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転生したら劉備の弟だった  作者: ほうこうおんち
第六章:新勢力台頭
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幽州の風雲

 青州における経済立て直しは、近隣諸侯を驚かせる。

 冀州と并州を支配する袁紹、兗州・豫州そして洛陽を含む首都圏・司隷校尉部を支配する曹操は、同じやり方を部下たちに示した所、無理だという回答を得た。

 人口と経済規模が理由である。

 漢の東端に在り、しかも戦乱で人口激減の青州だから、ローカル通貨という方策も可能だったのだ。

 より経済規模が大きく、富裕層も貧民も数が多い上に他州への影響が大きい地で行うとなれば、劉亮が持っている黄金保有量の十倍以上は必要になるだろう。

 まして紙幣というか約束手形のようなものは、青州で管理している発行枚数どころでは済まなくなる。

 管理し切れないのだ。

 仕方なく両陣営は、布を貨幣代わりにしたり、穀物同士の等価取引を許可する従来のやり方で我慢をする。


 一方、同じやり方で対応可能な地域も在った。

 幽州涿郡である。

 ここも人口が少ない上に、宦官時代の苛斂誅求の被害も中央程大きくは無い。

 更に砂金を持って来る遊牧民との取引ならば、幽州の方がしやすい。

 そして幽州劉氏が住まう涿郡では「涿郡兌換」という、劉元起が信用を保証する地域限定紙幣で、市場が活況を呈するようになっていた。

 地域限定の商品券のようなものだが、狭い地域でも経済を回すには良いカンフル剤だ。

 なお、この紙幣というか商品券は、張飛の師である王養年のデザインであり、絵が上手過ぎて青州とは逆の意味で偽造困難なものだった。


 劉虞は涿郡や青州での劉亮のやり方を評価し、これを幽州全体に広めようと考えたが、これに対する抵抗勢力があった。

 金貨の材料たる砂金をもたらす遊牧民を敵視する公孫瓚である。


 公孫瓚は財務を一切考えていない。

 必要なのは軍需物資である。

 袁術が没落しつつあっても、今更袁紹との戦いを止める訳にはいかない。

 若き日に経験した遊牧民の野蛮さから、交易するとか宥和政策等はもっての外だと思っている。

 盧植門下で儒学を修めた為、こういう通貨政策なんかを穢らわしいものとも考えている。

 だから袁紹との小競り合いを続ける一方で、劉虞に対しても嫌がらせを続けていた。

 嫌がらせでもあるし、折角の食糧を遊牧民に渡して砂金を得る等勿体無いから、自分の物として奪っていた。

 劉虞はイラつき、いつしか公孫瓚討伐の意思を持つようになる。


 そして公孫瓚を焚きつけるような事を、曹操が仕掛けた。

 幽州は、涿郡を劉備親族衆が、代郡と上谷郡と広陽郡を劉虞が、漁陽郡・右北平郡・遼西郡を公孫瓚が、残った遼東郡・玄菟郡・楽浪郡・遼東属国を公孫度が領有している。

 劉虞・公孫瓚の激しい対立地域、どっち着かずの涿郡、漢から半独立状態の公孫度領という図式である。

 公孫瓚と公孫度は棲み分け可能だ。

 公孫瓚の遼西公孫氏は禄二千石の上級の官僚の家系。

 公孫度の遼東公孫氏は遥か下の官吏の家柄で、苗字が同じなだけで祖先は異なる。

 血縁関係が無い上に、公孫度は朝鮮半島に入り込んだ、漢から見たら「異民族の土地」の支配者であり、公孫瓚からしたら対抗意識すら持たない格下の相手であった。

 一方の公孫度も中原での勢力争いに興味が無く、自立志向の存在。

 そんな公孫度に対し、曹操は武威将軍・永寧郷侯の地位を与える。

 公孫瓚には何も無い。

 公孫度も地位に不満を持っていたが、それすら無い公孫瓚は更に怒りを募らせている。

 曹操は独立勢力として袁紹と並び立っているが、それでも公孫瓚から見ればこの二人は友人同士で、手を組んでいるように見える。

 より一層袁紹への敵意を募らせ、戦意を高めていた。

 そして袁紹との戦いに必要な食糧を北方民族に売り飛ばす、袁紹が担ぐ劉虞を滅ぼそうとする意思も。




「子敬、体の方は良いのか?」

「いや、駄目だよ。

 だから私の命なんて惜しくはないんだよ、元起」

 日常生活は可能だが、農作業も軍事行動も出来ない劉敬が、矛を振っている。

 完全に幽州劉氏の取り纏め役になっている劉元起が、そんな劉敬に声を掛けたのだ。

「頼みがある」

 矛を木に立て掛け、劉敬が語り掛ける。

「場合によっては聞けないぞ」

「そう言わんでくれ。

 部曲を百人程でいいから貸して欲しい」

「お前は戦える体ではないのに、何をするつもりだ?」

