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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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84 暗黒騎士が(笑)でもなく強かった件

「終わりだ、冒険者!」


 大上段に振りかぶった闇の剣が、私めがけて振り下ろされる。


 その瞬間、私は視界の隅に動くものを見つけた。


 矢だ。


 突如放たれた矢は、水球の間の入り口からクレティアスに向かって鋭く疾る。


「ぐぉっ……」


 クレティアスの首を狙ったらしい矢は、わずかにそれて、クレティアスの鎧の肩の隙間に突き立った。


 クレティアスが、肩を押さえて振り返る。


 そこには、弓を構えた一人の騎士。


「へへっ、どんなもんだ。俺は弓のが得意なんだよ」


 騎士は自慢げにそう言ったが――


(えっと、誰?)


 一瞬本気でそう思った。


「ハインライン! 無事だったのか!?」


 私に支えられたままのシェリーさんの言葉で思い出す。


(見張りに立ってた騎士さんだ! クレティアスに斬られたんじゃなかったの?)


 騎士は、にやりと笑って言った。


「ばっさりやられましたがね、こいつらが助けてくれたんですよ」


「治癒なら任せるのでち!」


 騎士の背後から、二人のウンディーネが顔を見せた。


 クレティアスが、騎士とウンディーネを憎々しげににらみつける。


「水妖どもか……くそっ、道中なます切りにしたはずだが……」


「水の精霊はあのくらいじゃ死なないのでち」


「死んだふりをして油断させたのでち」


 男の子、女の子ウンディーネが胸を張ってそう言った。


(なるほど。死んだふりをしてクレティアスをやりすごし、騎士さんを助けて、不意打ちをした、と)


 なかなかしたたかな精霊だ。


「よくも俺の邪魔をしてくれたな――」


 肩を押さえたまま、ゆらり、と動いたクレティアスに、


「エーテルショット!」


「ちぃっ!」


 クレティアスが片手で闇の剣を振って私の魔法を防ぐ。


「「食らえっ!でち!」」


 ウンディーネ二人も、クレティアスに向かって水流を放つ。


「こんなものッ!」


 クレティアスは剣を斜めに構え、水流を受け流しつつ後ろに下がる。


 その隙に、私は黒鋼の剣をしまい、無念の杖に持ち替える。


「紫電の柱よ、(たけ)り狂いて我が敵を灼き滅ぼせ!」


 杖でエーテルを増幅し、私は複数の雷の柱を生み出した。

 柱は不規則な軌道を描きながらクレティアスめがけて突き進む。


忿怒の剣(レイジングブブランド)、俺の怒りを力に変えろ!」


 クレティアスが吠えて、紫電の柱のひとつを斬り裂いた。


「おっと、俺のことも忘れるなっ!」


 おどけた口調で言いながら、入り口の騎士がクレティアスに矢を放つ。


「ちぃっ!」


 クレティアスは、剣の柄で矢を弾くが、その隙に私の生んだ雷の柱が、クレティアスの左半身を呑みこんだ。


「ぐぅぅっ……ッかぁぁぁっ!」


 悲鳴を押し殺し、叫びをあげるクレティアス。

 その叫びとともに、クレティアスの左腕を闇の炎が包み、私の雷の柱が砕け散る。


「あははっ、電柱がやられた!」


 ひそかに「電柱」と名づけたこの術は、とっておきのひとつだったんだけど。


 でも、クレティアスのダメージも少なくない。


「なら――無数のエーテルの弾丸よ、絶え間なき魔力の驟雨となりて、我が敵を微塵と化すまで撃ち砕け! ガトリングタレット!」


 私は、無念の杖を握って、無数のエーテルショットを同時に生み出す。

 その数は優に百を超えている。


「な――」


 私の術を察知して言葉を失うクレティアスに、


「行っけぇっ!」


 魔力の弾丸が降り注ぐ。


「ぬ、うおおおおっ!」


 クレティアスは剣と左手を振るい、弾丸を弾くが、その動きにさっきまでの精彩はない。

 肩に食らった矢と、電柱のダメージがクレティアスの動きを確実に鈍くしていた。


 いくつかの弾丸がクレティアスの身体を撃つ。

 エーテルショットは鎧の表面で散らされたが、着弾の衝撃までは消せていない。クレティアスはじわりと後ろに押されてる。


 それでも、クレティアスはエーテルの弾雨を耐えきりそうだ。


 だが、


「――ガトリングタレット、リロード!」


 私は、次の弾丸を詠唱なしで生み出した。

 もちろん、さっきと同じ、百発超の弾丸だ。


「なにぃっ!?」


 クレティアスの顔が目に見えて青くなった。


(人間、凌ぎ切ったと思ったところで増援が来るのがいちばん堪えるからね)


 ゲームだったらクソゲー確定だが、クレティアスの人生がクソゲーになる分にはいっこうに問題なし!

 もう十分クソゲー人生だけどね、この人。


 この魔法、タネを明かせば簡単だ。

 私はエーテルショットそのものを生んだのではなく、エーテルで作った、エーテルショットの発射装置(タレット)を空中にたくさん作り出したのだ。

 弾を補給するには、タレットにエーテルを流しこむだけでいいから、二度目以降は詠唱の必要がないってわけ。

 かなり複雑な術なので、いまのところ杖なしで発動できないのが欠点かな。


「あははは! 何回でもいけるよ! いつまで凌げるかな!?」


「ちくしょうがッ!」


 クレティアスは怒りに顔を染めながら、存外冷静な行動に出た。


 逃げ出したのだ。


「うおおおおっ!」


 エーテルショットが全身を叩くのも気にせず、しかし急所に当たるものだけは弾き、クレティアスが水球の間の入り口めがけてダッシュする。


「なっ、うぇっ!?」


 入り口に立ってた騎士は、矢をつがえる途中だったようで反応できない。


「「く、来るなでち!」」


 ウンディーネ二人が水流を放つが、クレティアスはさらに加速。

 二条の水流のあいまをくぐり抜け、


「邪魔だ、くたばれ!」


「ぐおあっ!?」


 クレティアスが闇の炎に包まれた左手を伸ばし、騎士さんはそれをかわしてすっ転ぶ。

 クレティアスは転んだ騎士を飛び越え、入り口を抜ける。


「「ま、待つのでち」」


 ウンディーネ二人がその背に水流を放つ。

 私からは見えなかったが、攻撃は空振りに終わったようだ。


 私のほうは、シェリーさんを抱えてたので動けなかった。


 私はつぶやく。


「……厄介なのを逃しちゃったな」


 しかも、とっておきにしてた魔法を二つも見られた。


「シェリーさん、無事ですか!?」


 私は抱えたままのシェリーさんに聞く。


「う、うう……なんだこれは……感情の昂りは通りすぎたが、なにかが焼けたように引きつっている……」


 シェリーさんは青い顔でびっしりと冷や汗をかいてる。


「わたちたちに見せるでち」


 ウンディーネの女の子が近づいてきて言った。

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