14.有栖とアリス 蘭菜とラーナ
海で遊び終えた有栖たちは旅館の部屋で豪華な夕食を食べることに。
お風呂を堪能して、ほくほくになった私達が部屋に戻ってきた。
この部屋は3人部屋で、10畳程の部屋には液晶テレビ、テーブルが置かれている。 そのテーブルには豪華で新鮮な海の幸を使った海鮮料理が所狭しと並んでいた。
他にも、貴重品を入れておくロッカーなんかも置いてあるが、3人とも使用していない。
エアコンも完備されており、非常に快適な空間である。
私もこんな部屋に住みたいものだ。
「ふあぁ!」
よもや、灰色の青春を送っている貧乏学生の私が、こんな豪勢な料理にありつける日が来るとは思いもしなかったわ。
部屋に設置されている浴室を使用していたアルは、今は上がってきており、窓際に置かれている椅子に座りながら外をじーっと眺めている。 ヴィエラザードの事でも考えているのだろうか?
「うーん、美青年だねぇ」
「そ、そうかしら?」
一瞬、窓に映るアルに目を奪われていたのだが、それを誤魔化すように視線を外していった。
私達が戻って来るまで、夕食には手を付けていなかったようだ。 偉い偉い。
「アル、夕食にしましょ」
「ん、あぁ」
私が呼びかけるまで気付いていなかったのか、肩をビクッとさせていた。
珍しいわね。 周囲の気配に常に気を配っているアルが、私達2人の気配に気付かなかったなんて。
平和なこの世界に慣れてきたという事なのかしら? それとも、何か深く考え込んでいたとか?
私のそんな気掛かりを他所に、テーブルの料理に目を輝かせるアル。 いつも私が出す夕食とは、雲泥の差だし仕方がない。 かくいう私も、先程から早く食べたくて仕方ない。
私達、3人はカニやらエビやら、なんだか良く分からない刺身やらが乗ったテーブルを囲み、夕食を頂くことにした。
「これ、ジャイアントクラブか? この世界の魔物は皆小さいんだな」
「魔物じゃないって何回言えばわかるのよ」
「うっせーなぁ」
「なっ!」
う、うっせーですって? 今までこんな文句言わなかったのにどうしたってのよ?
「これこれ、せっかくの旅行で喧嘩なんかやめておくれよー?」
「別に喧嘩なんてしてないけど」
「……俺がこの世界の物をどう呼ぼうが勝手だろ?」
「そ、そうだけど……」
な、何よ、どうしたのよ? 私何かしたかしら……? 今日一日の事を振り返ってみても特にアルを怒らせるような事はした記憶が無い。
な、何なのよ……。
その後も、なんだか私にだけツンケンした態度を続けるアルにやきもきする時間が続いた。
部屋に居づらくなった私は、食後に逃げるように部屋を出てゲームコーナーで遊ぶ子供達をボーッと眺めて時間を潰した。
子供達もゲームコーナーから姿を消してしまい、一人で座っていても仕方ないので部屋に戻ることにした。
部屋の前まで来て、ゆっくりと扉を開ける。
扉を開けて中に入ると襖が一枚あり、その向こうに部屋があるのだが襖に手を掛けた時、中から二人の話し声が聞こえてきた。
「なぁ、いつまでこんな態度で居続ければいいんだ? 俺、有栖に怒られちまうぞ? 蘭菜は知らないかもしれないが、あいつ怒るとめっちゃ怖いんだぜ?」
「もうちょっと! もうちょっとで有栖も気になって問い質してくるから! そこで優しく『悪い、ちょっとお前のこと考えてたら自分の気持ちがわからなくなって』みたいなこと言えばいいのよ!」
ピキッ!
あの子はぁぁl そういう事ぉ!
私の不安を煽って、無理矢理アルとの仲を進展させるつもりだったのねぇ! 素直なアルを騙して……悪女め!
「どうしたものかしら……」
と、思案していると、どうやら私の気配にアルが気付いたらしい。
急に声が聞こえなくなった。 だがもう遅い!
私は襖を開けて、鬼の形相を蘭菜に向けた。 蘭菜は「ひぃっ」と声を上げてサササッとアルの後ろに隠れてしまった。
「あ、有栖ぅ! 許してー」
「どうしようかしらねぇ」
指をポキポキと鳴らしながら、一歩一歩蘭菜へ近付いていく。 蘭菜に盾にされてしまったアルも私の顔を見てブルブル震えている。 アリスさんにもこんな感じの表情でボコボコにされたことがあるのかしら?
「おっかねぇ……オーガキングよりおっかねぇ」
「あぁん?」
アルをギリッと睨めつけると、ビクゥッと石のように固まってしまった。
今回、アルは被害者だから大目に見てあげましょう。
私は、素早い動きで蘭菜を捕まえて「おしおき」をするのだった。
◆◇◆◇◆◇
そんなこんなで、いつものアルに戻ってくれたことに安堵した私は、部屋の浴室でサーッと汗を流した後、ふかふかのお布団を敷き参考書を開く。
「ちょっと有栖ぅ! 旅行中まで勉強することは無いじゃないのさぁ」
隣に布団を敷いた蘭菜が、口を尖らせて文句を垂れている。
時間が勿体ないと思ってしまうのは私の悪い癖なのかもしれない。 ついこの間、無理して倒れたばかりだし、そんな私のリフレッシュのために企画してくれた旅行だ。 私は参考書を閉じて鞄に入れた。
「たまには早く寝ようかしらね」
「そうしなそうしなぁ」
「……」
アルは既に目を閉じて眠りについている。
でも多分、深くは眠っていないのだろう……。
私も目を閉じて眠ることにした。
◆◇◆◇◆◇
夢だ。 知らない場所で私は髪を梳いている。
これはもしかしたら?