「そうさ、私は戦えたりなんかしない。

 だから殺されに行くのさ」

「そんな奴に兵なんか貸せるか!」

 自殺願望とも取れる劉敬の発言に、劉元起が目を剥く。

 劉敬は涼しい顔で話を続けた。

「私が殺される事で、若い奴等のしがらみを解く事が出来るのだがな」

「……何を考えているんだ?」

 劉敬は東の方を向く。

「劉虞殿と公孫瓚殿は早晩戦う事になるだろう」

「そうだな。

 我々のように全方位に良い顔をし、戦争には関わろうとしなかった者ですら、そういう機運を感じるくらいだからな」

「玄徳、叔朗、あとお前の倅の徳然は北平太守(公孫瓚)とは同門だ。

 特に玄徳は兄弟のような付き合いをしていたそうだ。

 玄徳はそういう義を断てぬ男。

 玄徳が一個の勢力として立つには、義理人情で繋がった縁は時に邪魔になる」

「で、その縁を断つ為にお前は大司馬(劉虞)の下に駆け付け、戦死しようとでも言うのか?」

「話が早いな。

 幽州大司馬の劉虞殿は宗室、同じ劉氏だ。

 玄徳はまったく有難がっていないが、それでも同族の誼みはある。

 もし玄徳が友人との関係を選んで、宗族の劉虞殿を攻めたなら、その時点であいつが積み上げて来た名声は失われるだろう」

「確かに、大司馬は一時は六州の纏め役を任されそうになった程の皇族の重鎮。

 北平殿は僭帝、逆賊袁術の味方だ。

 大司馬には冀州殿(袁紹)が味方している。

 冀州殿と北平殿では、冀州の方が強い。

 公孫瓚殿は早晩滅亡するに違いない。

 私なら大司馬に味方するかな。

 何度か負けるかもしれないが、最後には大司馬に味方した事が効いて来るだろう」

「だが玄徳にはそれが出来ん。

 あいつにとっては、そういう計算よりも友への仁義とか、これまで助けて貰った者への恩とかの方が重要らしい。

 叔朗は、この前話してみた感じでは、北平殿より大司馬、いや冀州の方を向いていた。

 だが、あいつとて世話になった公孫瓚殿を見限るのは気が引けるようで、何とか三者が戦わないよう四苦八苦している。

 明らかに公孫瓚殿からは避けられておるのにな」

「甘い、と思っているな?」

「ああ、甘い。

 叔朗は、どこか超然とした感じで先の事を見通しているが、一方で調和を重視して戦を極力避けたがる。

 必要とあらば戦いも辞さないが、どこかに話せば分かり合えるという甘い考えを持っている」

 劉敬は、劉亮の中の人の事情なんかは察してすらいないが、前世日本人に染み付いている「平和主義」「軍事は最終手段」という部分には気づいてしまった。

 更に、顔見知りに対しては非情になり切れない。

 悪人と言われている董卓に対してすら、他者の董卓に対する悪口なんかに同調せずに嗜めるし、貰った刀を大事に身につけている。

 そういう部分が時に、優柔不断で覇気の無い行動になって現れている。

 きっと来る幽州の乱において態度を保留してしまうだろう。

 どちらかに賭けねばならない場面で、保留というのは最悪の選択と言える。

 一方劉備は果断に動く。

 劉備はきっと公孫瓚の味方をする。

 そうなると、折角劉氏に産まれた事で持っている優位性を、同族殺しという事で失ってしまうだろう。

 劉亮に迷いがあれば、劉備を止める事なんて出来ない。

「私は公孫瓚殿とは何の縁も無いからな。

 同族の為に、大司馬という官の方に駆けつける方が筋が通っている。

 そして私が死ねば……」

「玄徳も叔朗も、何よりお前の倅の徳公(劉展)が北平殿を仇と思う。

 そうなれば情に基づいた縁を断ち、飛躍が出来る。

 成る程なあ……」

「愚息には嫁を取らせた。

 孫の顔を見たかったが、それは我慢しよう。

 いずれ産んでくれるさ。

 それ以外は、思い残す事はない」

「お前さんの覚悟は分かった。

 だが、涿県劉氏を束ねる者として、はいどうぞと兵を貸し出す訳にはいかん。

 お前が私の目を欺いて、勝手に連れて行くなら、それは知らなかった事だ」

「感謝する」

「まあ、まだ開戦すらしていないんだ。

 行くまでに時間は有るだろう。

 今日は酒でも飲もうか。

 矛を振る元気があるのに、酒は飲めんとは言わせないぞ」

「いや、矛を振っても腕は上がらんし、肩は痛いし、振り回していると膝がガクガク言ったりと大変なんだ。

 酒を飲むと節々に熱を持つしなあ。

 でも、付き合おう」




 劉亮は、出来れば劉虞には封地である冀州の趙国に移って欲しかった。

 そうすれば確実に生き延びられる。

 一方で劉虞を幽州から冀州に移せば、砂金を手にする交易所を公孫瓚が閉じてしまう事も予測出来た。

 公孫瓚を何度説得しても、彼の北方民族への敵視を変える事は出来なかった。

