず、わかったことを報告しなければ」
そして近衛騎士は皇帝エルンスト2世へと報告を行った。
* * *
仁もまだ宮城に留め置かれており、近衛騎士の報告を皇帝と一緒に聞くことができた。
「ううむ……短剣の確保がより困難になったということか……」
「いえ、私の手の者が捜索を続けていますから、なんとかなるかもしれません」
「おおジン殿、それは本当か!?」
「はい」
「さすがジン殿だ。捜索をより早く行うため、何か余にできることはあるか?」
「いえ、今のところはありません」
「そうであるか。残念だ」
* * *
仁が知り得た情報は、『仲間の腕輪』を通じて老君へ送られており、老君はそれを作戦中の『アルフレート』と『クライネ』に伝えた。
「なるほど、少なくとも自分が盗品を運んでいることには気が付いているようだな」
「思想犯というやつね」
『アルフレート』と『クライネ』はどうやって罪を指摘し明らかにするか、そのやり方を相談する。
「ここはまず、短剣の確保を最優先した方がいいんじゃないかしら」
「もっともな意見だが、どうやって?」
「……『忍部隊』に頼みましょうよ」
「それがいいな」
* * *
老君は即行動に移った。
『忍部隊』4体、すなわち『忍』壱、弐、参、肆に指示を出し、道具屋の孫娘の部屋へと転送機で送り込んだ。
その道具屋の孫娘は、夕食を摂りに1階にある食堂にいる。
そんな隙を狙っての転移である。
全長20センチほどの短剣なので隠すのは容易だったが、ありかは『覗き見望遠鏡』でわかっているから、『忍部隊』の4体は苦労せずに短剣を確保できたのである。
4体は短剣を確保したあと、『転送装置』すなわち自分を転移させる魔導具を使って5メートルを移動。
移動した先は、廊下を隔てて向かい合う、『アルフレート』と『クライネ』が泊まっている部屋である。
4体は短剣を共同で抱えていた。
というよりも短剣に4体がしがみついているようにも見える体勢で『アルフレート』と『クライネ』の前に現れた。
『ご苦労だったな、『忍部隊』の諸君』
『『第5列』のあなた達もご苦労さまですね』
『忍壱』が答えた。
ちなみにやり取りは内蔵魔素通信機で行われている。
「これで最低限の目的は達したわけだが、犯人と思われる女性の確保をどうするかな」
「証拠の品がここにあるから、シラを切られたら弱いですよね」
「それはそうだ」
その時老君から通信が入った。
『確保した短剣と外見がそっくりなダミーを用意しました。これを犯人の荷物に忍ばせてください』
そうすれば証拠の品がなくなっていないと考え、油断も誘えるだろうというわけだ。
そして老君が短時間で作ってしまったと思われる短剣が転送されてきた。外見はそっくりである。
『忍部隊』4体がそれを抱え、『転送装置』で5メートルを移動、本物の短剣が隠されていた場所……バッグの2重になった底にオリジナルと同じように隠されたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20210421 修正
(誤)セルロア王国へと迎える。
(正)セルロア王国へと向かうことができる。
(誤)すなわち『忍』壱、弐、参、肆』に指示を出し
(正)すなわち『忍』壱、弐、参、肆に指示を出し
(旧)
「ご苦労だったな、『忍部隊』の諸君」
「『第5列』のあなた達もご苦労さまですね」
『忍壱』が答えた。
(新)
『ご苦労だったな、『忍部隊』の諸君』
『『第5列』のあなた達もご苦労さまですね』
『忍壱』が答えた。
ちなみにやり取りは内蔵魔素通信機で行われている。




