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不幸少女は二度目の人生でイージーモードを望む。  作者: 天宮暁


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25 気の弱い私の交渉術

 私は、買取所の薄暗い天幕で、買取所のお姉さんと向き合っていた。

 私のまえのカウンターには、ポーションが10本置かれてる。って、私が出したんだけど。


(やさしそうな人だな。

 ぴしっとしててちょっと怖いけど、美人さんだからかな。

 閉店間際だったみたいだから、無理言ったみたいで悪いなぁ。気を悪くしてたらどうしよう)


 私は無駄に気を遣いながら、ポーションを鑑定する買取所の職員さんを観察する。

 胸には木のバッジがあり、盗賊士ギルド員シズーと書かれてた。


「たいしたものね。普通の冒険者なら、一日で数本取れればいいところなんだけど。

 それより、まだなにかありそうな様子ね?」


 感心したように言うシズーさんに、


(だ、出しすぎたかな)


 ポーション10本は一日の収穫としては多すぎたようだ。


(でも、持っててもかさばるだけだし)


 ポーションの空き瓶もたくさんあったが、ダンジョンのなかで全部砕き、穴を掘って埋めてきた。

 空き瓶も日常用途にそこそこの値段で買い取ってもらえるそうだが、中身入りには及ぶべくもない。小銭のために悪目立ちなんてしたくない。


(でも⋯⋯あははっ。全然目立たないのは無理なんだよね⋯⋯)


 今後のために、他のドロップアイテムの買取額も聞いておきたい。

 世間的にはどのていど珍しいものなのか、相場のようなものを知らないと、この先ドロップアイテムを売るに売れない。


(変な人だったらやめとこうと思ったけど、この人はマトモそう。ちょうど、他に人も来そうにないし)


 私は、リュックからオークの睾丸を3つ取り出し、カウンターに置いた。


「これは買い取ってもらえますか?」


「えっ、ちょ、これって⋯⋯まさかオークの睾丸⁉︎」


 シズーさんが目を丸くした。


「は、はい。一応⋯⋯」


 なにが「一応」なのかはわからないが、私は小さくなってうなずいた。


「見せてもらうわよ」


 シズーさんはオークの睾丸をためらう様子もなく手にとって、右目のモノクルでまじまじと見る。


「⋯⋯まちがいなく本物ね。

 あぁ、べつに疑ってたんじゃないの。どんな相手でも鑑定は必ずやるって決まりだから。例外を作るとゴネる人が出てくるからね」


「は、はぁ」


 鈍い反応の私に、


「いまは他に人がいないから教えてあげるけど、ふつう、これはギルドの買取には持ちこまないわ」


「えっ、そうなんですか?」


「そうよ。オークの睾丸は精力剤として貴族に人気があるドロップアイテムだからね。供給が少ないこともあって、直接貴族の代理人に交渉を持ちかける冒険者が大半なのよ。うまくやれば値が釣り上げられるわ」


「私、交渉ごとはあんまり⋯⋯」


「それなら、そういうのが得意で、貴族にパイプがある冒険者に交渉を依頼すればいいのよ。成功報酬で三割くらい持ってかれちゃうけどね」


「なるほど」


 でも、私には交渉人をつかまえるアテもないし。


「ギルドで買い取ってもらうことはできないんですか?」


「できるけど、相場の半値くらいになっちゃうわよ。ギルドの買取価格は最安値だから」


 私はすこし考えてから言った。


「⋯⋯それでいいです」


 私の答えに、シズーさんが慌てた。


「ち、ちょっと待ってよ! そんな買取をしたらあとで上司にどやされるわ!」


「どうしてです? そっちは得をするんじゃ⋯⋯」


「貴族との交渉の手配もしなきゃだし、なにより保管が大変なのよ。

 高価なくせに手のひらに握って隠せちゃうサイズの貴重品を、手グセの悪い職員に盗まれないように保管しなくちゃいけないのよ?

 万一盗まれたらギルドは大損害。そんなリスクは犯せないっていうのが、事なかれ主義の上司の言い分ってわけ」


「は、はぁ⋯⋯」


 そんな内幕を暴露されてもなぁ。


(私としては、安くてもいいから現金化しちゃいたいんだけど。いくらでも手に入るし)


 貴族の下半身事情なんて知ったこっちゃないしね。


 私は少し考えてから言った。


「じゃあ、こういうのはどうですか? ギルドはオークの睾丸が本物であることを証明する証書を発行する。その証書とセットで、明日の朝イチで、睾丸の買取希望者を募るんです」


「でも、安くしか買い取ってくれないかもしれないわよ?」


「そこはオークション⋯⋯競売方式にすればいいかと。いちばん高い値をつけた人に売るんです。ギルドには証書発行の手数料をお支払いします」


「な、なるほど。それならギルドとしてもリスクはないし、あなたもまずまずの収入になる。交渉が得意な冒険者にとっては、自分でオークの睾丸を手に入れる手間が省けるわね」


 なんかすごく感心してるけど、この世界にはなかった発想だったのかな。

 そんなにすごいことは言ってないと思うんだけど。


 私の顔色を見て、シズーさんが言った。


「ふつうは、レアドロを引いたら意地でも手放すまいとするものなのよ。売るにしても自分で直接売って利益を独占したいってわけ。冒険者は強欲だから」


「シズーさんは、どうしてそれを教えてくれたんですか?」


「新米冒険者への情報提供はギルドの義務だから⋯⋯というタテマエもあるけど。あなたがなんか危なっかしくて、つい、ね」


「あ、あはは⋯⋯」


 気をつけていたつもりだったけど、新米だってバレてるね。


「あの、それなら、競売をシズーさんが仕切ってくれませんか? その分の報酬はお支払いしますので」


「わ、わたしが?」


「はい。自分で言うのもなんですけど、私って初対面の人にはたいてい舐められるんです」


「う、う~ん」


 シズーさんは、私の言葉に納得してしまったが、本人を前に同意はできないという顔をした。


「それに、冒険者たちを相手に競りを仕切るのは胆力がいると思うので⋯⋯そういうのに慣れてるかたにお願いしたほうが間違いがないかな、と」


「それは⋯⋯そうでしょうね。でも、いいの? 数ヶ月遊んで暮らせるくらいのお金になるのよ?」


「一時的な臨時収入より、ギルドとの長期的な信頼関係のほうが大事だと思いますので」


「⋯⋯そんなことを言う冒険者は初めて見たわ」


 シズーさんはすこし考える様子をみせる。


 が、それほど間をおかずに言った。


「――わかったわ。任せて。これでも商家の娘だし」


 シズーさんは胸を叩いてそう言い、


「⋯⋯そういえば、あなたの名前を聞いてないわ」


「す、すみません。ミナトです」


 というわけで、翌朝はオークの睾丸オークションが開かれることになった。

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