 公孫瓚は劉亮の事を警戒し、直接対話は拒絶しているし。

 砂金取得窓口を袁紹の側だけにすると、物流の上流を抑える者の言いなりになってしまう。

 それを避ける為にも劉虞には幽州に居て貰いたい。

 ジレンマであった。


 劉亮は現在青州の統治で忙しくて、袁紹・劉虞・公孫瓚の関係改善を斡旋するには手が回らない状態である。

 青州は元州牧・劉備のカリスマと、現州牧・劉亮の「未来の知識を生かした」政策を、優秀な別駕・陳羣が現状に合った形に調整する事で統治されていた。

 元々この地は、戦国七雄の一国・斉の地である。

 しっかり立て直しが出来れば、天下の強国として割拠も出来よう。

 そんな劉亮を助けるべく、陳羣は有為の人材を推挙していた。


「こちらは陳矯と戴乾。

 戦乱を避けて江南に住んでおりましたが、私の招きに応じてくれました。

 何か役職を与えてくれたら有難いです」

「陳羣殿の推挙であれば、間違いは無いでしょう。

 こちらこそよろしくお願いします」

 二人は州牧の謙虚な姿勢に驚き、陳羣を交えた四人で話し合って人となりや適性を共有する。


 陳矯は州の司法を任される。

「劉氏であっても、法に触れるなら容赦しなくて良いです。

 流民であっても、そこに酌量の余地があるなら寛大な裁きをお願いしたい。

 まあ、これは私の希望で、陳矯殿の判断には口を挟みませんから」

 州牧からそう言われて陳矯は恐縮する。


 戴乾は極めて誠実で愚直なタイプであった。

 だから劉亮は、青州で実行している経済立て直しを説明した上で

「これは兌換券の管理帳です。

 この取り扱いをお願いしたいのですが、出来ますね?」

 と言って来た。

 これは金銭問題の要であり、偽造を見破る、既に交換したのに「銭を受け取っていない」という詐欺を防ぐ、頼み込まれて高額の兌換金額を書いたものを乱発行しない、等の仕事をする事になる。

 実直で厳粛な戴乾なら任せられよう。

「謹んでお受けします」

 こうして劉亮は、創造性が無い上に責任は重大、汚職や私服を肥やす誘惑に満ちた仕事を任せられる人材を得てホッとした。

 造幣政策は司法とも関係する。

 恐らく出て来る、通貨に関する犯罪に対しては陳矯が公正に裁いてくれる。

 劉亮の肩の荷が下りた。

 陳羣も、劉亮がこのデリケートな問題に目を光らせている事で、他の仕事に支障が出ていると感じていた。

 だから知人の中でも適した人物を紹介したのだろう。


 劉亮には他にもせねばならぬ事が多々ある。

 面倒事を一個片付けた後は、別の面倒事に取り掛かりたい。

 そちらの仕事で、代理で動いてくれていた孫乾から報告が入った。


「劉虞殿が兵を集める布告を出しました。

 恐らく公孫瓚殿が劉虞殿の居城・薊(後の北京)に隣接する城を築き始めた事に対する反発でしょう。

 布告は烏桓族、鮮卑族、匈奴、高句麗にも送られています」


 防ぎたかった幽州での争乱は、孫乾が報告をした時点で既に始まっていた。

おまけ:

荀彧「公孫度に将軍の位を与えましたな?」

曹操「辺境を抑えるのに役立つだろう」

荀彧「しかし公孫瓚には何も無し」

曹操「あれは偽帝袁術の仲間だから」

荀彧「公孫度をして公孫瓚の背後を脅かす策ですか?」

曹操「そんな殊勝な奴ではないだろ。

 公孫度がこの程度で味方になるとは思わん。

 敵に回らねば良い。

 辺境で何事も無ければそれで十分」


こんな感じ。




おまけの2:

劉亮「江南と言えば、張紘、張昭という徐州生まれの賢者が居ますよね?」

陳羣「とっくの昔に孫策に仕えています」

劉亮「やはりですか……。

 しかし、どうして兄はその二人を招聘しなかったのでしょうかね?」

陳羣「殿に余計な事はするなと言ったのは、州牧殿、貴方ですが……」

劉亮「いや、そうですけど……。

 で、でも呂布なんかは家臣に加えたじゃないですか」

陳羣「……殿は来る者は拒まず。

 呂布は来たから迎え入れた。

 二張は来なかったから相手にしなかった。

 御兄弟でしょ?

 そういう方なのはお分かりなのでは?」


最近、慣れて来たせいか、劉亮に対しては割と辛辣な物言いをするようになった陳羣であった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  鐙は作ったのかな?貨幣を作れるくらいだし鐙くらい作れると思うが
[一言] あとがき。 「君と余だ」並みに背中に雷が落ちている絵が浮かぶ。
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