76-10 苦難の歴史
説明の後半はなんとなく聞き流した仁。
自分の晩年の功績を聞きたくはなかったのだ。
幸いというか、老君の手配のおかげで、壮年期〜晩年の作品はほとんど展示されず、もっぱら説明に終始していたのである。
一応の理由としては『広く知られていることなので詳しくは語らない』『その分、歴史的な展示を増やす』『2代目は目立つことがお好きでなかった』などという建前的な説明も行われて。
「うむ、『2代目』についてもよくわかった。エルザ殿、説明感謝する」
そんな言葉で締めくくられ、『2代目』に関する部屋の見学は終了した。
* * *
「では」
ここから再び仁が説明を担当することになる。
「2階へどうぞ」
玄関ホールから、2階へと繋がる階段を上っていく。
既にジャグス公国公王はダイエットに成功しており、小太り程度の体格になっているので全く息を切らすこともなく2階へ上がれた。
2階は凹の字の形ではなく、長方形である。
大まかにいって、2階を東西に3分、南北に3分した9つのエリアに分かれている。
中央はホールとなっており、1階からの階段と、3階へ上る階段はここに通じている。
そして休憩場所としてベンチや給水器なども設置されていた。
まず北東の部屋に仁は一行を案内した。
「『魔法工学苦難の歴史の部屋』です」
これについては、もう少し名称がなんとかならないかな、と思っている仁なのである。
「ほう?」
「ええと、ジン殿、つまり、『賢者』殿から今に至るまでの年月を振り返り、反省しようということですかな?」
「ええ、そうなりますね」
「ほほう、そういうことですか」
「まずは、御覧ください」
この部屋は、たとえ人気が出なくても、魔法工学の歴史、そして発展を語る上で外すことのできないものと仁は考え、設定したのである。
「今日までの世界の歴史におきまして、魔法工学の『衰退期』といえる時期があったことをご理解いただけていると思います」
「うむ。宗教、魔導大戦、魔法連盟……だろうな」
「仰るとおりです。それらを分析し、何が悪くて、どこをどうすればよかったのか……を考えていただきたくて作りました」
「ううむ……」
そして一同は部屋の中へ。
「まずは宗教ですね」
これに関しては、当時の理念が書かれたプレートがあり、それに対する『魔法工学師』の反論も書かれている。
『魔法は神からの恩寵である。魔法が使えるということは祝福されているということ。裏を返せば魔法が使えない者は神に見放されている証拠である。だから、魔法を使えない民を必要以上に助けるのは神の御心に逆らうことである』
に対し、『初代』の言葉が書かれている。
『魔法はただの能力である。足が速いとか、目がいいとかいうのと同じ。神はいるかもしれず。いないかもしれない。我々人間には感知できない上位の存在、それが神様であろう。神を語る者たちこそ恥じるべきだ』
『宗教は心の拠り所となるべきものであって、人を縛るものではない』
と。
そして『2代目』としての言葉が、
『宗教が人々を縛る、それは呪いと同じ。信仰の手段が宗教であって、目的ではない』
と書かれていた。
「なるほど……なかなか深い言葉ですな」
「幸いといえばいいのか、今の世界では宗教はまったくといっていいほど勢力がありませんからね」
「ええ、その元になったのは『魔導大戦』ですね。これについて、わかる限りの分析をしてみました」
と、仁は別の展示物を指差した。
* * *
『魔導大戦』。
大陸暦3450年頃に刊行された歴史書には、次のように記されている。
『約300年前(3151〜3155年)に起きた、魔族と人類との戦争。その最終局面での魔素暴走で魔法使いの6割が戦死。そのため、現在は魔法使いが少ない。また、戦争による荒廃で文明が停滞してしまった』
あるいは、
『約300年前に起きた、魔族と人類との戦争。人類が追い詰められ、最後の手段として魔素暴走を起こし、魔族を撃退するに成功するも、人類側も魔法使いの6割が戦死。そのため、現在は魔法使いが少ない。
魔法使いは同時に文化・文明の担い手でもあったが故に、以降は戦争による荒廃の影響も相まって、文明が停滞・衰退してしまった。
当時は『対魔族戦争』と呼んだ』
と。
しかし、当時『魔族』と呼ばれていた『北方民族』が国交を開き、『世界会議』に参加するようになって300年以上が過ぎた今、彼らを『魔族』と呼ぶ者はいないし、民族間・国家間の軋轢も皆無である。
* * *
「それはひとえにジン様……『2代目魔法工学師』殿のおかげですな」
『森羅』の氏族長ベリアルスが明るい声で言った。
これまでの年月で、わだかまりが解けているだけではなく、『魔導大戦』の原因が、『古代遺跡とその配下』の暴走によるものであると明かされていたのである。
『古代遺跡』の危険性は各地で暴走事故などが起きたことから周知されており、『北方民族』との垣根を取り払うために一役買っていた。
そして何よりも、『初代世界会議議長』であった『大明慈母皇帝』……当時のショウロ皇国女皇帝の尽力も忘れてはならない。
「いえ、各国が真実に目を向け、過去を問わないという英断をくだされたからですよ」
「その英断を下すきっかけをくださったのは『2代目殿』ですよ」
ショウロ皇国皇帝エルンスト・ルプス・フォン・リヒト・ショウロは静かな声で、しかし力強く仁に告げた。
それを聞いていた礼子は、ほんの少し微笑んだようだった。
「ありがとうございます。『2代目』もそれを聞いて喜んでいることでしょう」
仁は深々と頭を下げたのだった。
* * *
「ええ、最後の1つは『魔法連盟』による文明破壊です。これは皆様ご存知のことと思われます」
「そうですね」
「確かにそうですな」
招待客たちは皆頷いた。
「『賢者』シュウキ・ツェツィ殿とその伴侶アドリアナ・ティエラ殿が創始し、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが完成させた『魔法工学』は、『科学と魔法の融合』です」
「うむ」
「そのとおりですな」
「ですから『2代目』は科学を学ぶことの重要性を何度も述べ、そのための援助を行いました」
「……仰るとおりです」
「『魔法連盟』がもたらした惨状はその「科学」を否定したことによるものと言えましょう」
「まったくもってそのとおりかと」
「しかし『アヴァロン』では連綿と、『学問』が受け継がれています」
『アヴァロン』最高管理官、トマックス・バートマンが言った。
「はい、『アヴァロン』はそんな時代の希望でしたね。『魔法連盟』は特殊すぎるケースだと思います」
これは『3代目』としての仁の言葉である。
「『魔法工学師』と『デウス・エクス・マキナ』が不在の時代に現れ、世の中を掻き回したのですから」
「うむ」
「我ら『アヴァロン』と『世界警備隊』そして『世界会議』がもっとしっかりしなくてはいけませんな」
『アヴァロン』最高管理官トマックス・バートマンは、厳しい顔つきで宣言するように言ったのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日2月14日(日)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。
20210214 修正
(誤)これについては、もう少し名称がなんとなからないかな、と思っている仁なのである。
(正)これについては、もう少し名称がなんとかならないかな、と思っている仁なのである。
orz