(アリスさん、アリスさん)
「!」
やっぱりだ、久しぶりにヴィエラザードのアリスさんと繋がったようだ。
「有栖さん?」
(はい!)
「あれ以来、声が聞こえないから心配してたんですよ?」
(どうも、自由に見れるわけではないようで……)
こうやって夢の中でアリスさんと繋がれる条件は良く分かっていない。
それに……。
(すいません、アルにアリスさん達は無事だと伝えると言ったのに、目が覚めるとこうやって話した内容を全く覚えてないの)
「そうなんですか……」
そうだ、気になることがあったのよね。 丁度この部屋にあるみたいだしお願いしてみよう。
(アリスさん、姿見の前に立ってもらえない?)
「姿見ですか? わかりました」
私……いや、アリスさんはベッドから立ち上がり、姿見の前に立った。
そこに映る姿は、肩まで伸びた綺麗な銀髪、ルビーのように赤い目と雪のように白い肌をした美少女。
(本当に私と瓜二つ……)
「そうなんですか?」
(はい)
アルが言ってたのは誇張だと思っていたのだが、これはもはや同一人物だ。 一体どうなってるのかしら?
鏡の前に立つ私そっくりの女の子を見ていると、部屋の扉が激しくノックされた。
(な、何?)
「おそらく、ラーナちゃんでしょう」
そう言って、扉の鍵を開け来客者を部屋に招き入れる。 どうやら、本当にラーナさんのようだった。
慌てた様子で部屋に入ってきたラーナさんは、興奮気味に喋りはじめた。
「わ、私も、以前のアリスさんみたいに、頭の中で変な声がする!」
「えっ?」
(へっ? アリスさん! その声の人の名前を聞いてみてください!)
「え? は、はい。 あの、その声の人はどう名乗ってるの?」
アリスさんは、一瞬戸惑ったが、すぐに返事をして私の言うとおりにしてくれた。
私の予想が当たっていれば、その声の主は多分──。
「えーっと、チキュウのフジミヤラナ?」
(やっぱりだ!)
「有栖さんの知り合いなのですか?」
(私の友人です。 まさか夢の世界で同時に繋がるなんて思ってなかったですが)
「うがー、なんかうるさいよこの声ー」
私はアリスさんにお願いして、私がアリスさんと繋がっている事と、今の状況を説明してもらう。
おかげで、ラーナさんと繋がっている蘭菜は落ち着いたようで「だいぶ静かになった」と言っていた。
「どういうことなんだろうね? 私達の中に、別の世界の人たちの意志が入り込んでるっていうのは?」
「わからないけど……話によると、今近くでアルが寝ているんですよね? それが何か関係しているのかも」
うーん、私の方は今までに何度もアルの近くで寝ているけど、こうやって夢の世界でアリスさんと繋がったのは数えるほどだ。 それ以外にも何か条件があるのかたまたまなのか?
夢の世界から戻ると何もかも忘れていて、夢の世界に戻ってくると前回の夢の内容はしっかり覚えているというのも謎である。
私としては、目覚めた後にアルにこのことを報告してあげたいのだけど。
「私の頭の中の声は『なるほど、アル兄と寝るのは今日が初めてだし、その線はあるかも』とか言ってるね」
「アルと一緒に寝てる?」
ゴゴゴゴゴゴォ……。
なんだか良く分からないけど、アリスさんが怒っているのは伝わってきた。 というか、私にまで伝染してきた。
もしかしてアリスさんってアルの事……。 あいつは片想いだなんて言ってたけど。
(アリスさんってアルの事好きなんですか?)
「っ!?」
ピクッと動きが止まって心臓がドキドキしているのがわかる。 不思議な感覚だ。
でもまぁ、この反応を見る限り間違いない。 二人は両想いである。
(……)
何故か少し胸が痛んだ気がした。 いやいや、これはアリスさんの体だから。
その後、前回のようにお互いの世界の状況を、蘭菜も交えて情報交換した。 だいぶ蘭菜がかきまわしてくれちゃったけど……。
私達は海という場所に遊びに来ていることを伝えた。 どうやらヴィエラザードにはそういったものは無いらしい。
アリスさん達は、前回言っていた通りラルフェという街へ拠点を移したようだ。
しばらくはこの街に滞在し、魔王軍の拠点を探すようだ。
◆◇◆◇◆◇
翌朝、目が覚めると頭がボーッとする。 大事な夢を見ていたような気がするのに思い出せない──。
うーっ、何なのよぉ。
蘭菜も同じようなことを言っている。
どうして思い出せないのかしら、と二人で頭を悩ませるのだった。
今回は蘭菜まで夢の中でヴィエラザードに繋がったのだが、相変らず夢の内容を覚えていない。
一体どうなっているのか?




