77-43 短剣の秘密
さて、場面は変わって、メルツェを救出したあとのバニュウの町外れ、廃工場。
『証拠の短剣』が見つかっていないことから、調査員が老君から派遣されている。
『第5列』のレグルス48、通称『アルフレート』とデネブ22、通称『クライネ』だ。
どちらもショウロ皇国東部を担当しており、地形や町に詳しかった。
「この足跡の様子を見ると、誘拐犯もしくはその関係者がもう1人いたようね」
「そのようだな」
クライネが、明らかに小さな足跡を見つけたのである。
他の2つは27センチから28センチくらいだが、こちらは25センチほど。
靴底の形状も異なるので、まず間違いなく『3人め』であると判断できた。
全く無関係な第三者である可能性もあるが、足跡の古さや、付いている場所を考えると仲間もしくは関係者である公算が大きい。
「別行動していたのか、それとも……」
「……狙いが短剣だった可能性?」
「それかもしれないな」
『証拠の短剣』は、ショウロ皇国皇帝家の証でもある。
もしショウロ皇国を揺さぶる気があるなら、メルツェの身柄と共に重要な要素だ。
「それで別行動した?」
「その可能性はあるだろう?」
「うん、確かにね」
「だとすると……二手に分かれたのか?」
「その可能性はあるわね」
さて、どうするか、と2体は考え込んだ。
「そもそも、その短剣ってどんなものなんだ?」
この問いに答えたのは老君。
『皇帝家の者が魔力を込めると光るものだそうです』
「光る?」
「ただそれだけですか?」
『そうです。……そして、それについて、私に心当たりがあります』
* * *
同じ頃、ショウロ皇国宮城。
「……そういうわけで、メルツェ嬢を救出し、連れ帰ってきたわけです。そうだな、礼子?」
「はい」
仁が、礼子と共に救出のあらましを皇帝に説明していた。
「なるほどな。……ジン殿、レーコ卿、重ねて感謝する」
皇帝エルンスト2世は仁と礼子に軽く頭を下げた。
「ですが、『証拠の短剣』が見つからなかったのが困りものです」
「確かにな」
「もしよろしければ、どんな短剣なのか、お教え願えませんか?」
探すにあたり、どんなものなのか、ほとんどわかっていないというのは辛いものがある、と仁は言った。
「確かにそうであるな。……余も幼い頃に一度見たことがあるのだが、儀礼剣の一種なのだ」
「つまり、切れ味を追求したものではない、と?」
「そうだ。短剣であるから、全長は20センチくらい。そのうち柄は6センチくらいだ」
「小さいですね」
子供の手になら丁度いいかもしれないが、と仁は感じた。
「だから儀礼用なのだろうな。切れ味は皆無だ。というより、刃は金属ではない」
「は?」
「半透明な物質でできているな。軟らかいようでいて、折れることはない。硬くはないので、仮にそれで切りつけても、殴られたほどにも感じない」
「……」
「そして皇帝家の者が魔力を流すと、半透明な刃が金色に光り輝くのだ」
「はあ……」
仁はなんとなくではあるが、短剣のイメージが固まってきた。
「外見……装飾はどんな感じですか?」
「うむ。鞘は白を基調とし、金で補強的な装飾がなされている。そこに7色の宝石……だと思う……が散りばめられているな」
「ははあ……」
「柄も白を基調としていて、柄頭に透明な水晶らしき石がはめ込まれている。そして鍔は銀色だ」
「……」
「ええと、製作者はわかりますか?」
「うむ。2代目……先代の『魔法工学師』殿だと伝えられているな」
「……やっぱり」
「そうなのだ。まさに『魔法工学師』の作。余人に真似のできないほどの逸品である。短剣だけを盗んで逃げている輩がいても無理はないだろうな。許せはしないが」
「…………そうですね」
仁にはなんとなく想像がついた、過去の自分が作ったものではないかと思ってはいたのだが、詳しい説明を聞いて確信したのだ。
(それ、多分おもちゃの短剣ですよ……)
危なくないよう、怪我をしないよう、弾力のある軟らかな樹脂……『発泡させた地底蜘蛛樹脂』で作られている。
金色に光るエフェクトは、子供が喜びそうだと考えた仁のいたずら心である。
おそらく過去の仁が、皇帝家に生まれた子供のためにお祝いとして贈ったものではないだろうか。
それが時代を経て宝物扱いされるようになったのではないか……。仁にはそう思われたのである。
* * *
仁が想像したとおり、『証拠の短剣』と呼ばれているものは、その昔、仁が皇帝家に贈ったものであった。
具体的には、エルンスト1世、すなわち皇帝ヴァイスベルグ・エルンスト・フォン・ショウロに。
長男が5歳になったお祝いに、当時の仁がおもちゃの剣として贈ったのである。
『今の』仁はそのことを知らないが、老君ははっきりと覚えている。
そして。
『もしもその短剣があの時のものでしたら、御主人様の魔力パターンも持っているはずですね』
そう考え、それにもとづく捜索を行うことにする。
今回も『魔力探知機』だ。
だが、運用方法を変えることにした。
特定の地点を中心にした、同心円状の捜索は非効率であるということに気が付いたのである。
まずは蓬莱島、もしくは中継点を中心とした扇形の範囲をサーチする。
おおよその方角がわかっているからこその扇型である。
この時、感度は最大にしておく。
そして反応があったなら、その範囲を絞り込み、座標を特定していけばよい。
この手順なら、無駄なエリアのサーチはごく短時間で済むわけだ。
『レーダー』ということで仁がイメージしていたものが同心円状のサーチだったのと、これまではその方法でも短時間で対象を発見できたので改善されていなかったのだ。
『サーチ開始……反応あり……範囲絞り込み開始……更に絞り込み……発見』
捜索開始から2分足らずで短剣の反応を見つけ出した。
その次が『覗き見望遠鏡』による対象の確認である。
『……対象発見。……ふむ……一般人の格好ですね。バニュウの町で別行動を開始したというわけですか』
老君の見立てによると、バニュウの町までは一緒に行動しており、その後、例の廃工場で別行動を取るようになった、ということのようだ。
バニュウの町以前で発見していれば、2度手間にはならなかったのに、と少し残念がる老君であった。
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