第17話 それって、有り?
俺は3takeのことを、今時の時期は多分似合わない白タンクトップを着ていて、多分頭が禿げていて、多分むちむちとした二の腕に剛毛を生やしている年上の男だと思っている。
@3teke>その後、どうですか?
@rens>今のところ平穏です。垢バレした相手と色々あって大変ですけど
@3teke>脅されている?
@rens>そこまではいかないですけど、変な部活の手伝い? させられてます。人捜しみたいなものなんですけど
@3take>部活で、人捜し?
@rens>とにかく、変な部活なんですよ。うち私立なんでそこらへん緩いんですよね
そこからしばらく3takeのメッセージは止まった。俺はその間に軽くクロッキーを描いていた。スケッチブックの一ページが埋まった頃、再びスマホが震える。
@3take>rensさんは、高校生?
あっ……。
3takeとは結構密にやり取りをしているからうっかりしていたが、そういえば俺が高校生であると明かしたことは無いんだった。
これは甲塚に情弱と言われても仕方が無いかもしれない。
@rens>実はそうです
続いて、「他の人には言わないようにしてください」と打ち込もうとしたら、その前に3takeから返信が来る。
@3take>それでは、同年代なんですね 私と
おお……。
何となくやや年上くらいの雰囲気を感じていたが、マジで同年代とは思わなかった。
@3take>てっきり
と、3takeのメッセージが続く。
@3take>タンクトップ着てる感じのおじさんかと思ってました笑
「……」
目線を下げると、たまたま着ていた親父のタンクトップの裾が腰の辺りでたるんでいる。今日はいつも着ている部屋着のTシャツを洗濯していたのだ。
俺は誰に見られているわけでもないのに、黙々と白タンクトップから黒シャツに着替えてベッドに入った。
灯りを消した部屋で、ぼんやりと光るスマホの画面にはこう映っている。
@3take>意外と住んでるとこ近いかもですね笑
@rens>それは出来すぎでしょ藁
*
「甲塚」
就業のベルが鳴るなり椅子を動かす音と鞄を擦る音で溢れかえる教室で、いつもいち早く姿を消している甲塚に話しかけた。
「何よ。これから部活でしょ」
「そのことなんだけど、郁を退部させるってのは本気か?」
「退部じゃなくて、入部テストを課しただけじゃない」
「先生の秘密を探るなんて無茶苦茶な課題、退部宣告と変わらないだろ……」
「くく。入部テストで落ちて強制退部になる、なんてうちの高校では吹奏楽部でもやってるわよ。ねえ? 先生」
「?……っ!!」
背後から何者かに両肩を掴まれて膝が崩れるほど驚いた。慌てて振り返ると、東海道先生がにたあっと笑って立っている。そのまま顔を近づけて、「随分仲がよろしいですわねェ……」と、耳元で囁いてくる。
「いっ、……いきなり背後から触らないでください!」
「これは失礼」と、あっさり俺の肩から手を話す。「それで、何のお話?」
「部活を退部するには相応の理由が必要って言いますけど、入部テストで新入部員落としてる部活ありますよね。それって有りなんですか?」
甲塚の話を受けて、些か東海道先生の顔は暗くなった。
「吹奏楽部のことですわね。確かにあそこは入部テストが存在しますが……」
「前例があるってことは、有りなんですよね?」
「……桜庭高校の方針とは矛盾するようですが、確かに一部の強豪とされる部活はテストの選抜が許可されています。許可されている、とは言っても大々的に許されているわけではなくてですね……」
「つまり、有りなんですね?」
「ですから、あれは暗黙の了解というやつでして、許可されているわけではなくて……」
「ほおら!! 入部テストは!! 有り! 顧問がそう言うんなら文句の付けようは無いでしょ!」
もごもごと口の中で具合の悪い言い訳をする先生を置いて、甲塚が勝ち誇ったように宣言する。
こいつ、こんな調子で東海道先生を顧問に抑えたのか……。
先生は先生で自分が入部テストのネタに使われているとは気付かずにしょんぼりしてるし。きっと甲塚に自分の秘密を握られていることがちらついて強く出られないのだろう。これでは顧問も形無しだ。
「分かった。分かったよ」俺は両手を挙げて降伏の姿勢を見せた。「入部テストは認める。けど、その代わりってわけじゃないけど俺も入部テストの手伝いはさせて貰うぞ」
「な、何ですって?」
「そもそも、俺だって新入部員に違いは無いんだからな。郁の資質を見極めるってんなら、新入りの俺が手伝ったって文句は無いだろ」
ふと気が付けば、帰り支度をしていたクラスメイト達が交通事故を目撃したような顔で俺たちを見つめている。
クラスの珍獣枠が二人、担任を交えて言い合いをしているのだ。彼らが唖然とするのも無理はないだろう。
「こ、甲塚?」
甲塚も周囲の様子に気が付いたらしく、むっつりと俯いて口を開かなくなってしまっている。
「……」
「おーい」
周囲の目線を無視して尚も声を掛けると、凄味のある一睨みが飛んできた。とはいっても顔はすっかり赤く染まっているから彼女の脈拍が跳ね上がっているだろうことが容易に想像出来る。
やはり、甲塚は本来こういった気質の女子ってことなんだろうか。他人の『弱み』を手中に収めることで、他人に心を開くことができる――
「好きにすればっ」
甲塚は吐き捨てるようにそう言って、自分の鞄を引っつかんで教室を出て行ってしまった。
――『弱み』を知らなければ他人を自分の領域に入れない。それって、ちょっと寂しいことなんじゃないだろうか。
「甲塚さんったら……」
東海道先生は、母親のような顔をして溜息を吐いた。
「……」クラスメイトの視線の中で、女子を怒らせた形になってしまった。半ば言い訳するように、「何をあんなに躍起になってるんだか」と誰にともなく呟く。
「甲塚さんは、ああ見えて人一倍怖がりなんですわ。分かってあげてくださいな」
先生は先生で甲塚に弱いのか甘いのか分からないし。
「……ところで、宮島さんに課した入部テストというのは?」
「それは部外秘なんで」
「わたくし顧問なんですけど!?」




