76-14 締めくくりに
ティータイムを砕けた質問タイムにした仁。
「それでは」
「はい、どうぞ」
まず手を挙げたのは『アヴァロン』の最高管理官、トマックス・バートマンだった。
「『初代』アドリアナ殿と『2代目』や『マキナ殿』との間には1000年ほどの年月の隔たりがあると思うのですが、どのようにして学ばれたのですか?」
この質問に、周囲の招待客たちも頷いている。やはり気になる話題だったらしい。
「それは……この礼子を見ていただいてもわかりますように、『初代』の技術は1000年をモノともしませんでした。つまり、『初代』が遺した教育用の魔導具によって、私……じゃなくて『2代目』は『魔法工学師』となり、また『デウス・エクス・マキナ』も同じように学び、独り立ちしたのです」
「ははあ、なるほど」
「同時に、『魔法工学師』になる資格があるかも確認されますから、誰でもなれたわけではありません」
「わかりました」
「次、よろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」
次の質問はエゲレア王国第3王子のアーネスト17世だった。
「その『魔法工学師』になるための資格について、差し支えない範囲でお教えいただきたい」
「そうですね……絶対に必要なのが『魔力パターン』ですね」
「魔力パターン……ですか?」
「そうです。同じ魔力パターンは2人といないのですが、それでもなお、ほとんど同じ者がまれに現れるのです。それが『後継者』の資格となります」
「なぜそうまでして……これはお答えいただけますか?」
仁は頷いた。
「ええ。工学魔法の幾つかを最高レベルまで使うために必要なのです……とお答えしておきます。それ以上は今のところ秘匿させていただきます」
「先程『2代目』の部屋で説明されていた『使えるものだけが弟子になれる、ある工学魔法』ですね?」
「そういうことです」
本来なら、学問は一子相伝のように秘匿するものではないのだが、『魔法工学師』の継承条件については、知られてどうなるものではないが、逆に言えば知ってどうなるものでもなく、どうすることもできない内容なので、師弟のプライバシー的な話ということで秘匿する、と仁は説明したのである。
「わかりました。ありがとう、ジン殿」
そして、それで皆納得してくれたようである。
ここで、仁から1つ質問が行われる。
「ムトゥ氏に、ちょっと伺いたいのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「ミツホでは、『賢者』殿のお姿についてはどのように伝わっているのでしょうか?」
以前訪れた際、銅像や肖像画のような、姿を伝えるものを見た記憶がなかったゆえの質問である。
「ああ、そういうことですか。……『賢者』様は、姿絵を描かせることをなさらなかったようです。なんでも『偶像崇拝』はやめてほしい、と仰ったとか」
「ははあ、なるほど」
仁もその気持はよくわかった。仁自身、銅像など建てられるのは御免被りたいからだ。
しかし時既に遅く、『2代目魔法工学師』の像はあちこちに建てられているのだが。
「ですが、こちらに伺って、『賢者』様、『初代』様のお姿を拝見できて嬉しかったですよ。ありがとうございます」
「いえ」
そんな会話をしていると飲み物もなくなったのでお開きとする。質問の続きはまた後で、ということになった。
展示関連のお披露目は終わったので、残るはこの施設について紹介するだけである。
* * *
「まずは3階です」
部屋数は2階と同じ。つまりフロアは9つに区切られている。
だが、ほとんど使われていない部屋ばかりだった。
「展示物が増えた時のために空けてある予備室ですね。そしてこちらが……」
南の部屋。北の部屋と共に、現在用途が決まっている部屋である。
「会議室になります」
「おお、明るいですね」
「南向きだからですね」
そして中央のホールを挟んで北側になる部屋が……。
「多目的室、と呼んでいます。何かイベントがあった際に使えるでしょう」
例えば初心者を集めての魔法工学教室とか、と仁が言うと、招待客たちは感心したように頷いた。
「なるほどなるほど」
「そういう施設でもあるのですね」
仁は更に続ける。
「空き部屋は可能性の現れです。今後、どのような使われ方をするかはこの施設を利用される人々次第……とも言えます」
「なるほど、確かに」
「そして、若い人、工学魔法を学ぼうという人たちに、積極的に利用してほしいですね」
「ふむ」
「そういう意味において、『初代』には叶わなかった……『魔法工学の聖地』になってもらえるとありがたいですね」
「ジン殿らしいですなあ」
「でも、『魔法工学の聖地』ですか。それは……いいですね」
「我々も推奨させていただきますよ」
「ありがとうございます」
招待客からの言葉を嬉しく思う仁であった。
* * *
「おお、4階は屋上と……ペントハウスがあるのですな」
誰かがそう口にし、次いで首を傾げた。
これはペントハウスなのだろうか? ……と。
「これは望遠鏡ドームですよ」
仁が説明する。
天体望遠鏡は、倍率が大きいので僅かな風でぶれてしまうことがある。
そこで風の影響を受けにくいようにドームで覆うのだ。
また、周囲の光を遮ることで、少しでも視認性を上げる目的もある。
そして観測者を寒い風から守る意図もあるのだ(天体観測に最も向く季節は秋から冬なので夜は寒い)。
「星の観察もまた、科学です。科学と魔法の融合を目指すなら、やはり設備が欲しいですよね」
「ふうむ……星の観察ですか」
「そうです。例えば、夜でも星の位置を見ることで方角や時刻がわかりますよ?」
「あ、なるほど……」
「夜間航海のためにも必要な知識ですなあ」
「そういうことですね。あとは純粋に展望台の意味もあります。ここからのトスモ湖の眺めは美しいでしょう?」
「ああ、確かに」
「夕暮れのトスモ湖、雪を頂く北の山々が赤く染まって……」
展望台として、来客に楽しんでもらうこともできるわけだ、と招待客たちは納得したのだった。
* * *
地下は主に倉庫なので割愛し、仁たちは3階の会議室に来ていた。
「駆け足でしたが『アドリアナ記念館』の紹介をさせていただきました。ご意見がございましたらお教えください」
「1つ、よろしいでしょうか」
ノルド連邦、『森羅』のベリアルスが挙手をした。
「はい、どうぞ」
「本日、過去の出来事を教えていただいたわけですが、1つ希望ができまして」
「希望、ですか?」
「ええ。『賢者』殿とその奥方、アドリアナ・ティエラ殿についてです」
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本日2月18日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210218 修正
(誤)天体望遠鏡は、倍率が大きので僅かな風でぶれてしまうことがある。
(正)天体望遠鏡は、倍率が大きいので僅かな風でぶれてしまうことがある。




